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other2019.10.23

日本代表がラグビーW杯で教えてくれた感動の先にあるもの

日本代表のラグビーW杯が終わった。

100点満点で1000点あげてもいい。そう思える戦いが、終わった。

今大会を迎えるにあたって、日本代表には、日本には、2つの果たさなければならないミッションがあった。

一つは、決勝トーナメントに進出すること。

もう一つは、この国にラグビー人気を定着させる礎を作ること。

どちらも極めて重要で、かつ極めて達成困難な目標であることはいうまでもない。ただ、どちらがより重要で困難かといえば、それは後者だった。極端なことをいえば、たとえチームが決勝トーナメントどころか決勝まで進出していたとしても、国民の関心が高まらなければミッションはインコンプリートだった。

開幕戦でロシアを下した段階では、前途は相当に多難なように思えた。チームとしての出来が芳しくなかったこともあるが、それ以上に、大会としての盛り上がりがまったく感じられないのが問題だった。

「体感としては、バレーボールのW杯と大差ないかなって感じです」

9月下旬、そういって苦笑していたのは名古屋テレビ(テレビ朝日系)のプロデューサーだった。オリンピックやサッカーのW杯、野球のWBCなどのごく限られたコンテンツを除くと、スポーツ・イベントがテレビ局の枠を超えて共有されるのはあまりあることではない。開幕直後のラグビーW杯は、確かに、NHKと日本テレビにとってだけのビッグイベントだった。

ところが、9月28日に静岡でアイルランドを倒すと、状況は一変した。

まず変化を体感したのは、新幹線で東京駅に到着した日本の選手だったかもしれない。新幹線を降りた彼らを迎えたのは、人垣と拍手だった。数週間前まで、どこにでもいる体格のいいお兄ちゃん、ぐらいの扱いしか受けていなかった彼らは、一夜にして一挙手一投足に注目の集まる存在となっていたのである。

アイルランド戦で人気に火のついた日本代表は、1週間後、凄まじい熱量を伴って愛知県豊田市へと乗り込み、スタジアムだけでなく、豊田市駅周辺をも巻き込む巨大な熱狂を産み出した。

もう、バレーボールのW杯が開催されていることを知らない人はいても、ラグビーのW杯を知らない人、日本が次のスコットランド戦に勝てば決勝トーナメント進出が決まることを知らない人は激減していた。

「今日はね、視聴率40パーセントは堅いよ。ひょっとしたら、もっと行くかも」

そして迎えた10月13日のスコットランド戦は、試合前にしてやったりの表情を浮かべていた日本テレビのプロデューサーの皮算用をさらに超える驚異的な視聴率を叩き出した。

この試合に勝ったことで、そして瞬間視聴率が50パーセントを超えたことで、2つのミッションはコンプリートされた。

90年イタリアW杯まではNHKが渋々中継していただけだったサッカーのW杯予選は、94年から各放送局が血眼になって放映権を奪い合うキラーコンテンツとなり、それはドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜、02年の日韓W杯を経ることでその地位を磐石なものとした。

同じことは、間違いなく4年後も起きる。

4年後のフランス大会では、日本テレビだけではなく、すべての民放が日本戦の放映権争奪戦に名乗りをあげることだろう。日本人はラグビーW杯という新たな熱狂を知った。知ってしまった以上、次も味わわずにはいられない。テレビ局としては、もう絶対に無視することのできないコンテンツとなったのだ。

スポーツ・イベントが放送局の枠を超えるのは簡単なことではないが、ひとたび超えてしまえば、そこからの巨大化、一般化は雪だるまの如し、となる。しばらくの間、ラグビーの人気は安泰といっていい。

だが、この「しばし」という時間は、何もしなくていいわけではもちろんない。

8年前に日本中を熱狂させたなでしこジャパンは、その後次第に注目度を失っていき、いまや世界チャンピオンになる以前とあまり変わらない扱いになってしまった感がある。世界一になったことで注目を集めた彼女たちがその人気を持続するには、世界一であり続けるしかなかったのだが、勝ちなれていない日本サッカーにはそのモチベーションもノウハウもなかった。

だから、ティア1を倒し、ベスト8に進出したことで巨石を動かしたラグビーの日本代表は、今後も、ティア1を倒し、ベスト8に進出する姿を見せ続けなければならない。一度の失敗ならばまだしも、それが2回、3回と続くようであればやがて火は消える。

地元開催という千載一遇の好機を生かすために注いだ時間とエネルギーを、地元開催ではないW杯のためにも注いでいかなければならない。

それができるか、否か。

簡単なことではない。

準々決勝で当たった南アフリカは、強烈に強かった。ベスト8進出が最高のスコットランドやアイルランドとは別次元の強さだった。ティア1という括りの中には"W杯における優勝経験の有無"というさらなる括りがあったことを教えられた完敗だった。

100点満点で1000点をとってみたら、世界の頂点は1万点満点だったことを思い知らされた。

ここまでこなければ、絶対に知り得なかった真理だった。

苦く、しかし貴重な真理を、いまのわたしたちは知っている。

それが悔しくて、嬉しい。

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