フリーワード検索

baseball2025.03.04

新監督・藤川球児率いる阪神タイガース──未知の打撃陣と挑む2025年シーズン

阪神が強くあり続けることの難しさ

スポーツの世界では、弱くなれば多くを失い、弱いままでは手に入らないものがある。

だからこそ、世界中のチームは勝つために全力を尽くし、強化に励む。努力しなければ、待っているのは低迷の未来だからだ。

しかし、阪神タイガースは少し事情が違う。成績に関係なく、ある程度の人気や売り上げが保証されている。他のチームが負け続ければ奈落の底に落ちるのに対し、阪神は順位が下がっても熱狂的なファンが支えてくれる。

その結果、他のチームに比べて「必死さ」や「勝つための執念」に差が出てしまうこともある。

逆に言えば、阪神を常に強いチームにし続けることは、世界でも珍しいほど難しい挑戦だとも言える。そんな中で、ここ数年Aクラスを維持しているのは、阪神のフロントがしっかりとチームを支え、強化に取り組んできた証拠なのかもしれない。

その転機となったのが、金本知憲監督の就任だったと私は考える。

いうまでもなく、金本は広島出身の選手だ。資金力に乏しく、移動面でも不利な環境にありながら、それでも巨人や中日と互角に戦ってきた広島カープのDNAを持つ男だった。

阪神で長くプレーし、ファンからも愛される存在となった彼だが、同時に「阪神」というチームの特殊性や独特の空気感を、外からの視点で理解していた数少ない人物だった。


阪神を変えた金本体制──“天下餅”への道

阪神タイガースは、金本知憲監督を迎えたことで、それまでとは異なる道を歩み始めた。

特に象徴的だったのは、自前の選手育成に対するアプローチの変化だ。

それまでの阪神では、引退した選手が在阪メディアでの評論活動を経て指導者に復帰するという流れが一般的だった。

しかし、金本体制では、その慣習にピリオドが打たれた。

チーフコーチの平田勝男を除き、1軍コーチ陣は全員、阪神以外のチームでの経験を持つ人物で構成された。八木裕、桧山進次郎、関本賢太郎といった生え抜きOBは、最後まで指導者として声がかからなかったのだ。

この新たな体制は長期政権になる可能性もあったが、結果的には3年で終焉を迎えた。最大の要因は3年目の最下位転落だが、それだけではない。

藤浪晋太郎を懲罰的に登板させ続けたことに象徴される“昭和的な気質”が受け入れられなかったことも大きかったと私は考えている。

一方で、星野仙一監督という“昭和の象徴”のような人物は、最後まで阪神ファンに愛され続けた。つまり、結果さえ伴えば、ファンやメディアの評価はまったく違ったものになっていた可能性がある。

しかし、3年間の成績は4位、2位、6位。この結果では、金本体制を擁護する声が広がることはなかった。それでも、金本時代がなければ、今の阪神はなかった。たとえば、周囲の反対を押し切って獲得した大山悠輔の成長は、その最たる例だろう。

阪神にとって幸運だったのは、当時の2軍監督が、金本の大学時代からの盟友であり、同じく阪神以外での経験を持つ矢野燿大だったことだ。

矢野監督は、金本が蒔いた種を育てるとともに、走塁面の強化に力を注いだ。さらに、選手を上下関係ではなく対等な関係として接し、出場機会を分け合うスタイルを導入した。このやり方には賛否があったものの、結果として選手層は厚くなった。

そして、そのチームを継いだのが岡田彰布だった。

評論家時代の岡田は、金本や矢野のやり方に批判的な姿勢を見せていたが、実際には、彼らの築いた土台があったからこそ、岡田の手腕が最大限に発揮されたとも言える。

興味深いのは、金本・矢野時代に飛躍的に増えた盗塁数が、岡田体制の2年目で激減したことだ。岡田監督は「失敗を嫌う」タイプであり、無理な盗塁を避ける戦略を取った結果、チームの走塁スタイルは一変した。

そして、盗塁が多かった1年目は優勝し、激減した2年目は2位に終わった。

これは、単なる偶然なのだろうか?

金本が土台を作り、矢野が育て、岡田が采配を振るった。そのすべてがあったからこそ、2023年の日本一が実現した。

まさに──「織田がつき 羽柴がこねし天下餅 座りしまに食うは家康」という故事になぞらえることができる。

誰一人欠けても、2023年の日本一はなかった。これはもう、疑いようのない事実だ。


「藤川阪神」はどう戦う?成功と不安が交錯する2025年の展望

「だから、今年は難しい。」

阪神タイガースの2025年シーズンを前に、そんな言葉が頭をよぎる。岡田彰布監督のもとでリーグ制覇を成し遂げた阪神が、昨年末、藤川球児新監督を迎え、新たな船出を迎えた。

しかし、その戦い方はどこか懐かしさを感じさせるものだった。

現役時代はキャッチャー矢野燿大に心酔し、評論家時代は岡田監督を立てる発言が目立った藤川監督が実際にやろうとしていることは、どちらかと言えば矢野監督寄りに見える。

選手との関係はよりフラットになり、一人の選手に複数のポジションを守らせる起用法も復活。さらに、岡田体制下ではタブーとされていた内外野の連携スタイルも再び取り入れられた。こうした変化は、選手たちにとって「監督との距離が縮まった」と感じられる要素かもしれない。

特に、岡田監督と微妙な関係にあった佐藤輝明には追い風となるかもしれない。星野仙一監督時代に覚醒した今岡誠のように、佐藤が解き放たれたかのような大爆発を遂げる可能性はある。

だが、雰囲気が良くなることが必ずしも結果につながるとは限らない。岡田監督時代の2年間で、阪神の選手たちはそれを痛感したはずだ。


極論を言えば、「大好きな勝てない監督」よりも「大嫌いな勝てる監督」の方が、プロの世界では評価される。選手にとっては居心地がいい環境でも、それが勝利につながるとは限らないのだ。

フリーライターとして30年、「優勝は阪神」と言い続けてきた。だが、2025年に関しては驚くほど自信がない。

その理由を突き詰めていくと、結局「打てる新外国人がいない」ということに行き着く。

阪神は過去にもフォード、メンチ、ロハスといった助っ人が期待を裏切ってきた。しかし、それでも開幕前には「もしかするとやってくれるのでは?」という希望があった。昨年も、日本シリーズで活躍したノイジーや、伸びしろのあるミエセスに一縷の望みを託すことができた。

だが、今年の新戦力は完全なる未知数。この不安を払拭する材料が見当たらないのだ。

歴史を振り返ると、徳川家康は豊臣家を滅ぼした後、長期政権を築いた。だが、プロ野球はそうはいかない。

今オフ、巨人は中日から超絶クローザーを獲得し、横浜DeNAはサイ・ヤング賞投手を補強した。戦力図が大きく動く中で、阪神は昨年の「天下餅」を食い終えた後の状態にある。

つまり、「ポスト天下餅」が見えない。

そういうわけで、夏を過ぎても優勝争いに残っていなければ、今年は静かに見守ることにする。

来季に希望が持てるAクラスならよし。うん、よし。

BUY NOW

SEARCH フリーワード検索