Jリーグ2025展望──新風か、連覇か。群雄割拠の戦いが幕を開けた

たぶん、岡山あたりでは少し違うのかもしれない。もしかすると、野球王国・高知でも盛り上がっているのかもしれない。だが、東京で生活をしている限り、「さあJリーグが開幕するぞ」といった盛り上がりはあまり伝わってこない。いや、もちろん熱心なサポーターにとっては待ち焦がれた開幕なのだろうが、個人的な肌感覚でいうと、6年前、ラグビーのW杯が開幕したときにも似ている気がする。スタジアムは盛り上がっている。けれど、一歩外に出たら……という感じなのだ。
ただ、心配はしていない。まったく、していない。
Jリーグが発足して30年ちょっとが過ぎたが、では、プロ野球が設立30年ぐらいの時期はどうだったか。パ・リーグの球場は閑古鳥が鳴いていた。いまでは満員の甲子園が当たり前になった阪神でさえ、巨人戦以外はガラガラの試合がほとんどだった。
そのことを思えば、試合数がプロ野球に比べると圧倒的に少ないとはいえ、J2、もしくはJ3であっても5ケタの観衆を集めることのあるJリーグは、まずまず順調に育ってきている。現時点でのNPBとJリーグを比較して「だからサッカーは人気がない」と決めつけるのは、いささか早計に過ぎるとわたしは思う。
Jリーグの現状をよしとしているわけではない。やれること、やらなければならないことはまだいくらでもあるはずだし、新しいことに挑戦しようとする姿勢の感じられないクラブが少なくないことには強い不満も覚える。
それでも、大物選手を獲得する以外に何のアイデアもないチームがほとんどだった創成期を思えば、いまは隔世の感がある。まだまだ時間はかかるだろうが、いずれJリーグの開幕がNPBに負けないぐらいの関心の注目を集めるようになることに、わたしは何の疑いも持っていない。
もちろん、さらなる飛躍を遂げるためには様々な起爆剤が必要になってくる。プロ野球で言えば王・長嶋の出現であり、Jリーグの影響を受けた上での地域密着であり、さらにはWBCを始めとする国際大会での好成績などが、それまであまり野球に関心のなかった層を引き込んでいった。
だとしたら、今年のJリーグはちょっと面白い。
ヨーロッパや南米では、もともとプロのクラブがあり、その発展の中で代表チームが生まれた。一方、日本では事情が異なる。日本代表というトップチームが人気を牽引し、その影響でJリーグや国内のサッカー環境が支えられてきた。実際、この構図は完全に過去のものになったとは言い切れない。今もなお、W杯での日本代表の成績が、国内サッカーの人気に直結すると考えられているし、実際にそうした側面は残っている。
そして、日本代表の試合でサッカーに興味を持った人たちをとJリーグのスタジアムに足を運ばせるためには、日の丸をつけた選手、あるいはつけそうだと見なされている選手が各チームにいる必要があった。
だが、時代は流れ、日本選手がヨーロッパでプレーすることは珍しくも何ともなくなった。少数の海外組の実力と経験に頼るしかなかった日本代表は、レギュラー全員どころか、控え選手までが海外組で構成されるようになり、Jリーグと日本代表は直接的なつながりをうしなっていった。
今年は、その傾向に変化が見られるかもしれない。
ご存じの通り、今回のW杯最終予選で圧倒的な強さを見せている日本代表は、すでに本大会出場をほぼ確実なものとしている。そして、現時点では「ほぼ確実」な本大会出場が「決定」となった時点で、日本にとっての最終予選は、「絶対に負けられない戦い」ではなく「最悪、負けることが許される戦い」へと変わる。
もちろん、日の丸をつけて戦う以上、どんな状況であっても勝利が求められるのはいうまでもない。ただ、せいぜいFIFAランクの変動ぐらいしか意味を持たない試合であれば、これまでは使われなかった国内組の選手にもチャンスが出てくる。
「いや、本大会を考えればFIFAランクも大切だ」という声は当然あるだろう。だが、この先どんな結果を残そうと、日本の第2シード入りはほぼ確実であり、パーセンテージでいけば、勝ってもう1ランク上がる可能性も、負けて下がる可能性も、それほど大きなものではない。
ちなみに、前回のカタールW杯で日本が酌み分けられたグループでは、スペインが第1シード、ドイツが第2シードだった。では、第1と第2の間に、明確な実力差、実績の違いがあっただろうか。
つまり、第1シードであろうが第2シードであろうが、1カ国は強敵と同居するのは確実で、言い方を変えれば、第2シード以上に入っていれば、危険な相手は1カ国に絞られる、ということにもなる。
グループリーグの突破確率を高めたい日本の目論見は、すでにほぼ達成されている。
というわけで、本戦出場を決めた残りの試合、森保監督はかなりの国内組を起用するのでは、とわたしは見ている。
そうなった際、おそらくは多くのメディア、ファンは懐疑的な目を向けるだろう。「個以内組で大丈夫なのか」と。となれば、選ばれたJリーガーたちにとっての予選は、すでに本戦突破を決めているにもかかわらず、絶対に負けられない、絶対に結果を残さなければならない試合となる。
逆に、海外組の選手たちがてこずったオーストラリア、インドネシアを相手に第一戦以上の結果、内容を残すことができれば、彼らの評価は一気に高まる。するとどうなるか。Jリーグにいけば代表選手が見られるという状況が生まれる。切り離されていた日本代表とJリーグの関係性が、グッと縮まる可能性がある。
日本以上に選手のヨーロッパへの流出が深刻なブラジルやアルゼンチンも、明らかに格下の相手、あるいはすでに予選突破を決めた状況では、国内組を中心に戦うことがままある。アルゼンチンにしろブラジルにしろ、自国出身の人間が指揮をとることがほとんどのため、代表での結果を追い求めつつ、育成の泉でもある国内リーグを大切にしたいとの思いがあるのだろう。
いうまでもなく、森保監督は日本人であり、Jリーグ監督の経験者でもある。
というわけで、スタジアムに吹く風が再び冷たさを帯びるころ、Jリーグの盛り上がりがスタジアムの外にまで広がっているかも……いや、広がっていてくれたらいいなというのが、現時点でのわたしの願望である。
J1に初昇格した岡山には頑張ってもらいたい。J3に上がった高知が、いま一つ火がつかずにいる四国のサッカーに刺激を与えてくれることも期待したい。昨年旋風と賛否両論の嵐を巻き起こした町田のJ1・2年目はどうなるか。
なにより、まだ07年から09年にかけての鹿島しかなし遂げていない3連覇に挑戦する神戸の戦いぶりも気になる。
個人的には、FUJIFILM SUPER CUP 2025で圧倒的な強さを見せた広島、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)第7節で浦項スティーラーズを4-0で下した長谷部新監督率いる川崎フロンターレ、さらに横浜F・マリノスや、選手層の厚みが増した浦和あたりが優勝争いを繰り広げると予想している。そして、激しい戦いの中から、いわゆるスーパールーキー的な存在が出現してくれれば、いうことはない。
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