久保建英、三笘薫、堂安律…欧州での活躍が“当たり前”になった日本人選手たち

ウーゴ・サンチェスという選手をご存じだろうか。
アトレティコ・マドリード、レアル・マドリード、ラージョ・バジェカーノでプレーし、リーガ・エスパニョーラの得点王(ピチチ)を5度獲得した、メキシコの伝説的ストライカーである。しかし、当時の日本ではスペインサッカーの映像がほとんど流れず、彼の知名度はそれほど高くなかった。
一方で、母国メキシコでは絶大な人気を誇った。1986年のメキシコW杯では、「ウーゴがいればメキシコは勝てる」と国民の期待を一身に背負い、CMやメディアでも引っ張りだこだった。しかし、同大会で世界的な脚光を浴びたのは、マラドーナ率いるアルゼンチン。サンチェスはメキシコ人以外の記憶から徐々に薄れていった。
それでも、メキシコ国内では今なお「史上最高のストライカー」として称えられている。彼がスペインで成功を収めたことは、当時のメキシコにとって大きな希望だった。なぜなら、78年W杯で西ドイツに大敗し、ヨーロッパへの憧れと劣等感を抱えていたメキシコにとって、彼の活躍は誇りそのものだったからだ。
これは、かつての日本とも重なる。三浦知良のセリエA挑戦、中田英寿の活躍が日本国内で大きく報じられたように、「海外で活躍すること」がそのままスターの証明となる時代があった。しかし今、日本人選手が欧州でプレーすることは当たり前になり、スターの在り方も変わりつつある。
ウーゴ・サンチェスは、メキシコが世界と肩を並べるための象徴だった。そして日本も、かつて同じ道を歩み、今、新たなフェーズへと進んでいる。
得点を決めても、舞台がチャンピオンズ・リーグであっても、それが国民的なニュースになることはなくなった。国際的評価を高めたメキシコ人が、ヨーロッパでプレーする自国選手の活躍を殊更にとりあげることがなくなったように、日本人にとってもまた、ヨーロッパで活躍する日本人選手が“特別”ではなく“日常”に変わりつつある。
世の中には0歳に見える10歳はいないが、30歳に見える40歳ならばいる。成長初期の変化は見えやすく、成熟してからの変化は見えにくい。いま、日本のサッカーがどの段階にさしかかっているのか。答は明白である。
メキシコにも起こらなかった現象が、日本では見られ始めているのも興味深い。
ここまで日本が圧倒的な強さを発揮しているW杯のアジア最終予選だが、わたしは、久保の出来について軽い不満を覚えている。端的に言えば、レアル・ソシエダでプレーしているときよりも輝きが薄い。もちろん、周囲との関係性や、森保監督の起用法にも原因があるのだろうが、相手に脅威を与える時間、機会が少ない気がしている。
ところが、日本の戦いを報じるスペイン・メディアを覗いてみると、おしなべて久保を称賛……というか、絶賛している。格の違いを見せた。さすがタケ・クボ──。
長い間サッカーを見てきたが、日本人による日本人選手への評価は、欧米のメディアによる日本人への評価より高くなるのが一般的だった。一挙手一投足を見逃すまいとし、プラス・ポイントをもれなく拾い上げてしまう評価と、ざっくりとした印象で語る評価との違い、だったのかもしれない。
つまり、日本での評価が、あるいは人気が、現地よりも控えめという現象が起きつつある。
マインツの佐野はチームにとって不可欠な存在となった。フライブルクとっての堂安は言うまでもなし。バイエルンの伊藤は復帰早々にチャンピオンズ・リーグ出場を果たした。以前であれば日本中が大騒ぎし、熱狂したであろう事案が、現地よりも知られていない。評価されていない。
ある意味、凄いことだとわたしは思う。
確かに、マインツにしてもフライブルクにしても、あるいはブライトンにしてもモナコにしても、ヨーロッパの頂点を狙うようなチームではない。アルゼンチン人であれば、フランス人であれば、騒ぐ気になれないのもわかる。
けれども、日本はW杯の優勝はおろか、ベスト8にすら入ったことのない国である。急速に評価を高めているとはいえ、世界的な立場で言えばせいぜい“勢いのある新興国”でしかない。それにも関わらず、昨今の日本人選手を見る日本人の視線は、少なくともデンマークやトルコ、あるいはコロンビアやチリといった各大陸の中堅国よりも落ち着いているようにわたしには思える。
強いから勝つ、とは限られないのがサッカーの世界である。圧倒的な強さでアジアを勝ち抜こうとしている日本だが、来年、本大会で狙い通りの結果を残せるという確証はどこにもない。
それでも、国民の意識という点において、日本は間違いなく列強に近づきつつある。来年かどうかはわからない。ただ、これまで超えられなかった壁の突破は、カウント・ダウンの段階に入ったとわたしは感じている。
現状はそれほどの日本人選手の活躍ぶりなのである。
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