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football2023.12.27

【2023年日本サッカー界を総括】日本サッカー史上にさん然と輝くであろう、黄金の1年だった

12カ国で争われているW杯の南米予選は、これまでのところ、第6節が終了した。

予選序盤戦最大の話題と言えば、王国ブラジルの大不振だろう。最初の2節に連勝し、まずまずのスタートを切ったのだが、ホームのベネズエラ戦でまさかの引き分けをしてしまったところからおかしくなった。

敵地での連戦となったウルグアイ、コロンビアに連敗し、続く第6節では、ブラジル・サッカー史上初めてホームで負けるという大失態を演じてしまった。しかも、相手は宿敵のアルゼンチン。

アルゼンチンを相手に、史上初めてとなるホームの黒星を喫してしまったのだから、ブラジル国内は大変な騒ぎとなった。というか、いまだ騒ぎは収まっていない。メディアは、ファンは、チームを袋叩きにすることに空前の情熱を注いでいる。

目下のところ、首位を走っているのはアルゼンチン。引退すると目されていたメッシが現役続行を決断し、世界王者となったメンバーがそっくり残った形となっているのだから、この順位はある意味順当とも言える。2位がウルグアイというのも、まだわからないではない。個人的に驚きなのは、南米連盟に所属している12カ国のうち、唯一本大会出場経験のないベネズエラの奮闘(4位)と、6戦終えて唯一の無敗チームが、3月に日本と戦ったコロンビアだという事実である。


ご存じの通り、コロンビアはカタールW杯への出場を逃していた。そんな国相手に1-2で敗れたことで、日本国内では確実に森保監督に対する批判、非難の声が高まっていた印象がある。わたし自身、続投は間違いだったのでは……という思いが頭をもたげていた自覚がある。

ところが、23年の日本代表にとってはこのコロンビア戦が1年を通して唯一の敗戦となった。ドイツを粉砕し、トルコを一蹴し、カタールW杯前に苦杯を喫していたカナダ、チュニジアにきっちりと借りを返したことで、森保監督への逆風は完全に消えた。日本代表のFIFAランキングは10位台に突入し、ランクによってはドイツより格上にするところまで現れた。

いまになって見ればわかる。日本がコロンビアに負けたのは、日本の出来が悪かったから、ではなかった。日本が負けたのは、後にドイツを倒し、ブラジルをも倒す国だった。南米予選6試合を無敗で乗り切る国だった。ひょっとすると、23年の世界最強かもしれない国だった。3月時点でのわたしは、そのあたりを、つまり世界におけるコロンビアという国の立ち位置を、完全に見誤っていた。

見誤っていたのはそれだけではない。森保監督や日本代表の力量についても、わたしの見方はズレていたらしい。

カタールでの彼らの戦いぶりは見事だった。感動もした。ただ、コスタリカ戦はもちろん、勝ったドイツ戦、スペイン戦にしても、前半の戦いぶりには失望もさせられた。それでも勝てたのは、選手や監督が奮闘したのはもちろんとしても、それ以上に運が大きかったようにわたしには感じられた。言ってみればジャックポットを引いたようなもので、再現性は決して高くない。ゆえに、勝ち運を持ったまま森保監督には一度代表から退いてもらい、いざという時のジョーカーとして温存すべきではないかというのがわたしの考え方だった。


だが、現場の感じ方は違っていたらしい。彼らは、カタールで圧倒された時間帯を、自分たちの力不足によるものではなく、「やれるのにやらなかった」と感じていたらしい。つまり、「やればできる」。そんな確信がなければできない戦い方を、ヴォルフスブルクでの日本代表はやった。結果、ドイツ・サッカー連盟は彼らの歴史上初めて、代表監督を任期途中で更迭するハメとなった。

サッカーには、一定の期間だけ、世界最強としか思えないサッカーをするチームが出現することがある。クラブ・レベルでも、「一ヶ月間無敗」だとか、「ホーム10戦無敗」といったチームが世界中のあちこちでチラホラと現れる。

ただ、そういったチームのほとんどは、月や年が明ければ、あるいは連勝が止まれば、それまでの快進撃がウソのようなドロ沼に陥ることも珍しくない。23年の日本代表は、喫した黒星はコロンビア戦での1つだけと、歴史上稀に見る好成績で1年を終えた。それがフロックではないことは、日本が唯一手こずったコロンビアの戦績からも明らかなのだが、だからといって「いよいよ世界王者が見えてきた」とか「アジアカップなんぞはぶっちぎりで優勝だ」と浮かれるには、わたしは弱い日本代表を見すぎたのかもしれない。

つまり、まだ半信半疑なのだ。

強くなったことは間違いない。勝ち負けはともかく、世界のどんな強豪と戦ったとしても、勝負になる次元には到達したらしい。

とはいえ、1年間をわずか1敗で乗り切れるなんてことが2年続けて起こるとは、わたしにはやはり思えない。アジアカップでは思わぬ苦杯を喫するかもしれないし、W杯予選で意外な相手に手こずる覚悟も出来ている。ただ、どれほど苦い結果に見舞われたところで、今年1年間で日本代表の選手や監督がつかんだ自信は、手応えは、消えずに残っていくことだろう。それぐらい大きくて確固たるものを、23年の日本代表は手にした。


日本サッカー史上にさん然と輝くであろう、黄金の1年だった。

だが、越えなければならない壁はまだまだ多い。

日本に勝ったコロンビアは、ブラジルを倒した。しかしながら、日本にとってのブラジルは、依然として特別な存在であり続けている。だから、W杯という本番前に手合わせをしておきたい。スペインやアルゼンチン、メキシコといった、選手たちにも「強敵」と認識されているであろうチームともやっておきたい。親善試合でブラジルを倒したモロッコなども、気になる存在だ。

正直なところ、過去の日本代表のテストマッチは、あくまでも本大会で通用するか否かを測るためのものでしかなかった。日本の実力、立ち位置を考えれば当然のマッチメイクでもあったのだが、今後は、少し基準を変えていく必要があるかもしれない。「通用するか」ではなく、「優勝できるか」を測れる相手といかにして試合を組んでいくか。いままで以上に、協会の交渉力が必要になってくる。

もちろん、そのあたりは協会もよくわかっているはず。その上でわたしが高く評価したいのは、1月1日にタイとの親善試合を組んだことである。

ファンの中には、「なぜそんな格下とやるのか」という声もあるようだが、自分たちが少し強くなったらアジアを見下したのが戦前の日本だとしたら、このマッチメイクの根底にはまったく違った発想が流れている。

ほぼベストのメンバーで臨むという日本側の発表に、タイのサッカーファンは狂喜していると聞く。W杯に出場したことのない国にとって、W杯で見た選手、ユニフォームと戦うほど興奮することはない。そのことを忘れなかった日本サッカー協会の判断が、わたしは涙が出るほど嬉しい。

アジアで図抜けた存在となり、それでもアジアを軽くみることのない日本の姿勢は、日本人以外の日本ファンを増やしていくことにもつながると思う。

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