全カテゴリーが予測不可能の混戦!2024年Jリーグ序盤戦を振り返る
■J1リーグは昇格チームの町田が席巻
サッカーJリーグは、J1、J2、J3ともにシーズンのほぼ3分の1を消化した。そのなかで驚きに包まれているのが、トップカテゴリーのJ1である。
J2から昇格したFC町田ゼルビアが、首位に立っているのだ。
昇格クラブが序盤戦に走るケースは、これまでにもある。ただ、試合を重ねるごとに対戦相手に研究され、少しずつ順位を落としていくチームが多かった。
町田は違うのだ。
試合を消化していくことでJ1のレベルに慣れ、戦いが安定してきている。ここまでの16試合で無得点に終わったのはわずか1試合で、リーグ1位タイの27得点を記録している。一方の守備はクリーンシートと呼ばれる無失点試合が「7」を数え、リーグ最少2位の12失点である。攻守のバランスが整っているのだ。
戦略はシンプルである。青森山田高校を全国屈指の強豪校へ育て上げ、昨年から町田を率いる黒田剛監督は、長身の韓国人FWオ・セフンへロングボールを供給し、彼が競ったあとのセカンドボールを獲得して攻撃につなげるスタイルを徹底させた。相手がタッチライン外へクリアしたら、ロングスローの発動である。右サイドバックの鈴木準弥、左サイドバックの林幸多郎らが、敵陣中央あたりからでも相手ゴール前へボールを入れてくる。さらに、敵陣でのFKはほぼ漏れなくゴール前へ供給する。
相手守備陣からすると、簡単にスローインへ逃げにくくなる。直接FKを与えたくないので、反則に対して神経質にもなる。その結果として町田のアタッカー陣と真っ向勝負を強いられ、町田はオ・セフンだけでなくオーストラリア代表FWミッチェル・デューク、U―23日本代表FW藤尾翔太らが決定力を発揮しているのだ。
守備陣も日本代表GK谷晃生、W杯出場経験を持つセンターバックの昌子源を中心に手堅い。選手層にも不足はなく、このまま優勝争いを牽引する存在となっていきそうだ。
町田を追いかける一番手は、昨シーズン悲願のJ1制覇を成し遂げたヴィッセル神戸である。22年シーズン途中から指揮を執る吉田孝行監督のもとで、FW大迫勇也、FW武藤嘉紀、MF山口蛍、DF酒井高徳の元日本代表カルテットを中心としたチームが、より成熟したサッカーを見せている。そのうえで、日本代表経験を持つMF井手口陽介、川崎フロンターレから加入のFW宮代大聖らの新戦力が融合している。宮代はチームトップの得点を記録している。
16節終了時点では町田、鹿島アントラーズに次ぐ3位だが、得失点差は町田に次ぐ。攻守ともに高水準で、バランスにも優れている。大迫、武藤、宮代ら、試合を決められる選手が複数人いるのも大きな強みだ。
9月開幕のAFCチャンピオンズリーグエリートを見据え、保有戦力の層も厚くした。昨シーズンの成功体験も、勝負どころでチームの支えとなっていくだろう。
町田と神戸を追いかける第2グループは、鹿島アントラーズ、ガンバ大阪、名古屋グランパス、浦和レッズ、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島らが形成する。鹿島は鈴木優磨とチャヴリッチ、名古屋はキャスパー・ユンカー、浦和はチアゴ・サンタナ、セレッソはレオ・セアラ、広島は大橋祐紀と、どのチームも確固たる得点源を持つ。彼らの活躍がそのまま、チームの成績に直結してくるだろう。
ガンバは得点ランク上位に顔を出す選手がいない。宇佐美貴史の4得点が最高だ。こちらは得点源の存在ではなく、リーグ最少失点の守備力を強みとしている。
中位に目を移すと、川崎フロンターレが苦しんでいる。ここ数年は主力選手の海外移籍が続くなかで、20年シーズンと21年シーズンにJ1連覇を成し遂げ、22年シーズンは2位に食い込んだ。リーグ戦で8位に終わった昨シーズンも、天皇杯を制している。
しかし今シーズンは開幕前からDF陣にケガ人が続出し、16試合を終えて4勝5分7敗と黒星が先行している。19歳のセンターバック高井幸大のような新星も登場しているが、喫緊の課題は得点源の固定だ。加入1年目のブラジル人FWエリソン、5月の北海道コンサドーレ札幌戦で来日初ゴールを含むハットトリックを達成したFWバフェティンビ・ゴメスらの爆発が期待される。
J1残留争いは、今シーズンから下位3チームが自動降格となる。これまで以上にシビアな戦いが繰り広げられているなかで、16節終了時点で湘南ベルマーレが18位、札幌が19位、京都サンガF.C.が20位(最下位)となっている。
もっとも、18位の湘南と14位の横浜F・マリノスの勝点差は、わずか1勝分の「3」だ。同時に、そのわずかな差が「J1残留」と「J2降格」を隔てるのも事実である。この時期から勝点にどこまでこだわれるかが、各チームの命運を握っている。
神戸は武藤嘉紀(写真中央)ら経験豊富な選手がチームをリードする
■J2は「超攻撃的」の清水が首位を走る
J2リーグにはふたつの見どころがある。J1に自動昇格できるトップ2を賭けた争いと、J1昇格プレーオフに出場できる3位から6位までを巡る争いだ。
5月26日までに全20チームが17試合を終えて、首位を走るのは清水エスパルスだ。秋葉忠宏監督が指揮するチームは「超攻撃的」を合言葉に4-2-3-1、4-4-2、3-4-2-1のシステムを併用し、J2屈指の攻撃力を発揮している。
元日本代表MF乾貴士、昨シーズン15ゴールのブラジル人MFカルリーニョス・ジュニオらに加え、キャプテンに指名された育成組織出身のFW北川航也がチームを勢いづけている。昨シーズンのJ2で4得点に終わった元日本代表は、得点ランク2位タイの8ゴールを決め、チームを力強く牽引しているのだ。
2位のV・ファーレン長崎は、外国人選手が爆発的な攻撃力を見せつけている。ブラジル人FWエジガル・ジュニオが得点ランク首位の9得点、ブラジル人MFマテウス・ジェズスが同2位タイの8得点を叩き出している。昨シーズンのJ2得点王フアンマ・デルガドは途中出場が多いが、それでも5得点を記録している。
チームを指揮する下平隆宏監督は、横浜FCをJ1へ昇格させた経験を持つ。22年、23年は大分トリニータを率いてJ2を戦っており、J1昇格争いのポイントは熟知している。
3位の横浜FCは守備が固い。10失点はリーグ最少だ。
こちらは札幌と横浜FCをJ1へ昇格させた四方田修平監督が、22年から指揮している。3-4-2-1のシステムは成熟度を高め、5月18日の16節では清水との上位対決を2対0で制した。札幌から期限付き移籍中のDF福森晃斗が、得意の左足からアシストを量産している。
この3チームを追いかけるセカンドグループは混戦だ。ベガルタ仙台、レノファ山口FC、ファジアーノ岡山、いわきFCらが、僅差で競り合っている。その後方でも、複数のチームがひしめき合う。セカンドグループから13位あたりまでは、毎節ごとに順位が入れ替わると言ってもおかしくない。現状では清水と長崎がやや抜け出しているものの、J1昇格を賭けた争いはシーズン終盤までもつれそうだ。
順位表の下へ目を移すと、今シーズンは下位3チームがJ3へ自動降格する。そのため、勝点が伸びないチームの動きが早く、すでに徳島ヴォルティス、水戸ホーリーホック、ザスパ群馬、栃木SC、鹿児島ユナイテッドFCの5チームが監督交代へ踏み切った。
過去にはJ1に在籍したことのある松本山雅FCや大宮アルディージャが、J2からJ3へ降格している。シーズンの折り返しを前にしたこの段階でも、各チームが危機感を募らせるのはそのためだ。J2残留をめぐるサバイバルも苛烈だ。
■1年でのJ2復帰を目ざす大宮が独走態勢
J3リーグでは、大宮が首位を快走している。
クラブ初のJ3を戦う大宮は、熱血漢にして理論派で知られる長澤徹監督を迎え、練習から強度の高さとボール際の激しさ、攻守におけるハードワークなどを追及している。「カテゴリーはJ3でもJ1レベルの練習はできる」との思いがチーム内競争の激しさにつながり、開幕から14試合を終えて10勝3分1敗の好スタートとなった。
1年でのJ2復帰を合言葉とするチームでは、FW杉本健勇が存在感を放っている。近年は不本意な成績に終わっていた元日本代表FWは、守備にも献身的な姿勢でチームの模範となりつつ、持ち前の得点能力を発揮しているのだ。
大宮は元日本代表FW杉本健勇(右から二人目)が得点源に
2位以下は混戦模様だ。得点ランク首位のFW白井陽斗を擁するFC琉球、中山雅史監督が就任2年目を迎えたアスルクラロ沼津、知性派の戸田和幸監督が就任2年目となるSC相模原、J1、J2の複数クラブを指揮してきた伊藤彰監督が統べるツエーゲン金沢らが、J2自動昇格圏の2位以内を争っている。
J1やJ2に比べると、J3はリーグ全体のレベルが拮抗している。それだけに、接戦をモノにできるかどうかがポイントになる。具体的に言えば、チャンスで決め切ることができるか、ピンチをしのぐことができるか。つまりは、ストライカーとGKがきっちり仕事をしていくチームが、J2への扉を開くことになるだろう。
※順位等は2024/5/27現在のものです。
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