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football2022.04.26

三笘薫に思い描いた夢物語が現実になれば、日本サッカー界の希望となる。

誤解を恐れずに言い切ってしまえば、三笘薫は、わたしが最終予選でもっとも失望させられた選手である。

「はあ?」と思われる方も多いだろう。本大会行きのチケットを勝ち取った敵地でのオーストラリア戦、三笘の出来は素晴らしかった。というより、彼がいなければ日本が勝てていたかどうかもわからなかった。文句なしに、あの時点での彼は日本の救世主であり、本大会へ向けての期待の星だった。

だから、ガッカリしたのだ。

サッカーに限らず、スポーツには「人生を変える瞬間」というものがある。そこで結果を残したことで、才能が一気に花開く。本人ですら想像していなかった高みにまでステージが跳ね上がることもある。

わたしはオーストラリア戦で日本を本大会に導くゴールを決めたことで、三笘の人生が激変することを予想した。元日本代表の中澤佑二さんと解説をやらせていただいたニッポン放送の中継中に「スター誕生ですね」と言ったのは、掛け値なしの本心だった。

重圧なく、相手のレベルも低く、なおかつホームで戦えるベトナム戦では、だから、いままで以上に無双してくれる三笘を期待していた。いや、ほとんど確信していた。スターに駆け上がる選手は、間違いなく、この手のチャンスを逃したりはしないものだからだ。


だが、ベトナム戦での三笘は、まったくもって平凡な選手だった。ひどい出来ではなかった、ということもできるが、彼我のポテンシャルの差を考えれば、お話にならないぐらい物足りなかった。賭けてもいいが、あの試合の彼を見て、自分のクラブに欲しいと考えるヨーロッパのスカウトは皆無だろう。

残念すぎる。

まだ世界的な知名度がほとんどない三笘の存在は、W杯を戦う日本にとってちょっとしたジョーカーになりうる可能性を秘めている。パワー、スピードを全面に押し出すドリブラーが主流派になりつつある今、“うなぎ”と呼ばれたかつてのフランス代表のスター、ドミニク・ロシュトーを思わせる三笘のドリブルは、特にドイツのようなチームにとっては極めて有効だとも考える。

というより、三笘の大車輪の活躍なくして、日本の躍進はほぼありえない。

だが、ベトナム戦での三笘の出来は、起用する側の「スタメンで使ってみようか」との思いを著しく冷やすものでしかなかった。三笘自身、試合後は苦いものでいっぱいだったのではないかとも思う。

芽生えかけた飛躍の兆しに、彼は肥料ではなく塩をかけてしまった。


東京五輪の3位決定戦を中継したメキシコのメディアが、三笘のドリブルをみて「まるでネイマールじゃないか」と叫んだという話をメキシコ在住の知人が教えてくれた。初めて見たものをそこまで驚かせる特別な輝きが、三笘のドリブルにはある。

ただ、あのときの3位決定戦もそうだったし、オーストラリア戦もそうだった。フロンターレ時代はともかく、日の丸をつけてプレーする三笘は、まだ交代出場の時しか輝きを放てていない。

使わない森保監督が悪い?もし三笘が本当にネイマールだったとしたら、森保監督だろうが誰だろうが、いまの日本代表で先発させない監督はいない。厳しい言い方になるが、三笘が先発で使われないのは、ネイマールではないから、である。相手の運動量と集中力が落ちた状況でしか活躍できない選手を、わたしはネイマールにたとえる気にはなれないし、ミトマールと呼ぶ気もない。

現時点、では。

幸いなことに、というか当然のことなだが、塩をかけられて萎れてしまったとはいえ、彼の可能性が枯れてしまったわけではない。まったく、ない。

次なる機会は、すぐ目の前にある。


彼が現在所属しているサンジロワーズは、ベルギー・サッカー界屈指の名門だが、1部リーグの優勝からはもう90年近く遠ざかってしまっている。だが、古豪という言葉を当てはめることさえためらわれるほど勝てなくなってしまったチームが、今年はレギュラーシーズンを1位で突破した。

ここでチームを優勝に導くことができれば──。

思えば、本田圭佑が大きな飛躍のきっかけの一つとしたのが、オランダ2部での優勝だった。絶対に勝ちたい、絶対に負けられない状況での戦いを生き抜くことによって得られる経験値は、選手の人生を変えるぐらい大きな意味を持つことがある。

ベルギー・リーグのプレーオフは4月24日から始まる。レギュラーシーズンの上位4チームによる総当たり2回戦制のリーグ戦で、シーズンの王者が決められる。ただ、このプレーオフにはレギュラーシーズンで獲得した勝ち点を半分に圧縮したものが持ち込まれるため、サンジロワーズにはクラブ・ブリュージュに対して勝ち点1、アントワープとアンデルレヒトに対しては勝ち点5のアドバンテージを持ってプレーオフをスタートさせることになる。

つまり、三笘とサンジロワーズがベルギー王者に輝くのは、決して小さな可能性ではない。

わたしが思い描く理想図はこんな感じだ。

5月22日、サンジロワーズはプレーオフ最終戦をホームでアントワープと戦う。レギュラーシーズン2位のチームと、勝った方が優勝というシチュエーション。そこで三笘が大車輪の活躍を見せ、サンジロワーズが87年ぶりの優勝を果たす。

チームの伝説となった三笘はその夏、レンタル元であるプレミア・リーグのブライトンへと戻り、世界最高峰でのキャリアをスタートさせる。


そして、カタールへ。

W杯の本大会組み合わせが決まった時、日本が決勝トーナメントに進出できる可能性は30パーセントぐらいかな、とわたしは思った。もちろん日本に勝っては欲しいが、実力的にはスペイン、ドイツに分があるのは間違いない。ちなみに、このパーセンテージ、前回大会の時に感じていたのとほぼ同じである。

ただ、三笘に関して思い描いた夢物語が現実になれば、このパーセンテージは確実に上がる。

あのドリブルは、ドイツ・キラーたりえる。

わたしは、そう信じている。

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