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football2022.06.02

サッカー日本代表6月シリーズ、死に物狂いで向かってくるブラジルとの戦いを望む。

5月30日、韓国・中央日報(日本語版)にこんなタイトルの記事が掲載された。

『ブラジルサッカースターの熱い韓国観光 江南のクラブで最高級シャンパンも』

記事によれば、26日に韓国入りしたネイマールやダニエウ・アウベス、マルキーニョスやフェリペ・コウチーニョといったブラジル代表の選手たちが、ソウル市内に観光に出かけ、テーマパークのアトラクションや高級クラブでのシャンパンなどを楽しんだという。

ブラジル代表が韓国代表とテストマッチを行なうのは6月2日。別の記事によると、ブラジル側としては試合までまだ時間があること、また早い段階での時差ぼけ解消を狙って昼間の自由行動を認めたとのことだった。

最近ではすっかり聞かなくなったが、以前は派手なナイトライフで浮名を流しながら、試合になれば鬼神のような働きをする選手が珍しくなかった。わたし自身、酒を飲もうがタバコを吸おうが練習をサボろうが、試合でマラドーナになってくれるならすべて許す、というスタンスでサッカーを、いや、スポーツ全般を見てきた。ネイマールが江南のクラブで120万円のドン・ペリニョンを開けたという記事を読んでも、「ふ~ん」としか思わない。

完全なバケーション・モードなのね、としか思わない。

ソウルとサンパウロの間には12時間の時差がある。これ自体は東京とニューヨークの間にある時差とほとんど変わらないのだが、個人的な経験から言わせてもらうと、北米に行く際の時差と、南米に行く際の時差では、間違いなく南米の方がキツい。飛行機に乗っている時間が長くなる分、睡眠のコントロールが実に難しいのだ。

なので、早い段階で時差ぼけを解消しようというブラジル側の考え方もわからないではない。ないのだが、02年の日韓W杯の際、ロナウドやリバウドが六本木や銀座、あるいは江南に繰り出した、という話はついぞ聞かなかった。

本来、サッカー選手にとっての6月とはバケーションのシーズンである。長かった戦いを終え、心と身体を癒す貴重な時間。ただ、近年ではクラブ側が資金集めのため、アジアやアメリカへのツアーを組むケースも増えてきた。いわゆる、“サマー・ツアー”である。

もちろん、タイトルのかからないツアーだからといって、選手たちがあからさまに手を抜く、ということは少なくなってきた。SNSの網が全世界に張りめぐらされた昨今、どんな土地でのどんな試合であっても、熱心のファンの視線は向けられている。昔のように「旅の恥はかきすて」というわけにはいかなくなった。

ただ、そうはいっても、公式戦のようにすべての力を出し切る、というわけではない。公式戦のようにコンディショニングに万全の気を配る、というわけでもない。W杯のように、外界との接触を遮断したりもしない。

ツアー・モードか、はたまたW杯モードか。6月2日に韓国と戦うブラジル代表選手たちの気持ちがどちらにより近いかは、いうまでもない。

ただ、日本としてはどちらであっても一向に構わない。

仮にブラジルがお気楽ツアー・モードで韓国と戦い、あっさりと勝利を収めたとする。当然、日本にも同じモードのまま来るはずで、怖さや凄みは半減する。日本の勝機は増える。100パーセントであろうがなかろうが、ブラジルを倒すことによって日本の選手やファンが手にする自信は大きい。

次に、お気楽モードで戦ったがために、韓国に一泡吹かせられたとする。さあ大変!母国のメディアとファンが激怒する。次の日本戦で汚名を晴らさなければ、自分だけでなく家族の身まで危うくなりかねない。というわけで、全力のブラジルが日本にやってくる。W杯でドイツやスペインと戦う日本にとって、最高のスパーリングパートナーがやってくる。

というわけで、先に韓国で試合をやってくれたおかげで、日本としてはどう転んでも美味しいブラジル戦になるのだが、個人的には、韓国戦でやらかしてから来てくれないかな、と目論んでいる。


深手を負い、半狂乱になって日本を叩き潰しにくるブラジル。それをガッチリと食い止め、胸を合わせた展開から寄り切るようなことがあれば、いまだ日本サッカー界に根付く“強豪コンプレックス”を払拭する最高のきっかけとなる。

06年のドイツW杯の直前、日本代表はレバークーゼンでドイツ代表とテストマッチを行い、2-2で引き分けた。内容的にはほとんど大金星といってもよかった善戦をしたことで、本番へ向けての機運は一気に高まった。

しかし、欠けていた自信が一気に膨らんだ分、初戦の相手オーストラリアに対する警戒を怠ってしまうという副作用ももたらした。結果はご存じの通り、幸運な形で先制しながらの逆転負け。大会終了後、中田英寿は「ドイツ戦で勘違いしてしまった選手が多かった」と悔しげに語っていたものだ。


だが、今回の場合は勝っても負けても、本番のW杯までには時間がある。

痛い目を見たならば、弱点を修正すべく動けばいい。いい目を見たならば、いまだアンバランスな実力と自信の関係性を変えることができる。

確かにブラジルは強い。今回のW杯予選も、強豪ひしめく南米を無敗で突破してきている。

だが、予選敗退に終わった国々が戦う前から白旗をあげていたかと言えば、それは断じてノーである。

リマにブラジルを迎え撃ったペルーは、残り30分を切るまで2-1でリードしていた。予選最下位に終わったベネズエラでさえ、サンパウロに乗り込んでの一戦は終盤までゴールを許さず、ブラジルを大慌てさせた。

ベネズエラは、ボリビアは、パラグアイは、チリは、コロンビアは、日本よりもはるかに強いチームだろうか。

W杯が近づいてくるたびに感じるのだが、この大会に日本が臨むにあたっての一番の敵は、時に敵を過大評価したかと思えば、一転して過小評価したがることもある、日本人ならではのメンタリティなのではないか、という気がする。

そんな日本だからこそ、わたしは死に物狂いで向かってくるブラジルとの戦いを望む。

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