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football2020.08.15

『久保建英のビジャレアル移籍は、1年後にどんな結末を迎えるのか。』

久保建英のビジャレアル移籍は世紀の大失策である──と書いた人、言った人、どこかにいるだろうか。

日本人でもスペイン人でもいい。マジョルカから呼び戻さなかったレアル・マドリーの決断と、すんなりとそれに従った久保の判断に怒りをぶつけた人はいただろうか。

ま、いないわな。

常識的に考えて、マジョルカからビジャレアルに所属先を移したことは、なかなか、いや、相当に順調なステップアップである。

結果的に2部へ降格することになるチームでリーガへのデビューを果たした10代の青年が、わずか1年でヨーロッパ・リーグを戦うチームへ舞台を移す。過去、スペインでこれほど順調なステップアップを果たした日本人はいなかったし、対象をスペイン人、あるいは全世界からリーガにやってくる外国人に広げても、出世のスピードは「とびっきり」と表現してもいいレベルにある。

だが、ここでひとつ問題がある。
久保建英は、常識的な選手だろうか。

答えが「イエス」なのであれば、今回の移籍には文句のつけようがない。確実に一歩、レアル・マドリードでプレーする日が近づいた、と言ってもいい。

問題は答が「ノー」だった場合である。つまり、常識的なレベルを大きく飛び越え、世界的なスーパースターとなる資質を兼ね備えた選手であるとの前提に立った場合である。

ビジャレアルへの移籍は、崖っぷちに追いやられたことを意味する。

レアル・マドリードのようなメガ・クラブにとって、才能ある若手を中堅以下、あるいは国外のチームにレンタルに出すのは珍しいことではない。完全な移籍という形をとらず、保有権を保持したままにするのは、貸し出す才能の将来性に期待しているからでもある。

だが、期待は永遠に続くわけではない。

思い出すのは、かつて「メッシ以上の逸材」とも言われたジオバニ・ドス・サントスの例である。

13歳でバルサの下部組織に加わり、18歳でトップチームに昇格したこのメキシコ人選手は、19歳のとき、約10億円の移籍金でプレミアのトッテナムに移籍する。メキシコでは、彼こそが母国を悲願のワールドカップ優勝に導く救世主だと見る向きもあった。

だが、リーガとはまるで違うスタイルのサッカーに適合できなかったドス・サントスは、ほぼ出番のないまま、加入後わずか半年でチャンピオンシップ(2部)のイプスウィッチにレンタルされた。

ここで大活躍できればまだ逆転の目は十分にあったのだが、イプスウィッチでも輝きを取り戻せなかったドス・サントスは、1年ごとにガラタサライ、ラシン・サンタンデールとたらい回しにされ、完全移籍でマジョルカ入りが決まった4年後には、市場価値は暴落してしまっていた。

23歳になっていたドス・サントスは、マジョルカで奮闘した。29試合に出場して6ゴールは悪い成績ではない。だが、チームはあえなく降格の憂き目にあい、1年でチームを離れることになった。

新たな移籍先は、ビジャレアルだった──。

ドス・サントスがどこで世界の頂点へ続く階段を踏み外したのか。わたしにはわからない。ただ、最終的に世界に名を轟かせるような選手の経歴には、ある種の共通項があるようにも思う。

スーパースターは、足踏みをしない。

アルヘンティノス・ジュニアーズという弱小チームで頭角を現したマラドーナは、そこからボカ・ジュニアーズ、バルセロナ、ナポリでキャリアを重ねた。スポルティングの垢抜けないローカル・スターだったクリスティアーノ・ロナウドは、マンチェスター・Uに渡って才能を爆発的に開花させた。ポーランドの3部、2部、1部でゴールを量産したレバンドフスキに目をつけたのは、隣国ドイツのジャイアント・チーム、ドルトムントだった。

開花する以前の才能が弱小チームでプレーすることはあっても、彼らは例外なく、所属するチームのグレードを上げていっている。

もし若き日のメッシが、クリロナが、ビジャレアルに貸し出されることになったら、きっと、内外から非難の声もあがったはず。今回の久保のビジャレアル移籍にあたり、日本からもスペインからも不満なり怒りの声がほとんど聞こえてこないのは、多くの人が、まだ久保の才能をつかみきれていないからでもある。

ビジャレアルへの移籍は悪い話ではない。けれども、もし来年、レアルが彼を呼び戻そうとしなかったとしたら、それは彼らが久保という才能に見切りをつけたに等しいとわたしは思う。

だから、結果を出すしかない。

マジョルカでの久保は、素晴らしいプレーを随所に見せたものの、チームを降格から救うことはできなかった。

同じことを繰り返してはいけない。

ビジャレアルでの久保は、チームを勝たせる存在にならなければならない。シーズン終了後、“エル・サブマリーノ・アマリージョ(英語でイエロー・サブマリン)”を愛するファンから、残留を懇願されるような存在にならなければならない。

貸し出したことを、レアルの首脳陣に後悔させる存在にならなければならない。

世界のスーパースターになろうというのであれば。

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