「RBだから」強くなったわけではない。アルディージャ好調の理由は「指揮官」にあり

J2リーグのRB大宮アルディージャが、序盤から勝点を重ねている。
J2復帰1シーズン目の好調は、クラブの立ち位置の変化と関連付けられることが多い。昨年10月にレッドブルが運営会社の全株式を取得し、RB大宮はレッドブルのグローバルサッカーネットワークの一員となった。RBライプツィヒ(ドイツ)やニューヨーク・レッドブルズ(アメリカ)、レッドブル・ブラガンチーノ(ブラジル)らの仲間入りを果たしたことで、ピッチの内外で厚いサポートを受けている、といった認識が広まっている。
運営会社が変わったことによる変化は、確かにある。レッドブルグループ内でサッカーにまつわる様々なデータを共有し、チームや選手のパフォーマンス向上に役立てている。長期の加療を要するケガ人が出た場合は、復帰までの方針を意見交換したりもする。
また、クラブハウス内のトレーニングルームの器具が充実し、ランチの提供が数種類のメニューからビュッフェ形式に変わった。エナジードリンクのレッドブルは、自由に飲むことができる。
その一方で、J2復帰にあたって大型補強をしたわけではない。昨シーズンのJ2で2位でのJ1昇格を果たした横浜FCから、センターバックのガブリエウ、左利きのアタッカーのカプリーニを獲得したのがニュースになった程度だ。
だとすれば、J2で好調な理由の本質はどこにあるのか。
長澤徹監督の存在である。
クラブ史上初のJ3降格となった24年シーズンに、長澤監督はまだ大宮アルディージャの名称だったチームを指揮することになった。J2からJ3へ降格して1年でJ2へ戻ることができたのは、過去に1チームしかない。J1、J2の複数クラブで監督やコーチを務めてきた指揮官は、「J2復帰はとんでもなく大変な作業になる」との前提に立ち、チーム作りの柱となる価値観を選手たちに提示する。
「勇敢か~逃げも隠れもせず、堂々としているか。いついかなるときも全力を尽くしているか」
「誇れるか~大切な人に誇れる言動・行動をしているか。何事にもぶれない態度をしているか」
指揮官が示した価値観は、ピッチ上においては現代サッカーの原理原則の徹底として表われていく。ボール際で戦う、攻守の切り替えを速くする、高い強度でプレーする、攻守にハードワークする、といったことだ。
長澤監督は現代サッカーのトレンドをチームに落とし込んでいる
果たして、24年のJ3で25勝10分3敗の成績を収め、1年でのJ2復帰を成し遂げた。
3-4-2-1のシステムで前線から規制をかけ、高い位置でのボール奪取を目ざす。前からハメて相手に蹴らせたら、ボールを回収して攻撃につなげる。
ここで重要なのは、マイボールとなった瞬間に「どこを見るのか」だ。24年シーズンの時点で、長澤監督は優先順位を一番前に置いていた。最短、最速で相手ゴールへ向かう意識を、チームに浸透させていったのである。
それこそは現代サッカーのトレンドであり、レッドブルグループの各チームに共通するものでもあった。24年シーズン途中からクラブの経営に関わったレッドブルは、長澤監督のサッカーを評価したうえで続投を要請したのである。
J2へステージを上げた25年シーズンも、RB大宮は高強度で縦に速いサッカーをアップグレードさせている。開幕節で昨シーズン4位のモンテディオ山形に競り勝つと、長澤監督はこう話した。
「自分たちの立ち位置はしっかり決まっていて、ボールを持ってポゼッションしまくるわけでなく、ドン引きしてカウンターを狙うわけでもない。我々はRBなので、ボールを奪いにいって、必要であれば早く攻めるし、必要であればしっかりボールを握るという、第3の立ち位置をしっかり構築していく」
24年のJ3では、平均ボール支配率が10位で、パス総数は8位だった。その一方で、シュート決定率とクロス総数はリーグ1位、スルーパス総数は3位、チャンスクリエイト総数は4位を記録し、リーグ最多のゴールをあげた。
25年もほぼ同様のデータが弾き出されている。平均ボール支配率やパス総数はリーグ中位でも、シュート決定率、チャンスクリエイト総数、スルーパス総数で上位に食い込んでいる。ボールを持つこと、パスをつなぐことではなく、シュートへ持ち込む、シュートを決めるというサッカーの本質が、明確に追求されていることが読み取れる。
長澤監督は言う。
「相手があるものですから、走行距離、ポゼッション、シュートなどの数字が良ければ勝てる、というわけではない。攻められているから悪い、というわけでもない。自分たちのベストな数字で勝負していく。選手も含めてそこは一致しているので、(RBの仲間入りをしたからといって)変に惑わされることはなく、むしろこれまで以上に自分たちのやり方がはっきりしています」
日本代表歴を持つFW杉本健勇も、献身的に守備をする
チーム作りが属人的でないのも特徴的だ。
センターバックの市原吏音が、U20日本代表の活動で開幕から3試合不在だった。コロンビア人ストライカーのファビアン・ゴンザレスは、開幕戦で負傷してしまった。セントラルMFとして存在感を放つアルトゥール・シルバも、3月下旬から離脱している。
そうした状況も、長澤監督はプラスに転じていく。ルヴァンカップではプレータイムの少ない選手を積極的に起用し、チーム全体の底上げをはかった。
「ケガ人が出ているなかでも勝点を取っていかないと、最終的に(J1昇格へ必要な勝点は)積み上がらない。ベスト・オブ・ベストならどのチームも強いけど、そうじゃないときにどう戦うのかがリーグ戦では大切になってくるので、ラージグループを作っていかないといけない。試合途中から出ていった選手、新たに起用した選手を戦力にしながら勝点を取っていかないと、リーグ戦は乗り切れない。我々はまだまだ成長過程のチームで、RBライプツィヒを見ていると色々とトライしているので、我々も同じかなと」
レッドブルサッカーのマリオ・ゴメスTD(テクニカル・ディレクター)は、「ステップ・バイ・ステップで成長していけたら」と語る。昨年の時点で「数年後のJ1昇格を」と話していたが、RB大宮は周囲の想定を上回るスピードで成長を遂げている。目標達成が前倒しされても、決して不思議ではない。
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