J1でタイトルから遠ざかっても…ヴェルディは独特の存在感を放つ

日本サッカー界の成長を支えてきたのは、このクラブと言っていいだろう。
東京ヴェルディである。
日本初のクラブチームとして発足した読売サッカークラブをルーツとし、Jリーグ開幕以前の日本サッカーリーグで一時代を築いたから、日本サッカーの成長と進化を後押ししてきたのは意外ではない。ここで触れたいのは、クラブの成績がふるわなかった時期にも、優れたタレントを輩出してきたことである。
Jリーグ開幕時の10チームのひとつである「オリジナル10」に名を連ねるヴェルディは、2000年代後半から親会社の経営難や撤退などで予算規模が縮小されていった。J1でタイトル争いを演じるのは難しく、09年から23年まではJ2で戦うこととなる。
即戦力の獲得が難しい状況下で、クラブは「育てて売る」ことに活路を求めていく。ユース出身の選手たちがトップチーム昇格を経て、Jリーグの他クラブへ移籍していくのである。ユースから大学へ進み、他クラブでプロとなった選手も多い。
東京Vのアカデミー出身選手は、「止める・蹴る」の技術に優れる。さらに、球際で戦うことができる。それこそは、どのチームでも活躍できる要因だ。
2025年のJリーグでは、J1の浦和レッズで中島翔哉がプレーしている。東京VからFC東京へ完全移籍し、16年のリオ五輪でU-23日本代表の10番を担った。17年からはヨーロッパと中東のクラブをわたり歩き、日本代表で10番を着けた時期もあった。
23年7月から浦和の一員となっているが、絶頂時のパフォーマンスは見せていない。94年8月生まれの30歳は、再び輝きを放つことができるか。
中島と同学年の前田直輝は、トップチーム昇格後に当時J1の松本山雅FCへ期限付き移籍し、その後は横浜F・マリノス、J2の松本、名古屋グランパスで実績を重ねた。22年1月から23年6月までユトレヒト(オランダ)で海外経験を積み、名古屋復帰と浦和移籍を経て今年3月からサンフレッチェ広島の一員となっている。広島では2シャドーの一角を任され、利き足の左足で違いを生み出す。
前田と同じレフティーのMF大久保智明は、小学校から高校までを東京Vのアカデミーで過ごし、中央大学を経て浦和レッズ入りした。ドリブルが武器の俊敏なアタッカーである。
その大久保と同学年の渡辺皓太は、横浜F・マリノスの中盤を支えている。東京Vのユース在籍時からトップチームで試合に出場し、プロ3年目のシーズン途中にF・マリノスへ完全移籍した。小柄ながら技術の高いボランチとして、J1で実績を積み重ねている。
横浜F・マリノスには中島、前田と同学年のGKポープ・ウィリアムも在籍している。東京Vのトップチームでは1試合しか出場していないが、J1、J2の複数クラブで経験を積んで24年にトリコロールの一員となった。同年のシーズンはJ1リーグ戦25試合に出場し、今シーズンは朴一圭、飯倉大樹の両ベテランと激しいポジション争いを演じている。
渡辺と同じようにF・マリノスに引き抜かれ、J1でキャリアを重ねているのが畠中槙之輔だ。高さと強さを兼備したこのセンターバックは、ビルドアップ時にしっかりとボールを動かすことができる。F・マリノスではJ1リーグ優勝を2度経験し、日本代表にも選出された。今シーズンからセレッソ大阪へ新天地を求めた。
畠中と同学年のDF安西幸輝、ふたりの一学年下のMF三竿健斗は、鹿島アントラーズでプレーしている。安西はポルティモネンセ(ポルトガル)、三竿はサンタ・クララ(ポルトガル)とルーヴェン(ベルギー)への海外移籍を経て、鹿島に復帰している。
どちらも移籍後に日本代表に選ばれたことがあり、攻撃力豊かな安西はJリーグ有数のサイドバックとして認知されている。三竿もプレー強度の高いボランチとして、チームに欠かせない選手のひとりだ。
安西幸輝(鹿島)はJリーグ有数のサイドバックに
鹿島と同じくJ1でタイトルを狙う広島には、井上潮音が在籍する。セントラルMFを主戦場とし、前方へパスを出し入れしながら攻撃のリズムを作っていく。東京Vの選手らしく、相手を見てサッカーができる選手だ。16年から20年まで東京Vに在籍し、ヴィッセル神戸、横浜FCを経て広島でプレーしている。
その井上と同学年の神谷優太は、J1昇格1年目のファジアーノ岡山で貴重な交代カードとなっている。高校2年時にユースから青森山田高校へ編入し、国内の複数クラブと韓国K1のクラブを経て、24年途中に岡山へ辿り着いた。右足の正確なキックが持ち味で、FKやCKのキッカーを務める。
東京Vのトップチームでも、アカデミー出身の選手が存在感を発揮している。
最終ライン中央を担うセンターバックの谷口栄斗は、ユースからトップへの昇格を見送られたものの、国士舘大学を経て22年に当時J2だったチームへ戻ってきた。フィジカルを生かした守備はもちろん、ビルドアップに優れてセットプレーでは得点源になる。1年目から主軸としてプレーし、オフのたびに他クラブへの移籍が噂されるが、25年も最終ラインを支えている。
谷口の一学年下の森田晃樹も、生え抜きのタレントだ。攻撃でも守備でも頼もしいこのMFもまた、プロ1年目から試合に絡んできた。他クラブから強い関心を寄せられるが、23年からキャプテンを務めてクラブへのロイヤリティを示している。局面で戦うことができ、攻撃に違い生み出せる24歳は、読売クラブから息づく遺伝子の継承者だ。
ヴェルディのアカデミー出身者は、J2にも多く見つけることができる。
25年シーズン開幕から勝点を積み上げているジェフユナイテッド千葉で、背番号10を背負う横山暁之はそのひとりだ。ユースまでヴェルディで技術を磨き、北陸大学からJ3の藤枝MYFCへ加入し、点が取れてアシストもできる攻撃的MFとして力を発揮した。24年から在籍する千葉では、ダブルボランチの一角を基本ポジションに効果的に攻撃へ絡んでいる。
千葉とともに好スタートを切ったRB大宮アルディージャでは、34歳のベテラン和田拓也がチームを支えている。主戦場のボランチからサイドバック、ウイングバックまで対応するバーサタイルな選手として、チーム戦術の柔軟性を高めている。
水戸ホーリーホックの左サイドを担うDF大森渚生も、ヴェルディのアカデミーで技術を磨いた。J2の栃木SCで22年にプロキャリアをスタートさせ、今シーズンから水戸に在籍する。左足のキック精度は、J2屈指と言ってもいい。
その大森と同学年の藤本寛也は、ポルトガル1部のジル・ヴィセンテで背番号10を背負う。18年にトップチームへ昇格し、20年夏からポルトガルで研鑽を積む。4-2-3-1のトップ下で、創造性あふれるプレーを見せているのだ。
海外で輝きを放つヴェルディのDNAの継承者は、他にもいる。
ベルギー1部のシントトロイデンで、いずれも23歳の山本理仁と藤田譲瑠チマが23年7月から戦っている。24年のパリ五輪に揃って出場したふたりは、攻撃でも守備でもチームに貢献できるセントラルMFだ。藤田は森保一監督が指揮する日本代表に、パリ五輪後は継続的に招集されている。
ベルギーでプレーする藤田譲瑠チマもアカデミー出身だ
オーストラリア1部のパース・グローリーでは、34歳の三竿雄斗が25年1月の移籍から即戦力となっている。湘南ベルマーレ、鹿島、大分トリニータ、京都サンガF.C.をわたり歩いたレフティーは、ヴェルディユースで培ったインテンシティの高いプレーで、どのチームでも貴重な戦力となってきた。海外初挑戦のオーストラリアでも、合流直後からスタメンに名を連ねている。
ヴェルディのアカデミーで育まれた才能は、カテゴリーや戦術、監督のスタイルといったものを問わない。個人戦術の土台がしっかりしており、アカデミーからプロを意識してきた彼らは、応用力や即興性といったものが高いのである。
25年にJ1を戦うトップチームにも、森田、谷口に加えてアカデミー出身の選手が複数人在籍している。年代別代表に招集されているユース在籍の選手もいる。東京Vのアカデミーは、これからもJリーグで存在感を発揮していくに違いない。
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