30代目から更に“深化”したアシックス GEL-KAYANO 31(ゲルカヤノ 31)
■更にパワーアップしたGEL-KAYANO 31
ドラスティックにモデルチェンジされ大きな話題をさらった前作GEL-KAYANO 30(ゲルカヤノ 30)。今回はさすがにアッパーのみのマイナーチェンジかな、と思いきや、アシックスは立ち止まりませんね。
GEL-KAYANO 31(ゲルカヤノ31)は、前回ほどのビックアップデートではないものの、細部にこだわった仕様のリニューアルモデルとして発売されています。
GEL-KAYANO 31は他のラインナップとしっかり差別化されたそのコンセプトはそのまま、しかも今回はもっと“カヤノらしさ”をより追求して、スタビティトレーナーとしての力強さを強調したような深化したモデルになっている印象です。
では、パワーアップされたGEL-KAYANO 31は、どう変わって、どんな場面、どんな用途に使うモデルのか、そして、どんなランナーにフィットするのか早速、解説していきたいと思います。
■前回モデル、30代目は歴史上も大きく変わったゲルカヤノシリーズ
ちなみに、ゲルカヤノと言えば、シューズ業界でもロングセラーシリーズのひとつ。
1993年にアメリカ戦略モデルでGEL-KAYANO TRAINER (ゲルカヤノトレーナー)からスタート、31年続くロングセラーモデルです。KAYANOの名前の由来は当時のデザイナー榧野氏の名前であることは有名な話ですよね。
それだけに定番としての宿命、ビックアップデートは愛用ランナーに好まれない側面があるのも事実。長年、アップデートと言えば、「変わること」「変わらないこと」のバランス感を重視してきたのがゲルカヤノシリーズだったわけです。
それが前回、ランニングシューズ、スタビリティシューズの概念を覆すくらいの、セレブリティな30作目としてふさわしい大きな改革があったわけです。それも業界も驚く発想の転換、大胆な改革だったというわけですね。
■スタビリティシューズが出現、それがゲルカヤノ
結局、ランニングで怪我がなくならない、これはランニングブームがスタートした70年代から続く大きな問題であって、それをクリアすべく追求されたモデルのひとつがゲルカヤノシリーズのコンセプトです。
ただ、それは、ランナーのフォームやクセなど個別性も関わる問題ですから簡単ではないですし、同時にシューズは、ランナーがランニングを楽しむためのギアでもありますから、それが、コンフォート=快適であることも欠かせないわけです。
その中、徐々に踵の動きをコントロールするコンセプト、踵が内側に倒れないようにして、アライメント(骨の配列)を強固に支えるスタビリティトレーナーが次々に生まれてきます。
それが進化していって、モーションコントロールとかつて呼ばれた踵全体を支配するようなサポートになり、徐々にサポートを片側に絞って軽量感、コンフォート感とのバランス感を狙ったオーバープロネーション対策のシューズが出現しました。
それこそ、まさにゲルカヤノシリーズであり、弟分のGT-2000 12(ジーティー2000 12)と共に、他のラインナップとの大きな差別化できるポイントなのです。
■スタビリティサポートの概念が進化、そして深化
ただ、内側のサポートパーツはどうしても硬度を高くして、踵の動きを抑えることになるので、どうしても他社も含めてニュートラルトレーナーと比較するとコンフォート感が落ち気味、硬めの物体になりがちでした。
それが技術の進化もあり、スタビリティシューズの概念は前回の30代目で大きく進化。従来のように「内側を硬くしてサポートする」から、「内側の素材をソフトでバウンシーな硬度にして、内側に入り過ぎないように“跳ね返す”」という新発想になりました、まさにコンフォート感との両立を目指したモデルになったわけですね。
ゲルカヤノのソール全体のデザインが内外に強弱をつけた3D形状になっていて、そして、その要、ちょうど色が変わった部分を含めて4Dガイダンスシステムという新しい発想のスタビリティになっているわけですね。
■プラットフォームを広げることができる深化
4Dガイダンスシステムの全体デザインは、プラットフォームが広がって、スタビリティ機能が増したとことが大きなポイントになります。
結局、踵の過回内(オーバープロネイト)を抑えるには、ヒールカップのカウンターやソールの硬度など「支えるサポート」と足の接地面積を増やして揺れを抑える「面のサポート」が考えられます。
ストレートラストと言って、シューズのソール形状が一直線になって、そのまま前方方向に強くガイドするスタイルとなっていて、このGEL-KAYANO 31はまさにスタビリティトレーナーの理想、完成形に近づいたと言っていいでしょうね。
反面、27.0cmで約305gと決して軽くない重量で、それもゲルカヤノ。重さは機能性です。用途を考えたらここはポジティブなことです。
ですが、ひとつ付け加えておきたいのは、このようなボリュームのあるソールユニットを一昔前に作っていたら、とてもこの重量では収まらなかったであろうと言うこと。
シューズメイキング技術、素材の選定など最新技術があって、はじめて実現された、まさにこの「理想郷」の機能性バランスを支えているわけです。
■「変わること」「変わらないこと」のバランス感、まさに定番
GEL-KAYANO 31は、ただのスタビリティではなくて、マックスクッション、マックススタビリティモデルと言っていいコンフォート感も両立したモデルです。
それゆえ、靴底全体の厚みも一昔では考えられないマックススタックハイト、そのマックスクッションの屋台骨になっています。
はじめてGEL-NIMBUS 25(ゲルニンバス 25)で搭載されたFF BLAST PLUS ECO(エフエフブラストプラスエコ)はもちろん、PureGEL(ピュアゲル)が踵に搭載され、そして、今回も今までのカヤノシリーズと変わらず、アシックスのメインのラインナップ中では唯一の10mm Drop。緩やかな下り坂のトラディショナルガイドは健在です。
上述4Dガイダンスシステムも含めて、前回「変わったこと」当然のようにラインナップされていて、まさに「変わること」「変わらないこと」がここでもバランス感があるモデルになっていますね。
■アッパーとアウトソールなどディテールに変更点が
今回大きく変わったのはアッパーですね。
エンジニアードニットアッパーからメッシュアッパーに、通気性を重要視した作りに変更されていますが、一言で言って、まさに、先行して1月に発売されたゲルニンバスシリーズの良いところを採用した“ゲルニンバス化“アッパー。
GEL-NIMBUS 26(ゲルニンバス 26)にもある、履くときに引っ張って足入れしやすいと好評のニット製のプルタグをこちらにも採用、その履き口はまさにゲルニンバスの成功体験を継承したデザインになっています。
しかし、ここはゲルカヤノシリーズ。コンフォート重視のニットタンのゲルニンバスに対して、スタビリティトレーナーとしてのしっかり感を演出したオーソドックスなタンを採用するゲルカヤノと、ここはゲルカヤノらしさを持たせた作りになっていますね。
高くて指先が自由になる感覚のトゥボックスも好感、全体的に前回もそうでしたが足入れはゆったり目です。
アウトソールは、2種類のラバーを採用した「HYBRID ASICSGRIP(ハイブリッドアシックスグリップ)」になっていて、踵とつま先部がAHARPLUS(エーハープラス)、その他(黒いところ)がASICSGRIP(アシックスグリップ)になっています。
■GEL-KAYANO 31はどんなランナーにフィットするのか
総論、30代目もすごかったけど、31代目は、前回取り入れたコンフォート要素はそのまま、もっとスタビリティ要素を“進化”させて、マックスクッション&スタビリティトレーナーに“深化”したモデルと言っておきましましょう。
では、どんなランナーに合っているか?
股関節、膝、足首まわりなどその内側の関節トラブルがあるランナー、X脚、体重、体格の大きいランナー、シューズアウトソールの踵内側に顕著な摩耗があるランナー、そんなランナーにはフィットするモデルになる可能性が高いです。
反面、その症状がない方は、アシックスに何故たくさんラインナップがあるかを理解すべきです。ゲルカヤノのようなマックスクッションスタイルで、スタビリティーモデルではなくてニュートラルトレーナーなのがニンバスシリーズです。
その2品番があって初めてより多くのランナーをサポートすることができる、そのように構成されていると思ってください。
■GEL-KAYANO 31はどんな場面、どんな用途に使うモデルなのか
どんな場面、どんな用途で使うモデルなのか?
やはり、レースシーンよりは、デイリーでのトレーニングがフィットするモデルです。
ランニング歴、ベストタイムにかかわらず、LSD(ロング・スロー・ディスタンス)やデイリーマイルを支えるゆっくりペースで使って、10mm Dropのそのトラディショナルガイドを満喫してほしいですね。
ちなみに、普段履きやウォーキングなどジャンプ動作でなければ、このスタビリティ機能はもっと多くのランナーにフィットするでしょう。私自身、オーバープロネーターではないので、ウォーキングでの良さを実感しています。
ただ、もちろんですが、マラソン完走を目指す、そして上記のような足のトラブルが出やすいランナーなら、「すべてのランナーにマラソン完走を」というゲルカヤノが長らく持ち続けているコンセプトにも合致しますから、レースデイシューズにもなり得るわけですね。
これを読んで、私に合っているかもしれない、と感じたランナーは、是非足入れをしてみましょう。また、以前履いていて、でもやっぱり必要かも、というランナーも、以前とはまるで違うコンフォート感がそこにあるはずです。
今までに感じたことがない安定感、安心感を感じること間違いありませんよ。
<著者プロフィール>
ランニングシューズフィッティングアドバイザー
藤原岳久( FS☆RUNNING(旧 藤原商会)代表)
日本フットウエア技術協会理事
JAFTスポーツシューフィッターBasic/Advance/Master講座講師
足と靴の健康協議会シューフィッター保持
・ハーフ1時間9分52秒(1993)
・フルマラソン2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン)
・富士登山競走5合目の部 準優勝(2005)
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