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baseball2022.07.08

ダルビッシュ有の未来予想図。もう一度、日本ハムのユニフォームを着るのか?

客寄せパンダ、という言葉がある。

どういうわけか日本ではネガティブの意味で使われることが多い言葉だが、個人的には、いま日本のサッカー界に一番欠けている発想ではないかと思っている。

そもそも、客を集めるためにパンダを連れてくることの何がいけないのだろう。

プロ・スポーツが興行としての意味合いを強く持っている以上、運営する側が新しい魅力を顧客に提供しようとするのは当然のことである。なぜプレミアのビッグクラブは、スペインの2大チームは、毎年のように過剰なほどの戦力を補強しようとするのか。

従来からのファンに新たな魅力を提供しつつ、新たなファンを獲得するためである。

発足当時のJリーグには、そうした発想を持つクラブが多かった。なぜ住友金属はジーコを呼び、古河電工はリトバルスキーを、トヨタ自動車はリネカーを連れてきたのか。理由はもう、言うまでもあるまい。

ところが、横浜フリューゲルスが消滅したあたりから、Jリーグの各クラブは未来への投資よりも現在の収支を重視する方向に舵を切った。財政基盤の脆弱なクラブにとっては必要なことだったが、本来であれば舵を切る必要のないクラブまでが、右へ倣えで「身の丈にあった経営」しか考えないようになってしまった。発足当時、新鮮な魅力に満ちていたJリーグと日本サッカーは、いつしかファン層の高齢化が嘆かれるまでになってしまった。

その点、興行の歴史の長いプロ野球は違う。

阪神ファンからすれば忌ま忌ましいだけでしかなかった巨人の金満補強も、見方を変えればバルサやレアルがやっているのとほぼ同じことである。巨人に限らず、多くの球団が「来年はどうなるんだろう」という興味を刺激し続けていることが、一時は「おじさんのスポーツ」扱いされたプロ野球が新規のファンを拡大し続けている理由の一つだろうとわたしは思う。

日本ハムは、そんなプロ野球の姿勢を象徴するチームの一つかもしれない。

彼らのドラフト戦略は一貫している。その年で一番いい選手を獲る。他の球団が及び腰になるような案件に対しても、果敢に挑んでいく。巨人以外への入団を断固拒否していた菅野智之の強硬指名しかり、素行面を不安視する球団もあったダルビッシュや中田翔の指名しかり、である。

特筆すべきは、彼らが自らに課した「その年で一番いい選手」という条件の中に、実力以外の部分も折り込んでいるように見えることである。

人気、である。

象徴的だったのは18年のドラフトだった。この年、大阪桐蔭の根尾昂を1位指名した日本ハムだったが、4球団競合の抽選でこれを外す。すると、同じく根尾を外した他球団が大学生指名に方針を切り換えた中、日本ハムはこの年の高校野球で一躍有名になった吉田輝星を指名する。

夏の甲子園まではまったくの無名だった吉田については、その実力を疑問視する声も根強くあった。だが、プロ野球の興行に必要なのは必ずしも実力だけではない場合があることを、日本ハムはよく理解していた。それは、それまで縁のなかった北海道という土地に移転し、新たなファンを獲得することで根を広げていった彼らの歴史から来るものだっただろう。

そして、ご存じの通り、今年からは新庄ビッグボスを現場のトップに据えた。よくも悪くも興行の重要性、新規開拓の必要性を熟知する球団でなければできない決断だったとわたしは思う。

新庄剛志には監督経験がない。コーチの経験もない。この圧倒的にすら思えるマイナスよりも、彼がリーダーになることによるメリットを日本ハムは重視した。そうでなければとてもできるはずのない招聘だった。

では、日本ハム球団は新庄ビッグボスに何を期待したのだろう。

人気面でのてこ入れ、という要素は間違いなくあっただろうし、いまのところ、それはほぼ成功している。成績が低迷していることで、一時の熱気は落ち着きつつあるが、就任発表から開幕までの数カ月間、ビッグボスは常に球界の話題の中心にいた。

ただ、人気とは移ろいやすいものでもある。

いくらビッグボスが人気を集めたからといって、チームが最下位に低迷する時期が長くなれば、離れていくファンは当然出てくる。そして、監督経験のない人物にいきなり好結果をプレゼントするほど、他球団も優しくはない。むしろ、新庄フィーバーを面白がる態を装いながら、腹の底では絶対に叩きつぶしてやる──と目論む人たちの方が多いかもしれない。

そして、それはビッグボスにチームを任せた球団フロントもまた、十分に承知していたはずである。にもかかわらず、新庄本人の言葉によれば球団側からは10年契約が持ちかけられたという。

ダルビッシュかな、と個人的には思う。

来年3月、日本ハムは新しい球場を持つ。チームは新しい時代に突入する。新しい時代には、新しい「客寄せパンダ」が必要になる。

もしダルビッシュを呼び戻すことができれば──。

メジャーから戻ってきた新庄剛志が、チームと北海道にどれだけの刺激を与え、成長をもたらしたかを、04年のドラフトで日本ハムに入団したダルビッシュは目の当たりにしている。自分のことを親しみ込めて「有」と呼んでくるビッグボスから直接出馬で口説かれても、心は動かないだろうか。

わたしが日本ハムのフロントであれば、動くことを期待して新庄剛志にタクトを預ける。チームを勝たせる、いわゆる監督業以外の仕事も任せたいから、「ビッグボス」という称号も許す。

もちろん、いくらビッグボスが口説いたところで、ダルビッシュが日本球界に魅力を感じないようであれば、どうしようもない。勝つか負けるか、ギリギリのところで勝負してきた人間にとって、勝つとわかった勝負は退屈以外の何物でもない。

だが、その心配だけは必要ない気がする。

プロ野球の動向はおろか、高校野球の1回戦にも目を向けることがあるダルビッシュは、当然、今年の田中将大がどうなっているかを知っているだろう。田中はもちろん凄い。だが、その凄い田中を持ってしても、NPBのバッターたちを抑えるのは簡単なことではない。

十分、挑戦に値する環境が日本にはある。メジャーに比べれば悲しいぐらいにお粗末だった本拠地も、素晴らしいボールパークに生まれ変わる。

来年なのか、その先になるかはわからない。

それでも、ダルビッシュは帰ってくる。もう一度、日本ハムのユニフォームを着る。日本ハムだから、新庄ビッグボスだから、その可能性は決して低くない。

本気でそう思っている。

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