フリーワード検索

baseball2024.07.08

松井裕樹のメジャー躍進に期待!奪三振率は日本球界時代に迫る

最初は恐る恐る。2カ月目も手さぐり状態。3カ月目でちょっと感じをつかみかけ、よっしゃいけると思った4カ月目にちょっと痛い目を見た。

なんのこっちゃと思われるだろうが、これ、わたしなりに総括してみたメジャー1年目、松井裕樹のここまでである。

白状しておくと、特にメジャー好きでもパドレス好きでもイーグルス・ファンでもないわたしの場合、松井の登板をリアルタイムでチェックしているわけではまったくない。気になるのは、松井やダルビッシュ以上に、阪神を巣立っていったスアレスの成績だったりもする。

では、総括とやらは何をもってつむぎ出したのかといえば、奪三振率である。

松井といえば三振。高校時代からそうだった。なにしろ、一度しか出場していない甲子園で22、19、12、15というとてつもない数の三振の山を築いた男である。長く神奈川の高校野球界を引っ張ってきた横浜高校の渡辺元監督にお話を伺ったとき、「忘れられない対戦相手」とし真っ先に名が挙がったのも松井だった。「あのスライダーは高校生でどうにかできるレベルではなかったですねえ」というのが、名将の感想である。

13年のドラフトを経て楽天ゴールデンイーグルスに加わってからも、松井の奪三振マシーンぶりは変わらなかった。ルーキーイヤーの9.78というのが実は彼のキャリアの中でもっとも低い数字であり、以来9シーズン、ことごとく2ケタの奪三振率を記録している。特に22年シーズンの14.46という数字は、凄まじいとしかいいようがない。

では、何が松井を松井たらしめているのか。よく言われているのは、スピードはそこそこながらスピンの効いたファストボールと、ほぼ同じ腕の振りから鋭く曲がり落ちるスライダーとのギャップである。伸びのある速球にタイミングを合わせれば落ちるスライダーを見失い、スライダーに山を張ればスピンの効いた速球に差し込まれる。どちらの球種も一級品だから、特にスライダーが超一級品だからこそのコンビネーションなのだろう。大魔神の真っ直ぐとフォークのようなものである。


NPBとメジャーでは使うボールも微妙に違えば、対するバッターのパワーやスタイルも違う。とはいえ、阪神からメジャーに移籍したスアレスが、阪神時代とほぼ変わらぬ成績を残している以上、パドレスも松井の奪三振にはかなり期待をしていたのではないだろうか。

3月は3.00。4月が5.40。5月は10.64になったものの、6月はこれまでのところ7.68というのが、パドレスにおける松井の奪三振率である。

つまり、NPB時代に比べれば相当に低い。

これは、松井の投球スタイルがメジャーに合わないから、あるいは単純に彼のレベルがメジャーに達していないがゆえのものなのか。どちらも違う、とわたしは思う。

予想通りというべきか、ここに来て少しずつ打たれるようにはなってきたものの、ルーキーイヤーとしては素晴らしい活躍を見せているカブスの今永は、ここまでのところ、日本時代とほぼ変わらない奪三振率を記録している。先発とセットアッパーという立場の違いがあるのは事実としても、同じような最高速のファストボールにスライダー、チェンジアップを組み合わせた今永が、日本と変わらぬ数字を残しているのは興味深い。

これはあくまでも推測なのだが、個人的には、性格の違いなのかな、という気がしている。

入団記者会見の時点から、今永はグイグイとアメリカ社会の懐に飛び込んでいっていた。対外的な日本人のイメージとはいささか乖離した人懐っこさ、物怖じのなさ、押しの強さは、新庄剛志や川崎宗則、城島健司など、九州出身のメジャーリーガーたちと共通するものを感じる。北筑高から駒沢大に進んだ今永も、北九州の出身である。

もちろん、今永は今永なりにメジャーで投げることへの緊張や興奮もあったはずだが、そこで恐る恐る、だとか、ソロリソロリ、といった風にはならなかった。日本同様、行くときはテイヤッという感じで突っ込んでいく。そのことが、最初から日本と変わらないスタッツを記録できた要因のひとつではないだろうか。

翻って松井はどうか。今永と変わらない、むしろ日本時代は今永をはるかに凌駕する奪三振率を記録してきた男の、3月の3.00はあまりにも低い。もちろん、これには少々カラクリがあって、3月の松井の投球回は1イニングで、奪った三振がひとつだったという、データとして紹介するにはいささか分母が小さすぎるものなのである。

ただ、10回を投げて6つの三振を奪った4月の5.40という数字は、それなりの重みを持っている。わたしは、この時期の松井が重きを置いていたのは目の前の打者を抑えるというその一点のみで、三振を奪うということに関しては、ほとんど執着していなかったのではないかと思っている。

三振には、取れてしまう三振と、取りにいって取る三振がある。メジャーに行って最初の2カ月、松井が「取りにいく」という狙いを捨てていたと仮定すれば、奪三振率の低さは納得がいく。そして、慣れてくるにつれて、率が徐々に上がっていったことも。

もらろん、三振を奪いに行くということは、リスクもある。それが、6月になって跳ね上がってしまった防御率と、再び下がった奪三振率に現れているとはいえまいか。「あれ、これなら行けるかも」が「よし、行ける」に変わり、そこから「うわっ、やられた」を経て、恐る恐るとイケイケの中間ぐらいのたち位置に落ち着いているのが6月下旬現在。

ではこの先、松井はどうなるのか。的中したらお褒めいただき、大外れだったらお忘れいただきたいのだが、わたしは、日本球界の成績に近づいていくと考えている。つまり、奪三振率はどんどんあがっていく。

根拠は……だってスアちゃん(スアレス)がそうだったからというのと、あとは日本人としての願望。

いや、マジメな話、ファストボールの最高速はともかく、高校時代からの伝家の宝刀スライダーと、21年から使い始めたというフォークのコンビネーションは、どんなスーパースターにとっても相当に厄介なはず。しかも、パドレスにはダルビッシュがいて、この先松井がどんな苦境に直面しようとも、理論と精神の両面から支えになってくれるはず。

というわけで、松井裕樹は大丈夫だと思います。

今年の終盤か、それとも来年あたりには、本格的にスアちゃんとクローザーの地位を争うことも十分に考えられる。個人的には、シーズン序盤の阪神のゲラ、岩崎の関係よろしく、ダブル・ストッパー体制を構築してくれたら素敵だな、と夢見ている。

この予想は、当たってほしいなあ。

BUY NOW

SEARCH フリーワード検索