アディダスがシューズクリエイターとともに放つ逆襲の一手
■アディダス フットウェアラボ・ディレクター大森敏明氏が放つ、「ADIZERO EVERGREEN PACK(アディゼロエバーグリーンパック)」
12/10に日本限定で「ADIZERO EVERGREEN PACK」が発売され、アディゼロラインがフルモデルチェンジされた今回のモデルは、アディダス フットウェアラボ・シューズクリエーター大森敏明氏を全面に押し出した展開になりました。
今回のリリースで、新商品発表というだけではなくて “Takumi”ラインを含め、やや混在気味のアディゼロレーシングラインナップが整理された、そんな印象です。ニッチな用途をついたタクミレン(練)やテンポが廃番になって、今回発売されるエバーグリーンパック4品番は、「ハイエンドモデル」と「ベーシックモデル」という2極化展開になり、選びやすくなりました。
より瞬発的な動きに対応する“レーシングフラット”として、「Adizero Takumi Sen 6」と「Adizero Bekoji 2」、フルマラソンを含めたロングディスタンスのスピードを安定させる“テンポアップシューズ”として、「Adizero Japan 5」と「Adizero RC 2」が、それぞれその関係にあたり、価格や用途で選び分けができる展開となりました。
タクミシリーズは、アディゼロコンセプト、ジャパンや元祖RCラインがそれぞれプロデュースされた、まさにその商品自体がアディダスの歴史そのもの。「選択と集中」とも言えるラインナップの整理は、非常にクリアになったと言えます。
そして、特筆すべきは、あのワコール・福士加代子選手も信頼を寄せる大森氏のデザインのスタイリッシュさ、それもあり、その印象も大きく変わりました。が、しかし、それだけはなく、その中身も全く別物と言っていいぐらい、ラスト(木型)作りから徹底的に見直したその作りはさすがの一言です。見た目の印象だけでは分からないその中身は、一度履いてみるべきです、足入れで分かりますね。
■Adizero Japan 5は使いやすいテンポアップシューズ
この中で「Adizero Japan 5」は、海外では「アディオス」の商品名で発売される、他のブランドも含めて、数少ない世界でも人気のある“日本企画レーシング”です。ファーストモデルは、“皇帝”ハイレ・ゲブラシラシエが履いて当時の世界最高記録を達成したシューズ、その後もアディダスアスリートによって世界最高記録は、このAdizero Japanで更新されてきました。そう言ったヒストリーもあり、現在でもアディダスアスリートが、このAdizero Japan、「アディオス」を着用するケースが目立ちます。まさに、レジェンドシューズが今回刷新されたわけです。
構造的には、10mmドロップといってシューズの前後差がある坂道ソール(今回は9.5mm)になっています。これは非常にオーソドックスなトレーニングシューズ(デイリートレーナー)のように、体の自然な重心移動を助ける構造になっています。ポイントは、それでいて224g(27.0cm)ととても軽量なこと。これは、海外では、単純明快な言葉で、“テンポアップ”シューズと表現されるもの、軽量でテンポ=ピッチをあげやすいシューズでありながら、トレーニングシューズのようなガイダンス機能があるものを指しています。
そして、ミッドソールには、お馴染みの「ブーストフォーム」が搭載されています。クッションとエナジーリターンを両立する元祖とも言えるTPU系ソールは、とてもバウンジーで気持ちの良いライド感。“このクッションが好き“というランナーも少なくないはずです。
また、コンチネンタルラバーアウトソールは、自動車や自転車のタイヤに使用される耐久性の高い素材となっていて、アッパーのフィット感、ミッドソールのクッション、アウトソールの耐久性とバランスの取れたテンポアップシューズ、それが、「Adizero Japan 5」です。
世界最高記録を出せるようなシューズですが、とても我々市民ランナーにも親近感があるモデルで、長めの距離を中程度のスピードで走り続ける、まさにフルマラソンやハーフマラソンのレースに向いているモデルです。世界的なアスリートでも、市民ランナーで、ミドルスピードで走る長い距離に、その要望は等しく同じです。
ですから、「わたしは走りはじめたばかりだから、こういうシューズは関係ない」ではなくて、ランニングを始めたばかりのランナーでも、このシューズは等しく“テンポアップ”モデルです。こういうシューズがはじめてのランナーなら、頑張るペースで使ってみましょう。使用頻度や使用距離を考えて使えば、あなたのその頑張りを応援してくれますし、選手と同じシューズを履いて走るのは、モチベーションもアゲアゲですよね。駅伝や5K、10Kレースのようなシチュエーションにフィットするのではないでしょうか。
ということで、「Adizero Japan 5」は幅広いく様々なランナーのそれぞれの用途でフィットするシューズ、世界で人気があるのもその汎用性の高さが理由ですね。
■6代目「Takumi Sen」、大森氏のプロデュースで、まったく新たな品番に生まれ変わる
これは奇をてらった新しさではない、まさに大森氏が愚直に履きやすさを求めたスタイルに、今回、まさにゼロから見直された感が強いのがこの「Adizero Takumi Sen 6」です。
「Adizero Japan 5」にも言えるのですが、今回、大幅にラストが見直され、マイクロフィットラスト~サッカースパイクなどアディダスシューズなどで使用されている日本人向けラスト(木型)をベースに改良されました。足入れは、まさに履けば分かる、シュータン(ベロ)が一体構造になっていて、甲まわりと踵は吸い付くようなフィット感です。そして、足の機能をフルに使えるような自由が共存した履き心地になりました。
レーシングフラットシューズの要、アウトソールには、前モデルまで全面に搭載されていた、プラスティック系のチップがありません。それは、路面との接触音でカチカチ音が出る、まさに“日本モデル“の象徴的スタイルでした。しかし、今回の6代目は、固定観念をなくし、ゼロから見直して、コンチネンタルラバーのチップを全面に、プラスティックチップを同じように、面ではなく点で地面を捉えることでグリップ性を高めたものになっています。
先日、Adizero Takumi Sen 5と6を1km3分20秒のペースで比べてみましたが、どちらもグリップ感は変わらずOK。それよりも、コンチネンタルラバーには、プラスティックチップ特有の突き上げ感、そして、硬さがなく、むしろ、前足部の接地はとてもソフト、掴み感がとても良いです。どんどん頑張りたくなってしまう、そんなグリップ感です。
このシューズは、レーシングフラットの用途になります。ランナーが、速く走っているか、速く走りたいときに履くもの。用途がテンポアップとは異なって、体の機能を最大限に使っているときに心地良いシューズだと言えます。結局、ピッチを高めるためには、薄く、地面近いことが、ランナーのそれをアシストしてくれますよね、そしてグリップ感とそれ自体の軽さが、そのクオリティーを上げてくれるわけです。
ですから、「Adizero Takumi Sen 6」はより速く、より短い距離で力を発揮する点で、「Adizero Japan 5」と用途が異なり、スピードと距離、そして用途を考え合わせることで、アディゼロラインから自分の用途にあったものを選択しやすくなったと言えるでしょう。
■アディダスは、トップアスリートの活躍に対してやや静観
アディダスはこのところ、レーシングシューズへの開発に力が入っているとは言えませんでした。Adizero Japan、Takumi Senマイナーチェンジ(主にアッパーのチェンジ)が続き、その間に男子の世界最高記録保持者は他社の選手に移ってしまいました。
その間、スピードファクトリー・海洋ペットボトルからミッドソール作成・単一素材でシューズを作る技術発表など、まさに「モノ作り」のアディダスとしての投資・話題が目立ちました。そんなやや静観しているともとられるような状況でしたので、今回のフルモデルチェンジは待ちに待ったタイミングであったと言えるでしょう。
また、ここへ来て、ワールドメジャースはじめ、世界主要大会で少しずつアディダスの選手も活躍しはじめてきています。アムステルダムでの男子、ニューヨークシティーマラソンでは女子の優勝者がアディダス選手でした。また、アディダスの逆襲も始まっています。
エバーグリーンは、時を経ても色あせない色を意味で、青山学院大学のチームカラーで、「ADIZERO EVERGREEN PACK」は彼らにエール込めたシリーズ、ですから年初の駅伝当日の彼らの活躍も重要です!さて、どうなるのでしょうか?今から楽しみです。
今回のラインナップは、定番スタイルをしっかり研ぎ澄まし、アップデイトさせたモノ作りのアディダスらしいフルモデルチェンジです。そして、同時に、アスリートだからと言って“カスタムシューズ”ということではなく、量産されたシューズの品質の高さ、そしてそれを私たちも手にできることわけです。シューズを履いたアスリートたちの成績が今後それを証明してくれることでしょう。