田中浩康(元ヤクルト・DeNA)夢にまで見たプロ野球人生。引退までこだわり抜いたギアへの想い【インタビュー後編】
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平成最後のシーズンが終わり、新たな時代を迎えようとしているプロ野球。一方で、昨年もたくさんの選手がユニホームを脱ぎ、自身の競技生活にピリオドを打った。東京ヤクルトスワローズ、横浜DeNAベイスターズで活躍した田中浩康もそのひとり。
プロ14年間で歴代5位となる通算302犠打を記録し、ヤクルト時代はベストナイン2度、ゴールデングラブ賞を1度獲得。粘り強い打撃と堅実な守備でチームを牽引し、多くのファンから愛された。
インタビュー後編となる今回は、そんなプロ野球生活を振り返るとともに、自身の野球ギアや守備へのこだわりを語ってもらった。
必要なのは”年間143試合をこなす体力”。田中浩康が感じた「基本を身につけるべき」理由
――田中さんは2004年のドラフト会議にて、自由獲得枠で東京ヤクルトスワローズに入団されました。実際にプロの世界に入った時の印象をお聞かせください。
田中:もう学生野球とは全然違いましたね。「とんでもない世界に入ってしまったな・・・」というのが第一印象でした。
ただ、ルーキーイヤーの春季キャンプ、その後のオープン戦では割とうまくいってたんですね。成績的にも3割近く打率を残せたので、開幕一軍入りを果たすことができたんです。当時は「あ、意外とこのままいけちゃうのかな」なんて思っていました。
ですが、プロの世界はそんなに甘くはなかった…。
開幕一軍に入れはしたものの、2ヶ月ぐらい出場機会を得られず、結局二軍に落ちてしまったんです。そうすると、今度は二軍で全く結果を残すことができなくて。2ヶ月間プレーできなかったブランクじゃないですけど、感覚のズレだったり、プレーにおけるイメージの違いが生じてしまったんです。
守備に関して言えば、相手打者の打球スピードに追いつけず、実際はそうではなくても、1試合に1回はエラーをしているような感覚がありました。その頃は本当に苦労しましたね。
――そうだったんですね。そこからプロの壁を乗り越えるために、どういったことに取り組んでいかれたのでしょう。
田中:とにかく、プロのコーチから野球の基本を指導していただきながら、基本動作の反復練習を行いました。打撃ならトスバッティングやティーバッティングなど、基本として重要な練習をひたすらやり続けましたね。
今振り返れば、そういった期間があったからこそ基本を身につけることができましたし、練習する体力、そして試合をこなす体力がついたのかなと思います。プロでレギュラーになれば、今では年間143試合をこなさないといけませんから、最初の1~2年でその体力をつけられたのは大きかったですね。
――なるほど。それから実際に一軍の舞台で活躍するまでには、他に何かきっかけのようなものはありましたか?
田中:プロ2年目の2006年から古田敦也さんが選手兼任監督として指揮を執ることになった時、僕のプロ野球人生に転機が訪れました。
というのも、古田監督がプロ初となるスタメンを、しかも開幕で起用してくれまして。結果的には期待に添えるような成績は残せなかったんですけど、ある程度一軍という舞台を肌で感じることができたんです。
そこから「一軍で活躍するためにはこうすればいい」というイメージが何となくできるようになり、ちょうど夏ぐらいからエース級のピッチャー相手でも打てるようになってきたんですね。それがきっかけで徐々に試合で使ってもらえる機会が増え、3年目にはレギュラーとして起用していただけるようになりました。
同年には二塁手部門で初めてベストナインというタイトル獲得で一つ形を残すことができ、ようやくプロへの第一歩と言いますか、少し自分のプレーに自信を持つことができましたね。
グラブは“自分の手と一体となったような繊細さ”を追い求める。野球人生で貫き通したギアへのこだわり
――2012年には2度目のベストナインを獲得するとともに、二塁手でゴールデングラブ賞も受賞しました。守備に対するこだわりは強かったのではないでしょうか?
田中:守備にはこだわっていましたし、プライドを持ってやっていました。チームの勝敗に直接関わってくる重要な部分ですからね。ピッチャーは自身の人生や家族の生活をかけて必死に投げているので、ピンチに陥った時には何とか守備で救ってあげたいというか、そういう気持ちで常に守っていました。
その中で、特にこだわっていたのはグラブですね。グラブを選ぶ際には自分に合ったものを選んで、まずは手に馴染ませる。そうやって試合に使えるグラブをしっかり作り上げることを心がけていました。
なので、練習用のグラブで試合に臨むことは絶対にありませんでしたね。「本番で使っても大丈夫」という信頼できるグラブに仕上げてからじゃないと、試合で使うということはしませんでしたから。試合用は自分の手の延長になるような、一体になれるようなグラブにする、というこだわりはずっと貫いていました。
――そこまでこだわりが強いということは、道具のケアにも人一倍気を使っていたのではありませんか?
田中:そうですね。僕は試合後には必ずグラブを磨いてから1日を終える、というのを野球人生でずっと習慣にしてきました。さらにグラブを磨いている時には、その試合を唯一振り返る時間として用いて、プレーの反省点を挙げたり、次戦への目標を立てたりしていたんです。
そういう意味でも、子供たちや野球に携わる人には、グラブを磨く時間というのを大切にしてほしいなと思いますね。
――本当にグラブを大事にされてきたんですね。ちなみに、現役時代はどこのメーカーを使っていたのですか?
田中:スパイクとバットはSSKとアンダーアーマーを使っていました。ただ、特にこだわりを持っていたグラブだけは久保田スラッガーを使用していましたね。
――プロ野球では「グラブだけは久保田スラッガー」という選手は多いように思います。では、それを踏まえて野球用品を選ぶ際のポイントを教えてください。
田中:大切なのはサイズ感ですね。よく野球教室で子供たちに野球を教えているんですけど、成長して体が大きくなることを見据えて自分の手より大きなグラブを使っている子供を見かけるんですね。そう考えるのもわかるのですが、なるべく自分の体に合ったサイズ感で道具を選んでほしいなと思います。手に合うかどうかだけで、グラブの扱いやすさ、ボールのさばきやすさが変わってくるので。
それに加えて、グラブには軽いものから重いものまで種類が数多くありますから、そういうところも含めて自分の手に合った商品を選ぶことが大事だと思います。
もっと野球を身近に感じてほしい。ユニホームを脱いだ田中浩康からのメッセージ
――田中さんは2015年に外野にも挑戦されましたよね。きっかけは何だったのでしょう?
田中:きっかけは、当時チームを指揮されていた真中満監督からの「田中、外野やってみないか?」という一言からでした。正直、思ってもみない一言だったので最初は驚きましたが、出場機会が減っていたので、迷うことなく「やります」と即決でしたね。
それに新しいポジションをやることによって、新鮮な気持ちで野球に取り組むことができるようになりましたし、新しい目標ができたということに嬉しささえ感じました。そういう意味でも、挑戦する場を与えてくれた真中監督には感謝しています。
――ベテランの領域に入ってきていたからこそ、新たな技術や分野にチャレンジすることは重要だったように思えますね。ただ、それまで出場経験がなかった外野を守ることに対して不安もあったと思うのですが・・・。
田中:確かに最初はできるかどうか不安でした。前述でも話した通り、みんなの人生がかかった中で守るわけですからね。なので、セカンドでの練習からそうでしたが、より一層「自分の人生をかけて臨まないといけないな」という気持ちを持って練習から取り組みました。
――では、こだわりのグラブも外野手用に新調したのですか?
田中:いえ、グラブは外野手用ではなく“オールラウンド用”を作ってもらいました。外野だけではなく同時にファーストにも挑戦していたので、どちらのポジションでもこなせるようにオールラウンド用に変えたんです。
選んだ理由は抽象的ではありますが、もう自分の直感ですね。いろいろ試した結果、オールラウンド用が一番手に馴染んで使いやすかったので。その直感を信じた、というわけです。
なので、これからグラブを買おうと考えている方には、ぜひオールラウンド用をオススメしたいですね。外野も内野もファーストも、全て一通り扱いやすいですし、学生時代ではいろんなポジションを経験すると思うので、その際に何個もグラブを買わなくても済みますからね。
それに僕が小学・中学生の頃はオールラウンド用が主流で、僕自身も使っていたんです。だからもう一回オールラウンド用を流行らせたいなっていう(笑)。
――プロだけじゃなく、学生時代にも使っていらしたんですね(笑)。でも確かにどのポジションにおいても何の不安もなく勝負できるという意味では、すごく利便性があって魅力的なグラブですよね。では、田中さんは昨シーズン限りで現役を引退されましたが、改めて14年間のプロ野球生活を振り返ってください。
田中:子供の頃からプロ野球は夢にまで見た世界でしたが、実際に入ってみたら、本当に夢のような世界でしたね。
この14年間で、一言では語りつくせないぐらい多くの勝負をしてきましたが、プロ野球の超一流の選手たちと対戦できたということは、人生において本当に素晴らしい経験でした。
――ありがとうございます。最後に、田中さんが感じる野球の魅力を教えてください。
田中:野球は朝から晩まで語っても語りきれないぐらい、たくさんの話題や物語があるスポーツです。実戦して、自分の良いプレーや悪いプレーを肴に一杯飲むのもいいですし、プロ野球を観ながらあーだこーだ言うのも、これまた野球の魅力のひとつ。
僕自身、引退しても今後は早朝の草野球なんかにもトライしてみたいですし、みなさんにも「見る」でも「する」でもいいので、より野球というスポーツを身近に感じてもらいたいなと思いますね。