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baseball2024.04.24

阪神タイガース序盤戦の苦闘と展望。不振に陥ったクリーンナップと勝利への道

覚悟は、していた。

オープン戦はぶっちぎりの最下位だった。対戦相手は、他のどんなチームと戦う時より、強いモチベーションと分析を胸に挑んでくる。開幕3連戦でベイスターズを3タテし、気持ちよく突っ走った昨年の序盤戦のようにならないだろうとは、思っていた。

ただ、ここまでしんどい試合が続くのは想定外だった。

長いシーズン、好不調の波というのはどんな選手にでも訪れる。誰かがスランプに陥れば、誰かがカバーをする。昨年の阪神も、そうやって勝ってきた。

だが、連覇を狙うシーズンの序盤戦は、森下、大山、佐藤のクリーンナップがいきなりの不振に陥るというまさかの展開となった。当然、チームは深刻な得点力不足となり、貯金はおろか、借金を増やさないことで精一杯という状態が続いている。

昨年は多少のスランプにも泰然自若としていた岡田監督だったが、今年はすぐに動いた。今シーズン初の3連敗を喫して迎えた4月14日のドラゴンズ戦では、クリーンナップはおろか、1番に木浪、2番に梅野を入れるなど、異例とも言えるスタメンの大シャッフルを敢行した。

すると、打率が身長にも満たなかった梅野が同点タイムリーを放ち、8番に降格した中野が決勝点を叩き出すなど、スタメン変更が奏功した形で連敗は止まった。とはいえ、この試合で阪神が放ったヒットの数はと言えばわずか4本で、打線が覚醒した、とはとてもいえないありさまだった。

ちなみに、この原稿を書いている4月19日現在、阪神のチーム打率はセ・リーグ最下位の2割7厘に留まっている。当然、奪った得点の数もリーグ最下位。10試合連続で得点が2点以下という、「目指しているのは攻撃的なサッカーですか?」とでも言いたくなるようなチームワースト記録に並んでしまった。打てないのはクリーンナップだけではない。近本も、木浪も、坂本も、梅野も、ノイジーも、軒並みダメだった。普通、誰か不調な選手がいれば、その分、好調な選手が現れるものだが、ほぼ全員が絶不調。シーズンの中でもなかなかない、というかチームによっては見舞われないこともある深刻な泥沼が、今年はいきなりやってきてしまった。

ただ、壊滅的な打撃陣の成績に比べると、チームの成績はそれほど悪くない。


普通、これだけ打線が湿ってしまうと、チームの成績も下降線を辿っていく。実際、過去にあった『10試合連続で得点が2点以下』をやらかしてしまった際は、59年が1勝8敗1分け、04年が2勝6敗2分けと、さもありなんというしかない成績を残してしまっている。だが、今年の阪神の場合は、なんと五分の4勝4敗2分け。極度の貧打に悩まされつつも、ギリギリのところで勝ちを拾う、あるいは引き分けに持ち込む試合が少なくない。

何とか持ちこたえられている最大の要因は、もちろん、投手陣の頑張りにある。昨年同様、先発はほぼ自分たちの役割を全うし、ゲラ、岡留が加わったブルペンは昨年以上の安定感を見せている。85年の中西、山本を彷彿とさせるダブルストッパー方式は、ここまでのところ、非常にうまく回っている。

ゲラ、岩崎の立場に立ってみると、難しい面もあるはずだ。どちらかがセットアップ、どちらかがクローズと役割が定まっていれば、試合の終盤に向けた肩の作り方、気持ちの持っていき方はルーティンに近い形になる。展開次第で自分の役割が変わってくるスタイルより、なじみ深いのは間違いない。

だが、最終的に勝敗の決定権を預けられるクローザーのポジションは、肉体的にはもちろんのこと、精神的な重圧も極めて大きい。万が一打たれてしまった場合には、本人だけでなく、チームも大きな痛手を被る。その点、状況に応じて締めくくり役を使い分けるやり方であれば、投げる順番を入れ替えるだけである程度のリセットをすることができる。

他チームに目をやってみても、痛恨の1敗を喫したクローザーがその後調子を崩し、結果としてチーム自体がおかしくなってしまう、ということが多々ある。そして、近年のプロ野球では、優秀なクローザーの存在は、優勝するための必要絶対条件とも言える。ゲラと岩崎という、十分にソロでやっていける存在をデュオにしたことで、タイガースの“後ろ”はより壊れにくく、磐石となった。

どちらが締めくくるにせよ、8回と9回を投げるピッチャーは安定している。7回は桐敷が、あるいは岡留がいる。先発ピッチャーからすると、バトンを渡す際の心強さは、ひょっとすると昨年以上かもしれない。


となれば、あとは打線が活気を取り戻すのを待つだけということになるのだが、個人的には、そんなに心配はしていない。現状のチーム打率が深刻な状態にあるのは事実としても、このままの状態が1シーズン続くなどということはありえない。

昨年、貧打でファンを失望させたドラゴンズのチーム打率が2割3分4厘。ゴールデンウィークまでチーム打率が2割を切るという、歴史的な惨状に陥った17年のマリーンズも、最終的には2割3分3厘まで巻き返した。2割を切る打率が2割3分になったということは、残りの期間で2割3分を大きく超える打率を残したということ。野球が、ほとんどの数字を最終的には常識的な範囲に収斂させていくスポーツであるという前提に立てば、これからの阪神を待っているのは、右肩上がりのみ、である。

きっかけになりそうな試合もあった。

4月18日の対巨人6回戦は、開幕から無失点を続けていた菅野にほぼ完璧に抑えられ、コンビを組む小林に先制タイムリーを喫するという、敗色濃厚な展開だった。にもかかわらず、8回に森下のタイムリーで追いつくと、延長10回にはノーアウト満塁から佐藤が1塁線を破り、サヨナラ勝ちを収めた。

なぜこの勝ちがきっかけになると思ったのか。久々、というか今シーズンようやく2度目の2ケタ安打を記録したのにはホッとしたし、勝率が5割に戻ったのも大きい。ただ、それ以上に同点で迎えた9回と10回、阪神のマウンドに立ったのは桐敷、島本、加治屋だったというのが、後に大きな意味を持ってくるように思えたのだ。

ゲラと岩崎のダブルストッパーは、1日の移動日を挟んで3連投中だった。まだシーズン序盤で無理をさせる状況でないとはいえ、相手は巨人で、チームは貧打に悩まされている。1点でも取られれば絶体絶命。そんな状況で、岡田監督をあえて2人を休ませた。

落とせば悔いが残る展開を、しかし、先発・西のあとを継いだ3人は懸命に凌いだ。その結果が、サヨナラ勝ち。巨人が守護神・大勢をつぎ込んでいたことを考えると、相手に与えたダメージは極めて大きく、また、打線が絶不調の中、投手起用を限定しながらも勝てたという自信をつかむことができた。昨年の開幕第3戦、カウント1ストライクから代打に立った原口のホームランが、岡田監督に対する選手の信頼を一気に深めることにつながったように、1年を振り返った際に「あれがターニング・ポイントだった」ということになりそうな勝利だった。

というわけで、およそ芳しいとは言い難い序盤戦となった今年の阪神だが、改めて感じるのは、選手たちの経験の厚みである。ファン目線からすると勝ち目がないように見える展開でも、今年の選手たちはしたたかに逆襲を狙っていく。そして、借金が3に膨らんだ時点でも焦燥感や悲壮感というものがまるで感じられなかったのは、多くの選手が2年前の地獄、悪夢の開幕9連敗を経験しているからだろう。

4月19日現在、阪神は勝率5割の3位につけている。深刻な打線不振を思えば、上々の出来というしかない。

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