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baseball2024.06.03

筒香嘉智の復帰でベイスターズに変化の兆し!低打率からの大爆発に期待

筒香嘉智が帰って来た。何回もチャンスをつかみかけ、何回も「今度こそ覚醒か」と思わせながら、4年間のアメリカ生活にピリオドを打つことになった。

本人にとっては、複雑な思いを持っての帰国ではあっただろう。メジャーでの通算本塁打はわずかに18本、打率に至っては2割を切る1割9分7厘だった。これでは、どれほど好意的に見たところで「成功した」とは言い難い。

当初、5年ぶりの日本球界復帰にあたり、移籍先として有力視されたのは巨人だった。新外国人が早々に帰国してしまい、大砲不在という問題を抱えたチームのフロントとしては、当然の動きではあっただろう。ただ、巨人ファン以外の層からすれば、面白いニュースではない。

それだけに大逆転で古巣への復帰が決まった際は、ベイスターズ・ファンだけでなく、他球団のファンからも称賛の声が上がっていた。阪神ファンのわたしとしても、巨人に行かれるよりははるかにマシ、と拍手を贈りたい気分だった。

ただ、すぐに意外な声が聞こえてきた。

わたしがお世話になっているラジオ番組の演者、スタッフにはベイスターズ・ファンが多い。巨人を蹴っての復帰、年俸よりも義理をとったとした思えない決断に、さぞ溜飲を下げまくっているかと思いきや、どうも様子がおかしい。

「どう思います? 筒香の復帰」

わたしは素直に答える。

「いや、素晴らしいじゃないですか。これでオースティンが戻ってきたら、とんでもない打線になりそうだし」

「……そうですか。カネコさんは筒香が戦力になると思ってるんですね」

え?え?え?ってことは、戦力にならないと思ってるんですね? わたしは絶句してしまった。


彼が気にしていたのは、アメリカでの成績だった。アメリカで結果を残せなかった選手がすぐに活躍できるほど、日本のレベルは低くない。いくら筒香といえども、そんなに期待をするのは……というのが彼の言い分だった。

悲観論にもほどがある、と一笑に付しかけたわたしだったが、そこで恥ずかしい記憶が甦った。

福留の日本球界復帰が決まったとき、というか阪神が獲得することが決まったとき、わたしはどう思ったか。

マジかよ、と思った。

理由は、シカゴ・ホワイトソックスでの成績にあった。出場24試合、本塁打0、打率1割7分1厘。これでは、大車輪の活躍を期待する方がどうかしている。

案の定というべきか、復帰1年目の福留の成績は惨憺たるものだった。出場は63試合に留まり、本塁打6本は甲子園の特性を考えればまだ許せるとしても、打率1割9分8厘というのは、許容範囲を遥かに超えて(下回って?)いた。

当時、ネット上では福留を“過去のスター”扱いする声が多数見られたし、正直なところ、わたしの見方も似たりよったりといったところだった。後に福留自身はこのころは外部の情報をシャットアウトすることで自分を守った、といった趣旨のことを述べているが、ネットほどには過激ではないスポーツ紙でも、獲得は大失敗、2年目も使うようなら首脳陣の目を疑う……とまで書くところもあった。

ところが、2年目の福留は別人になっていた。3年目はもっと別人になっていて、4年目になると打率は3割1分1厘を記録するまでになった。口汚く福留を罵っていた阪神ファン(というかわたし)はあっさりと手の平を返し、チャンスの場面で彼に打順が回ってくると、きっとなんとかしてくれる、と思ってしまうようになっていた。

結局、福留は阪神で8シーズンを過ごすこととなり、さすがに40歳を越えてからは衰えを隠せなくなったものの、入団当初のように罵声を浴びることは──さすがに皆無とはまでいかないものの──ずいぶんと少なくなっていた。中日に“お返し”することが決まった際も、「これだけやってくれたんだから」と見る人が多かったように思う。

日本球界復帰を決めたとき、福留は36歳だった。筒香は、まだ32歳である。福留にできたことが、筒香にできない、と決めつける理由がわたしにはない。

しかも、縁もゆかりもなかったチームに、言ってみれば完全な外様として入団した福留と違い、筒香が復帰したのは勝手知ったる古巣である。いくら「大丈夫なのか」と心配するファンがいるとはいえ、向けられる視線の厳しさは、福留に比べれば間違いなく柔らかいだろう。力を発揮しやすい環境は、より整っている。

ちなみに、日本球界初年度の福留が苦しんだ要因の一つに、彼自身は日米のリズムの違いをあげている。1球1球じっくりと時間をかけ、思案を巡らせてから投球に入るのが日本のピッチャーだとしたら、アメリカではちぎっては投げ、ちぎっては投げといった感じでポンポンと進んでいく。日本のリズムに慣れた福留はまずアメリカのリズムに手こずり、アメリカのリズムに慣れた身体は、日本のリズムに手を焼いた。

同じことは、おそらく筒香にも起こりうる。


実際、ベイスターズに復帰してからの筒香は、打たれた側が強烈なショックを受ける一撃を何度か見舞っているものの、打率は2割そこそこで低迷している。三浦監督も、現時点では打率を気にしないとしているようだが、しばらくは、試行錯誤の日々が続くことが予想される。

ただ、それでも最終的に筒香は爆発するのではないか、してしまうのではないか、というのがわたしの見立て。

横浜高校を卒業してベイスターズに入団した筒香の1年目、1軍出場は3試合だった。2年目は40試合、3年目は108試合と一気に増えたものの、4年目は再び23試合に落ち込んだ。本塁打は1本、8本、10本、1本。打率は1割4分3厘、2割4分1厘、2割1分8厘、2割1分6厘という変遷を辿った。

つまり、彼はいわゆる『天才タイプ』ではない。イチローをして「天才」と言わしめた広島の前田智徳のように、高卒1年目から快音を連発させるタイプではない。初見だろうがなんだろうが、来た球をシンプルにはじき返すだけ、というのが前田のスタイルだったとしたら、筒香は積み重ねた知見と経験値を生かすタイプだといえる。

アジャストするには、時間が必要になってくる。

いまになって考えてみれば、筒香がメジャーで上手くいかなかった最大の原因も、そのあたりにあるのかもしれない。球団数が少なく、1年に何回も同じ投手と対戦する日本のプロ野球と違い、アメリカでは初対戦のピッチャーと次々と当たっていくことになる。仮に次回への手応えをつかんだとしても、その機会が訪れないことも珍しくない。

だとしたら、低い打率であえぐ現在の筒香は、後の爆発のためのデータ収集に勤しんでいる段階、なのかもしれない。慣れてしまえば、彼は打つ。阪神ファンとしては、ぜひともこのまま低空飛行を続けてもらいたいものだが、残念ながら、そううまくは行きそうもない。

実をいえば、バウアーが抜け、今永が抜けた今年のベイスターズを、わたしは少々見くびっていた。素晴らしいスタートを切ったルーキーの度会が失速したことで、より与しやすし、の印象も強まっていた。

だが、筒香が加わったことで、状況は変わった。すでに阪神は一度食らってしまったが、彼が打つと、ベイスターズの空気は変わる。どんな劣勢でも跳ね返してしまいそうな空気が、一気に立ち込めてくる。

というわけで、いずれは爆発するにせよ、今年はもうしばらく大人しくしておいていただけないかな、というのが阪神ファンとしての本音である。

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