久保建英が衝撃を与えた、スペイン挑戦一年目を振り返る
決して大げさではなく、衝撃をもたらしたと言えるだろう。サッカースペイン1部<ラ・リーガ>のマジョルカで、初めてのシーズンを終えた久保建英である。
2019年6月にJ1リーグのFC東京からスペインの超名門レアル・マドリーへ完全移籍した久保は、同年8月末にマジョルカへ期限付き移籍する。1部に昇格したばかりのクラブで、より多くの実戦経験を積むためだった。
シーズン開幕後の加入だったが、試合にはすぐに絡んでいった。10歳から13歳までバルセロナの育成組織で育った久保は、スペイン語を不自由なく操ることができる。コミュニケーションに障害がないことで、未知の環境にもためらわずに飛び込めたはずだ。
もちろん、難しさはあっただろう。プレシーズンのキャンプに参加していないため、リーグ戦に臨みながら戦術理解度を深め、チームメイトの特徴を把握していかなければならない。
さらに加えて、9月から11月までは日本代表やU-22日本代表の活動に招集されたため、スペインと日本(あるいはアジアの国)を往復しなければならなかった。時差をまたいで数日間を過ごし、長距離移動を経て合流することが影響し、途中出場が続く時期も過ごした。
それでも、11月に入ると先発に定着する。同10日のビジャレアル戦では、得意の左足でリーガ初ゴールを叩き込んだ。
現地時間12月7日のバルセロナ戦では、敵地カンプ・ノウでブーイングを浴びた。育成組織に所属した久保が、相手チームの選手として戻ってきたからではない。鋭いドリブルがバルセロナの守備陣を脅かしたからである。18歳の日本人アタッカーは、称賛の裏返しとも言える指笛を浴びたのだった。
ところが、20年1月中旬から5試合連続で先発から外れてしまう。今シーズンの分岐点はここにあった。「どうして自分を使わないのか」と監督の起用法を責めるのではなく、「どうしたら先発で出られるのか」と、自分を見つめ直していったのである。
その結果が、スタメン復帰初戦での鮮明なる解答だった。
2月21日のベティス戦で6試合ぶりに先発すると、前半にチームの2点目をアシストする。2対3で迎えた後半70分には、敗戦から救う同点弾をマークした。久しぶりに巡ってきたアピールの機会で、きっちりと結果を残したのである。
3月7日のエイバル戦では、チームの2点目をゲットした。1点目も久保のドリブルで得た直接FKから生まれている。マジョルカにアウェイ初勝利をもたらした「TAKE」は、もはやチームに不可欠な存在となった。
ここで、ラ・リーガは中断される。新型コロナウイルスの感染拡大によるもので、6月中旬まで再開を待たなければならなかった。
三か月強の空白期間を、久保がどのように過ごしていたのかを知ることはできない。それでも、6月4日に19歳となった彼は、再開初戦のバルセロナ戦でいきなり魅せる。中断期間にパワーアップしたことを、プレーで示していくのだ。
32分にゴール正面やや右から直接FKをつかむと、36歳のサルバ・セビージャと久保がポイントに近づく。右足でも左足でも狙うことのできる位置で、中断前ならベテランのミッドフィールダーが蹴ることが多かったが、サルバ・セビージャは久保にチャンスを託す。ビセンテ・モレノ監督の同意に基づいたものでもあり、チーム内での信頼の大きさがうかがえた。
再開後は11試合が組まれていた。2部降格圏をさまようマジョルカにとっては、すべての試合がトーナメントのようである。
中2日から中5日で、負けられない試合が続く。本来なら選手の疲労を分散したいところだが、久保は例外なのだ。再開後の試合で漏れなくスタメンに選ばれた。
チーム内での彼の立場は、対戦相手とプレータイムを見れば分かりやすい。再開初戦のバルセロナ戦、古巣のレアル・マドリー戦、チャンピオンズリーグで8強入りしている(※)アトレティコ・マドリー戦では、最後までピッチに立っているのだ。1対1はもちろん1対2や1対3の局面でもボールを失わず、ワンプレーで決定的なシーンを作り出せる久保は、マジョルカが持つ最大の武器であり、1部残留への希望だったのだ。
7月16日に行なわれた第37節のグラナダ戦で、マジョルカの2部降格が決定してしまった。久保は中断前から13試合連続で先発出場したが、チームを救うことはできなかった。
だからといって、批判を受けることはない。むしろ大きな称賛が寄せられている。攻撃より守備の時間が長いマジョルカにあって、守備のタスクを果たしながら攻撃で違いを生み出していったからだった。
ラ・リーガの全38試合のうち、久保は35試合に出場した。日本人選手としては1シーズン最多となる。
シーズン通算4得点は、「もうちょっと取ってほしかった」との印象を抱かせるかもしれない。しかし、マジョルカでの彼はシュートシーンに恵まれたとは言えず、シュートを打つことのできた場面でもサポートに恵まれなかった。久保のためにシュートコースを作ったり、相手のマークを惹きつけたりする動きは、残念ながら乏しかったと言わざるを得ない。
アシストも同様である。日本のメディアの集計では「4」とも「5」とも言われているが、パスの受け手がしっかりと決めていれば、間違いなく2ケタに到達していただろう。
数字では読み取れないプレーもきっちりと評価されているからこそ、決して大げさではなくヨーロッパに衝撃をもたらしたのだ。そして、数多くのオファーが殺到している。ラ・リーガのクラブはもちろん、イタリアやフランスのビッグクラブが久保に興味を示している。
期限付き移籍中のマジョルカを離れるのは確実で、レアル・マドリーに戻る可能性も低いだろう。EU圏外選手の登録枠は3人までに限られており、ジネディーヌ・ジダン監督はその枠をブラジル人選手で埋めるものと見られている。
7月下旬時点で有力視されるのは、ラ・リーガ1部の上位クラブだ。具体的にはレアル・ソシエダである。
49歳の指揮官イマノル・アルグアシル・バレネチェアは、若いタレントの育成で声価を高めている。19-20シーズンはレアル・マドリーからレンタル移籍してきたマルティン・ウーゴデールを、伸び悩みの状態から解放した。
19-20シーズンを6位でフィニッシュしたレアル・ソシエダは、新シーズンのヨーロッパリーグ参戦を決めている。ノルウェー代表ウーゴデールのレンタル期間延長も濃厚で、久保が加入すればレアル・マドリーが保有する若き才能の競演が実現する。
レアル・マドリーは19-20シーズンのチャンピオンズリーグでベスト16に勝ち残っており、8月上旬に決勝トーナメント1回戦を戦う。マンチェスター・シティとの決戦から逆算すると、チームは長期休暇を取らずに再集合するはずだ。
ジダン監督のもとに選手たちが集まれば、久保の去就も明らかになっていくだろう。新シーズンはどこで、どのクラブでプレーするのか。つかの間の休息を経て、「TAKE」の新たな冒険がスタートする。
(※)19-20シーズンのチャンピオンズリーグは、新型コロナウイルスの感染拡大により決勝トーナメント1回戦セカンドレグの途中で中断。欧州サッカー連盟は8月に未消化分を開催すると発表した。
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