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football2020.12.30

【2020年Jリーグ総括】“降格”のない、今年のJリーグにどんな未来を描いていくのか。

川崎フロンターレの歴史的な独走で、20年のJリーグは幕を閉じた。

今年のリーグが開幕するまで、わたしの中でもJリーグ歴代最強チームは20年ほど前のジュビロ磐田だった。当時、銀河系軍団と呼ばれていたレアル・マドリードとガチの勝負をやらせてみたい、と本気で思った。

だが、今年のフロンターレを見て、わたしの中の絶対王座は大きく揺らいでいる。それぐらい強い、それぐらい見事な勝ちっぷりだった。

問題は、他のチームである。

スペインでレアル・マドリードやバルサが、イングランドでマンチェスターの2チームやリバプール、ロンドンの強豪たちが10年以上も優勝から遠ざかることが想像できるだろうか。バイエルンがまったく優勝争いに絡まず、パリ・サンジェルマンが得失点差でマイナスに追い込まれる状況は? それが毎年続いたとしたら?

ヨーロッパでは常識となった、というか、なってしまった「勝負の沙汰もカネ次第」という現実が、なぜか日本では起こっていない。いや、ヨーロッパでも何年か、十何年かに一度、資金力の乏しい、およそ優勝候補とは見られていなかったチームがタイトルを獲得することはある。日本の場合、リーグで一番資金力のあるチームが勝つことの方が圧倒的に少ないという、世界的に見ても極めて奇矯な状況となっている。

子供の頃からボルシア・メンヘングラッドバッハ好きでバイエルン嫌いだったわたしからすると、資金力の乏しいチームが金満チームをやっつけるのは実に喜ばしいこと。ただ、時代の経過とともにグラッドバッハがバイエルンに圧倒されていった歴史を知るものとしては、レッズやグランパス、ヴィッセルが一向にタイトルに絡んできてくれないのは、日本サッカーの後進性を表しているようにも思えてしまう。

とはいえ、これからフロンターレが資金力を増強させていくか、ヴィッセルやレッズといった、カネはあってもビジョンが「?」なところが弱点を克服していくか、いずれにせよ、Jリーグでも時間の経過とともに資金力がより大きな意味を持っていくのは間違いない。

わたしが一番気になっているのは、ファンは今年のJリーグをどう見たか、ということである。

つまらなかった、やっぱりいつもの方式じゃないと……という声が圧倒的なのであれば、気にすることはない。だが、いつも通り面白かった、いつも以上に面白かった……なんて声が多数派だとすると、これは大問題である。

ご存じの通り、今年のJリーグは降格なしというルールで行なわれた。個人的に、この判断は大英断だったと思っている。

そもそも、なぜJリーグは降格システムを採用しているのか。有体にいってしまえば、ヨーロッパがそうしているから、である。過酷な競争システムがリーグのレベルをあげるとか、修羅場の経験が財産になる、などといろいろなメリットを言う人もいるが、それもこれも、すべてはお手本があっての話である。

だが、クラブを経営する側からすると、降格システムは諸刃の剣どころか、自滅の剣になりかねないところがある。降格の可能性がある限り、チームとしては極力選手に資金を割かなければならない。運営スタッフたちは極めてブラックな環境での労働を強いられる可能性も高くなると思われ、スタジアムなどに経費をかけることも難しい。新スタジアム建設のために予算を振り分けたあげく、チームが降格したら、目も当てられないことになるからだ。

それゆえ、J2やJ3のクラブの中からは、降格をやめてほしいという小さな声が聞こえてきていた。だが、ヨーロッパの常識という先入観があったからか、訴える側も聞く側も、どちらもそんなことが実現できるとは思っていなかったフシがある。

だが、コロナ禍に苦しむ財政基盤の弱いチームを救うために、Jリーグは降格のないシーズンを実施した。ファンは、メディアは、不可欠だと思っていたものがなくなったリーグを見た。

それが退屈でなかったとしたら?

リーグの降格システムがなければサッカーのレベルが担保できないというのであれば、アメリカMLSの隆盛は説明がつかなくなってしまう。そして、降格のないMLSは、Jリーグより後発のリーグであるにも関わらず、素晴らしいサッカー専用スタジアムを持つチームがどんどんと増えてきている。選手の平均年俸は日本円で3000万円を優に超え、最高給とりのカカーは8億ほどのサラリーを受け取っている。

ちなみに、日大山形のサッカー部出身ながら、いまはバスケットボールのプロ・リーグ、Bリーグのチェアマンを務める島田慎二さんは、Bリーグの降格ルールを撤廃することを決定した。降格があることによって生まれるドラマよりも、降格がないことによるメリットを考えたゆえだという。

その効果なのか、J2のFC琉球が未だ専用スタジアムを持てずにいる一方、Bリーグの琉球ゴールデンキングスは世界のどこに出しても恥ずかしくない、専用アリーナを持つことになった。今後も、日本各地にバスケットを楽しむためのアリーナが続々と誕生していく予定だとも聞く。

MLSやBリーグに共通していえるのは、ヨーロッパのサッカーでは常識になっている入れ替え制度による精鋭維持ではなく、エクスパンジョン(拡張)という道を選んだということ。彼らが今後どんな道を進むことになるのか。Jリーグとしても注視すべきだとわたしは思う。

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