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baseball2020.12.30

【2020年プロ野球総括】日本のプロ野球で世界最強を目指しているのは、ソフトバンクしかいない。

いろいろなことがあった今年のプロ野球だが、最後の最後、日本シリーズでソフトバンクが圧倒的な強さを見せたことで、ファンの関心が一気に持っていかれた感がある。

セ・パの実力格差と、その理由について。

言われていることは、どれもこれも一理あるし、どれもこれもつっこみどころがある。

たとえばDH制。9人が経験値を溜めていく野球と、10人が溜めていく野球。長い目で見れば、チームとしてより多くの経験値を溜められるのは、もちろん、後者になる。ふむふむ。

ただし、パ・リーグがDH制を導入したのは、かれこれ半世紀近く昔の話になる。もし本当にDH制がセとパの間に圧倒的な格差を生んだ要因だというのであれば、もっと早くこの現象は起きているはずでは?

ナ・リーグとア・リーグに実力差が見られないアメリカを理由に、DH制が原因ではない、というメジャー・リーグ通もいる。これまた、なるほどなるほど。

ところが、アメリカでは日本とは比較にならないぐらい移籍の数が多いので、両リーグの間で常に人材のシャッフルが行なわれている、だから日本と違って格差がつかないのだ──とメジャー経験者から言われれば、ありゃりゃ、やっぱりDH制が原因か、と逆戻り。

というわけで、現時点でのわたしは、DH制に大きな原因はありつつも、すべてではないのかも……という優柔不断な立場をとりつつ、でも一番の理由は“資金力”なのでは? と思うようになっている。

いまの日本プロ野球で、選手の平均年俸が一番高いのは? はい、ソフトバンク。

いまの日本プロ野球で、一番施設にお金を投じているのは? はい、ソフトバンク。

いまの日本のプロ野球で、本気で世界最強を目指しているのは? これまた、ソフトバンク。

いつの間にかすっかり失念されたというか、誰も本気で考えなくなってしまったようだが、巨人軍が創設された際の志も、メジャーを倒す世界一の球団を作ることだったはず。いまやほとんどのNPBのチームが自分たちの立場をメジャーの下部に位置するものと自覚してしまっている中、ソフトバンクは世界一を目指すことを公言し(どうやって、という問題はあるにせよ)、アメリカの超有望株を引き抜くという離れ業も演じている。

アトランタ・ブレーブスから1位指名を受けていたカーター・スチュワートのソフトバンク入団は、世が世なら、つまりアメリカがジャパン・マネーの威力に脅え、警戒していた時代であれば、大変な反響、ひょっとしたら反日運動を引き起こしていた可能性がある。それぐらいの大ニュース、大事件だった。

強くなるためにあらゆる手段を講じるソフトバンクのやり方は、明らかに日本球界の中で突出している。巨人相手、というか、どこが相手であっても2年連続のスイープとなるとちょっとできることではない。かつて黄金時代の巨人を倒すべく、関東と関西の巨大私鉄グループが牙を剥いたことがあったが、本気でソフトバンクを倒し、追い越すことを志すチームが出てこない限り、セ・リーグの劣勢は当分続きそうな気がする。

さて、阪神ファンのわたしは、05年、ロッテにこてんぱんにやられた時のショックをいまも忘れられずにいる。なので、2年連続でやられてしまった巨人の選手やファンの心境やいかに、と慮りたくもなる。ネットを眺めていると、DH制に敗因を求める人がいる一方で、シリーズでの全試合DH制を取り入れた原監督に対する怒りも目についた。

気持ちはわかる。本当によくわかるのだが、ひょっとしたら、原監督からしたらちょっぴり思惑通りなのかな、と思わないこともない。以前からセ・リーグにもDH制を導入すべきだと考えていた人からすれば、自軍の痛すぎる惨敗によって、その機運は一気に高まったのだから。

ただ、DH制の導入がソフトバンクを利することになったとしても、よもやスイープを食らおうとは原監督も考えていなかったはず。当然、誤算もヤマほどあっただろうし、その多くは、評論家はもちろんのこと、ネット上でも指摘されている。初戦で岡本が千賀の直球にバットをへし折られたこと、チャンスで丸が併殺打に倒れたこと、伏兵・栗原に一発を食らったこと──。

どれもこれも納得のいくご意見ばかりなのだが、そんな中、わたしが一番「おおっ」と唸ったのは、藤川球児さんの指摘だった。

「もちろん原監督のお考えがあったんでしょうけど、なんでキャッチャー、小林君を使わなかったのかなっていうのは思います。WBCを見ても、彼は短期決戦ですごくいい仕事ができる選手。リードするのが彼だったらどうだったかな、とも思います」

十数年前、初めてインタビューをさせてもらった時は「元気のいいお兄ちゃんだなあ」ぐらいにしか感じていなかったのだが、20年の藤川球児は、言うこと言うことが、いちいち重みのある、見事なワイズマン(賢者)に成長していた。

「なぜ菅野は栗原に打たれたか? それはですね──」

だから、2020年のプロ野球で一番楽しかったこと、驚いたことを問われれば、「藤川球児の頭の中身がすごかったこと」と答えたくなるわたしである。

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