東京五輪に挑むサッカー日本代表の可能性は、ベスト8以上、金メダル以下。
一次リーグ敗退以上、銅メダル以下。
シドニー五輪のあたりから、それがわたしの本大会における日本代表の成績予想だった。
五輪の準決勝に進出すること、実は、W杯に比べると遥かにたやすい。
そもそも、参加チームが16しかないため、1次リーグを突破すればもう準々決勝である。仮に4チーム中1位しか次のラウンドに進めないということになれば、予想はグッと悲観的なものに変えざるをえないが、2位でもOKとなればハードルはグンと下がる。幾分希望的観測というか、願望が混じり気味だったことは否定しないが、それでも、アジアの壁を突き抜けた日本ならばできると思ってきた。
残念ながら、予想のマックスに到達してくれたチームはいまのところ現れていないが、メダルに一番近づいたロンドンのチームは、実を言えば、21世紀に入ってからの五輪でわたしが一番「しんどいかな」と思っていたチームだった。なにしろ、あのときの日本が振り分けられたグループには、飛ぶ鳥を落とす勢いだったスペインがいた。そして、どれだけ楽観的に考えても、日本がスペインを倒すとは予想しづらかった。
ご存じの通り、予想は見事に裏切られたわけだが。
そもそもがプロ野球の順位予想においては、21世紀に入ってからたった2回しか的中させたことのない人間のいうことである。話半分、たっぷりと眉にツバを塗った上でお読みいただきたいのだが、今回の東京五輪にあたり、わたしはテンプレートのような予想を辞めることにした。
いや、阪神が優勝する、という予想は変わらないのだが、五輪における日本代表の成績予想を、『一次リーグ以上銅メダル以下』ではなく、『ベスト8以上金メダル以下』に上方修正することにした。
アルゼンチンとの2試合を見て、そうすることにした。
今回、はるばる日本までやってきてくれたU-24アルゼンチン代表は、実にアルゼンチンらしいというか、勝負強さ、骨太さを存分に感じさせてくれたチームだった。
南米予選では6勝1敗の成績で1位通過。0-3で敗れたブラジル戦は、すでに本大会出場を決めてからのもので、ブラジルが勝てなかった開催国コロンビアにグループリーグ、決勝リーグともに勝ちを収めていることからも、間違いなく南米予選最強のチームだったと言っていい。
そんな相手との、2試合ともにがっぷり四つに組んでやりあい、しかも第二戦では完全に相手を上回っての1勝1敗という成績は、会場がホームだったということを差し引いても無視はできない。
親善試合だから本番は違う、とか、アルゼンチンには主力がいなかった──などと言って、今回の2試合を過小評価する声があることは知っている。ごもっとも、ごもっともだとは思うが、ただ、アルゼンチンは親善試合だからといって力を抜く国ではないし、何人かの主力がいなかった分、抜擢された選手は逆転でのメンバー入りに死に物狂いになっていた。少なくとも、本大会出場を決め、ホッとした状態で臨んだ南米予選のブラジル戦よりは、はるかにガチだったのではないかとわたしは思う。
それでも信用できない方は、アルゼンチン・サッカー協会(AFA)のホームページに飛んで、代表チームが3点差で負けた試合がどれほどあるか、そしてどんなチームに負けたのかをぜひとも調べていただきたい。
今回、若い日本の選手たちがなし遂げたことの大きさが、お分かりいただけるはずだ。
とはいえ、3-0というスコアに引っ張られすぎてもいかんな、とは思う。3点のうち2点はCKからのヘッド2発だったが、本番になれば、このあたりは徹底的に警戒されてくる。もちろん、日本としてはその上をいけばいいだけの話なのだが、いまは計算に入れておかない方がいい。
ただ、東京、北九州での2試合を通じて、現時点での日本にあってアルゼンチンにはないものも見えてきた。
“ホットライン”の萌芽である。
これは世界中どんな国の年代別代表にも当てはまるのだが、チームに“賞味期限”がある関係上、指揮官たちは、まず約束事を浸透させることに専念せざるをえない。時間をかけて選手同士の関係性を熟成させていこうにも、国際Aマッチではない年代別の代表チームは、クラブチームの都合で選手の招集がままならないこともあるからだ。
その傾向は、アルゼンチン代表にも見られた。確かに強いチームではあったものの、見ていて「あ、コイツとコイツの関係は危ないな」と感じさせるものはほとんどなかった。
第一戦は、日本も同様だった。だが、北九州での試合では違っていた。
久保と相馬が、感じ合い始めていた。
第一戦での久保は、言ってみれば82年のマラドーナだった。意欲はある。能力もある。だが、すべてを自分でやろうとして、結局はつぶされていた。
第二戦での久保は違った。時間の経過とともに、彼は相馬を使うようになった。というか、久保が出したいと思うタイミング、エリアになぜか相馬がいることが多かった。ブルチャガやバルダーノを操った86年のマラドーナがわたしにはダブった。
このチームは、もっともっと強くなる──。
こんなに楽観的なことを書いておきながら、いざ組分けが決まり、アルゼンチンやメキシコと同じグループになってしまったら、わたしはコソコソと自説を撤回することになるかもしれない。
けれども、いまは思う。
東京五輪に挑む日本代表の可能性は、ベスト8以上、金メダル以下。
実は結構、自信はある。
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