大迫勇也、新天地ヴィッセル神戸で新たな歴史への一歩を刻む
貫禄ある第一歩だった。
サッカーJ1リーグのヴィッセル神戸に加入した大迫勇也が、8月25日のJ1第26節で新天地デビューを飾った。2014年1月からプレーしてきたドイツを離れ、神戸のチーム練習に合流したのは23日だった。中1日で迎えたリーグ戦でいきなりスタメンに名を連ね、76分までピッチに立った。それだけでも十分に評価されるべきだが、日本屈指のストライカーはさすがのクオリティーを見せつけるのだ。
4-2-3-1のシステムで1トップに入ると、相手センターバックを背負いながらボールを引き出し、しっかりとキープする。対戦相手の大分トリニータが3-1-4-2の立ち位置でスタートしたため、アンカーの脇へ下りてボールを引き出す場面もあった。ストライカーに使われる「ボールを収める」との表現は、彼にこそふさわしい。
1対1で迎えた前半終了間際には、2点目を演出した。左サイドへ流れながら縦パスを受ける。難なくターンをしてゴール前へラストパスを送ると、武藤嘉紀のアクションがディフェンダーのハンドを誘う。主将のアンドレス イニエスタがPKを蹴り込み、神戸は2対1でリードを奪った。
86分にダメ押し点を入れ、ヴィッセルは3対1で勝利した。試合後の三浦淳寛監督は、大迫のプレーに及第点を与えている。
「トレーニングで良いプレーをしていたので、最後まで持たなくてもいいから先発でスタートして、なるべく長い時間プレーをして、周りの選手と連携をとりながら、選手の特徴をつかんでいってほしいと思い最終的に決断しました。彼が入ることでボールがしっかりと収まる。そのぶん中盤の層が厚くなって、攻撃がいい方向へ進んでいく。ゴールこそなかったですが、守備面でも良くやってくれていました」
期待十分のデビューでありながら、コンディションはまだ調整過程なのだ。ヨーロッパに比べて圧倒的に湿度の高い日本の夏は、長くドイツでプレーしてきた大迫に厳しいものがある。トップフォームを取り戻すには試合を重ねることが必要だが、いよいよ全快となったらどんなプレーを見せてくれるのだろう。
三浦監督は「コンディションはこれからだと思うので、そこは試合をやりながら上げていけるだろうし、コンビネーションも良くなっていくと思う」と期待を込める。他でもない大迫自身も、「試合をすることでコンディションは上がると思います。今日できたことは次につながると思っています」と前向きだ。
およそ7年半ぶりのJリーグ復帰は、ストライカーとしての本能に従ったものだった。ブレーメンでも戦力として見なされていたが、FWとしての出場は確約されていなかった。その一方で、不動の1トップを務める日本代表では、コンスタントに得点やアシストを記録している。本能のささやきに耳を傾けた大迫は、神戸への移籍を選んだのだった。
8月22日の入団会見ではこう話している。
「色々な選択肢があったなかで、フォワードとして純粋にもう一回ゴールを取り続けたいな、と。そして、チームを勝たせたいという思いが強かった。タイトルを取りたいというその思いだけで移籍を決めた。全力を尽くしたいですし、何かを成し遂げたいと思います」
自らの強みを聞かれれば、「点を取りたいという思いでずっとやってきたので、それだけですね」と話すのだ。ブレーメンで強制的に封じ込められていたゴールへの獣性を、神戸では思い切り解き放つに違いない。
クラブレベルでの復活を期す31歳は、頼もしいチームメイトに囲まれている。大分戦でトップ下のポジションを務めたイニエスタは、言わずと知れた元スペイン代表のスーパースターだ。37歳となった現在も、創造性溢れるパスで攻撃を組み立てている。
2列目の右サイドには武藤がいる。大迫と同じく8月に加入が発表された29歳とは、2トップを組むこともあるだろう。前線にはフィジカルに長けたブラジル人FWドウグラス、バルセロナでプロデビューを飾った元スペイン代表ボージャン クルキッチもいる。8月28日に31歳となるボージャンも今夏の加入で、Jリーグデビューが待たれる。
中盤ではセルジ サンペールと山口蛍が存在感を発揮する。大分戦で2列目の左サイドでスタートした山口は、前線の充実ぶりから本来のセントラルMFでの出場が増えそうだ。
最終ラインには酒井高徳がいる。左右両サイドでプレーするポリバレントなプレーヤーは、大分戦で武藤のアシストから先制点をマークした。ベルギー代表ディフェンダーのトーマス フェルマーレンも、ディフェンスを支える経験者だ。
大迫、武藤、山口、酒井と、ヴィッセルにはワールドカップ出場経験を持つ4選手が揃った。国際的な実績を持つ外国籍選手、日本人の若手と中堅を含めて、保有戦力はJリーグ屈指と言っていい。リーグ戦で首位を走る川崎フロンターレ、同2位の横浜F・マリノスを追いかけ、AFCチャンピオンズリーグ出場圏内の3位につけている(順位は8月25日現在)。
ヴィッセルというクラブについて、大迫は「2年前(2020年元旦決勝)に初めて天皇杯というタイトルを獲って、これからのチームだと思います。これからタイトルを積み重ねていけるようにしていきたい」と話す。野心溢れるクラブでは、プロでは初となる「10」を背負う。
「10番だから特別なプレーをするのではなく、ドイツのクラブや日本代表でやってきたプレーをそのまま出していきたい。そうすれば自然と定着してくれると思うので、まずは自分にフォーカスを当ててしっかりとプレーすることしか考えていません」
自らにフォーカスを当てるのは、プロフェッショナルとして大迫のスタンスだ。日本代表では攻撃の柱であり、勝敗の責任を背負う立場となっているが、「まずは自分がしっかりしたプレーを見せることが大事で、それが若い選手の助けにもなると思うので。自分のプレーで違いを作り出せるように、というのは考えています」と、力みのない表情で語る。
キャリアの円熟期を迎えているなかでのヴィッセル加入は、野心や決意といったものを感じさせる。国内外で積み重ねてきた経験や実績を生かし、日々の練習で絶えず自身を磨きながら、大迫はヴィッセルに貢献していくのだろう。
「苦しい時にチームを助けられる存在になりたい、というのが理想のFW像です。点が欲しいところで取れるFWを、つねに求め続けています」
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