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football2021.12.10

2年連続でJリーグ王者に輝いたことで、川崎フロンターレが手に入れた財産がある。

いやあ、参りました。脱帽です。

シーズン開幕前、わたしはフロンターレを優勝候補から外した。もちろん強い。優勝争いに最後まで絡んでくるのは間違いない。そう踏んだ上で、あえて外した。

理由はいくつかある。ただ、一番大きかったのは、誰もがフロンターレを強いと認識しているから、だった。

コロナ禍の影響で、昨年のJリーグには降格がなかった。通常のシーズンであれば、フロンターレを相手にするとなればハナから勝ち点3を諦め、ガッチリと引き分け狙いでぶつかってくる相手が、失うものは何もないとばかりに真っ向から挑みかかってくる。チーム力で上回る側からすれば、実は願ったり叶ったりの展開である。

そんな状況で量産したゴールと勝ち点を、降格制度が復活するシーズンでも計算していいものか。おそらく、Jリーグで最も相手が勝ちに来てくれない状況での試合が連続する今シーズンのフロンターレを、本命に推していいものか──わたしの結論はノーだった。

フロンターレほどには警戒されない、マリノスやヴィッセル、グランパスに分があるのでは、と思っていた。

しかも、21年のフロンターレからは、長年チームの精神的支柱として君臨してきた中村憲剛が抜けた。どんなチームにでも必ず訪れる危機的状況を、リーダーを失ったフロンターレは深手を負うことなくクリアできるのか──これもまた、わたしの答はノーだった。

さらにいうなら、東京オリンピックの影響もあって、選手にとっては極めて過酷な戦いと真夏の時期に、フロンターレはアウェーばかりの連戦が組まれていた。8月9日の大分から9月22日の鹿島まで、実に1カ月半もホームから離れるとなれば、どんな強豪であっても、本来は苦戦必至である。

ところが、下手をすれば総崩れになっていても不思議ではない状況を、彼らはわずか1敗を喫しただけで乗り切った。しかも、東京オリンピック明けに、三笘、田中という2人の主力を失いながら、勝ち点を重ねるペースはほとんど落とさなかった。

これはもう、見事というしかない。

ひょっとしたら、内情は外から見るよりもずっと苦しかったのかもしれない。外部にはわからない、絶体絶命の状況もあったのかもしれない。だが、傍から見ている限り、21年のフロンターレは、中村がいなくなっても、田中や三笘がいなくなっても、変わらずフロンターレであり続けた。



誰が出ても、チームの異物となることなく、すんなりと溶け込んでいるように見えた。

2年前は違った。おそらくはバルサ時代のグアルディオラがイブラヒモビッチを加えたように、ある種の化学反応を期待しての獲得だったであろうレアンドロ・ダミアンは、バルサでのズラタン同様、最後まで異物のままだった。期待された化学反応は起きず、チームは連続優勝にストップをかけられることになった。

だが、21年のフロンターレに異物はいなかった。というより、新しく加わった選手が、どんどんとフロンターレの色に染まっていった。

印象的だったのは旗手だった。

大学時代から日の丸をつけていた彼が優れた才能の持ち主であることを疑う人はいないだろうが、たとえば1年前、「旗手は家長のような選手になる」と予言する人がいれば、わたしは間違いなく言っている。

「いや、それはないでしょ」
 

ご存じの通り、家長は本田圭佑が昇格できなかったトップチームにガンバのユースからあがった男である。あまり軽々しく使うべき言葉ではないが、「天才」という表現がよく使われた選手でもある。
 

一方で、学生時代の旗手は、静岡学園出身者らしく技術的には高いものを見せてはいたものの、彼のプレーを「天才」と評した人はほぼいなかったように思う。スポットライトがあたっていたのは、そのスピードや運動量、あるいは得点力だった。

だが、今シーズンの旗手は、「あれ?」と思うほどに家長っぽくなっていた。特に、時折任されたフリーキックのキッカーぶりは、ほとんど家長そのものといってもいいぐらいだった。

はっきり言えば、フロンターレに入ってからの彼は、明らかに上手くなっていた。

フロンターレほどの立場になると、求められるのはどうしたって即戦力ぶりである。弱小チームのように、才能ある若手を我慢して育てていく余裕はほとんどない。それは、ヨーロッパの強豪と言われるチームについても同じことがいえる。

たとえば、バイエルンのレバンドフスキーは、バイエルンに来た時からレバンドフスキーだった。バイエルンに入ってから新たな引き出しを増やしたのは事実としても、ドルトムント時代から、いや、もっと前のポーランド時代から、彼は得点力を評価される選手であり続けてきた。

だが、フロンターレでの旗手は、順天堂大学の旗手ではない。できることも、使われるポジションも、ほとんど別人といっていいぐらいに変わっている。これはつまり、止める、蹴るを極めて細かく定義化した風間時代の伝統が色濃くのこるフロンターレの日常が、世界的に見てもかなり稀であることを意味している。

誰かに頼るサッカーは、誰かが抜けると脆い。しかし、フロンターレは違う。個人の資質を重視しつつ、誰が出ても一定のレベルが担保できるチーム作りをしている。

しかも、勝ちを重ねたことで、彼らは以前にはなかった勝負強さも獲得しつつある。

かつて、イングランドの伝説的ストライカー、ガリー・リネカーは言った。

「フットボールというのは単純なスポーツだ。22人の男たちが90分間ボールを追いかける。そして、最後はドイツが勝つ」

リネカーを嘆かせた時代のドイツは、必ずしもサッカーの質では評価されていない部分もあったが、今シーズンのフロンターレは、美しさを保ちつつ、ドイツ的なしぶとさまで身につけた。シーズンで彼らが喫した黒星はわずかに2つ。そのうちの一つは優勝が決まった次の試合のもので、もはや、フロンターレが負けることはJリーグ最大のトピックと言ってもいい。

というわけで、もし来年もスポニチさんから優勝予想の依頼がきたとしたら、わたしはもう迷わない。

フロンターレ一択である。

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