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football2022.02.18

槙野智章の加入でヴィッセル神戸はついに最後のピースを手に入れた

暴論を承知で言い切ってしまえば、サッカーにおけるディフェンダーは、脇役である。

そうではない、という方もいるだろうが、サッカーを見る人の多くは、ゴールを期待している。ゴールを奪う人=主役とすれば、当然、防ぐ人は敵役、脇役となる。

だが、主役級の俳優ばかりをズラリと揃えた映画やドラマが必ずしも傑作になるとは限らないように、サッカーもまた、最高級の攻撃的タレントを揃えただけでは立ち行かないところがある。歴史に名を残すようなチームのほとんどには、ゴールを量産した主役にも負けないぐらいの輝きを放つ脇役がいた。

いや、違った。主役に負けないぐらいの輝きを放つ脇役のいないチームが、歴史に名を残したことはなかった、というべきかもしれない。

ワールドカップの歴史をザッと振り返っただけでも、66年のイングランドにはボビー・ムーアがいたし、70年のブラジルにはカルロス・アルベルトが、74年の西ドイツには言わずと知れたフランツ・ベッケンバウアーがいて、わたしが愛してやまない78年のアルゼンチンにはダニエル・パサレラがいた。98年のフランスのように、ローラン・ブランやリリアン・テュラムといった脇役(ディフェンダー)が、主役を超える働きをしたチームもある。

クラブチームについても同じことは言える。リリアン・テュラムの息子、マルクス・テュラムが所属するボルシア・メンヘングラッドバッハの全盛期にはベルティ・フォクツがいた。オランダ・トライアングルで一世を風靡したミランにはパオロ・マルディーニやフランコ・バレージがいて、21世紀に入って世界に最も大きな影響を及ぼしたクラブの一つ、バルセロナにはカルレス・プジョールがいた。

チームの精神的支柱となる、脇役がいた。

というわけで、ヴィッセル神戸はついに最後のピースを手に入れたのでは、という気がしている。

近年のヴィッセルがJリーグを代表するタレント集団であることに疑いの余地はない。何しろ、イニエスタがいる。ボージャンもいて、大迫や酒井といった日本代表選手もいる。

ところが、他を圧する莫大な資金を当時ながら、イニエスタ加入以降のヴィッセルが獲得したタイトルはといえば、天皇杯の一冠のみ、である。コストパフォーマンスというか、投じた資金の対価としては、あまり納得のいくものではない。

パリ・サンジェルマンの例を見れば明らかなように、どれほどの資金を投じ、どれほどの戦力を集めようとも、結果はすぐに出るものではない。ヴィッセルの場合、なぜこんなにも豪華なメンバーを、なぜ監督経験のなかった三浦淳宏に任せたのかという疑問はあるが、失敗だった、あるいは結果が出ていないと断じるのは早計のように思う。

ただ、これまでのヴィッセルに、フォクツやバレージ、プジョールのような存在がいなかったのは事実である。

昨年まで所属していたトーマス・フェルマーレンが素晴らしい選手であることに疑念をはさむつもりはないが、しかし、彼はベルギー人だった。チームの多数派である日本人を言葉でリードすることはできなかった。どれほど素晴らしい選手であっても、これではプジョールやセルヒオ・ラモスのような存在になるのは難しい。

そんなチームが、槙野智章を獲得した。



純粋に戦力としてのみ、あるいは戦術的役割のみを考えた場合、フェルマーレンが抜けた穴を槙野に埋めることができるかどうかは、正直、微妙なところである。ただ、プジョールより上手い選手はいても、プジョールより頼りになる選手はいなかったように、槙野には槙野にしかできないプラスαをもたらす可能性がある。

07年、カナダでのU-20W 杯から感じていることなのだが、槙野という選手にはチームの雰囲気を盛り上げ、一体化させるほとんど特殊といってもいいほどの能力がある。そして、結果的にこの大会で準優勝することになるチェコを相手に先制弾を決めたり、レッズ最後の試合となった天皇杯決勝でもあまりにもドラマチックな一撃を決めたりと、節目節目で重要なゴールも産み出してきた。

先に例としてあげた偉大なる脇役は、皆クラブの生え抜きだった。その点、レッズからの移籍となる、しかもすでにベテランの域に入っている槙野がチームの顔に、欠かせない脇役になれるかは、少々微妙なところもある。

ただ、必ずしもJリーグの伝統クラブ、名門クラブとは言い難いヴィッセルの場合、ヨーロッパの名門ほどには生え抜きにこだわる空気はないはずで、そこは槙野にとってもプラスとなる。ヴィッセルの主軸になることは、いわゆるオリジナル10と呼ばれるクラブで顔となることとは少し違う。

というわけで、槙野がチームの精神的な核となり、選手同士だけでなく、ファンをも巻き込んだ一体感を産み出すようなことになると、今年のヴィッセルは、黄金期への第一歩を踏み出すことになるかもしれない。

槙野が加わったヴィッセル、駒の揃わない大分で結果を残してきた片野坂監督が指揮を取ることになったガンバ、パワハラ問題で一度は地獄に落ちた曹貴裁監督率いるサンガと、今年のJリーグは関西勢が話題の中心になっていきそうな気がする。

ただ、谷口のいるフロンターレは、何だかんだいっても崩れなさそうなんだよなあ。

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