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football2022.06.28

サッカー日本代表の6月4連戦で見えた収穫と課題、目指すべき方向性とは。

パラグアイ戦は素晴らしかった。ブラジル戦には失望した。ガーナ戦ではまた気分が盛り上がってきて、チュニジア戦で叩き落とされた──というのが、6月の4連戦を終えての個人的な印象である。

カードの組み合わせが発表された時点では気付かなかったのだが、今回の4連戦、1試合だけ完全に毛色の違うものがあった。

チュニジア戦である。

パラグアイ、ガーナはもちろんのこと、ほぼ全面的に日本を圧倒したブラジルにしても、試合前に日本のスタイルや個人を研究した気配はほとんどなかった。彼らからすれば、日本での試合は自分たちの力量をチェックするための場であり、勝つために特別な手段を講じたりはまるでしていなかった。


これは何も、日本を軽視していたから、というわけではない。勝つつもりがなかった、というわけでもない。ただ、相手を徹底的に分析し、いいところをつぶそうとするのが当たり前となるW杯とはまるで違った戦いを彼らが選択した、というだけの話である。


そして、そうした戦い方をしてくる相手であれば、いまの日本には十分に圧倒するだけの力があることを証明したパラグアイ戦、ガーナ戦だった。これはこれで、十分に評価すべき進歩、進化である。ブラジルにまるで歯が立たなかったのは事実だとしても。

だが、チュニジアの戦い方は違った。彼らはまるで、アジア最終予選を戦ったオマーンのようですらあった。まず遠藤を封じ、鎌田を消す。やみくも、ではなく、意図した形でGKとDFの間に長いボールを入れる。ゴールを奪うたび、彼らは公式戦さながらに歓喜する姿を見せたが、そこには試合前のプランが的中した喜びと、この試合にかける思いの強さが現れていた。


日本が、森保監督がチュニジアを研究していなかったとは思わない。というか、研究した挙げ句があの有り様だとしたら、そちらの方がよっぽどまずい。とにかく、パラグアイやガーナ、そしてブラジルはさしたる情報や先入観を持たずに日本戦に臨んできたが、実を言えば、それは日本も同じだった。勝利を求めていなかったわけではないが、勝利だけを求めていたわけでもなかったのだ。

では、森保監督は勝利以外に何を求めていたのか。

プラスアルファ、だろう。マリアージュ、と言い換えてもいい。アジア最終予選では使わなかった、試さなかった、新しいパターンの組み合わせと、そこから起きる化学変化の萌芽を探していたのだとわたしは思う。

だが、残念ながら期待していたものは見つからなかった。チュニジアに0-3で負けたことより、そちらの方がわたしにはよほどショックである。


個人としての発見ならばあった。シュツットガルトの伊藤の速さと強さは、代表レベルでも十分に生かされていた。板倉の安定感とフィード能力は、日本の守備陣にまた新しい選択肢をもたらしてくれた。逞しさと繊細さを両立させた原口のプレーぶりは、この6月4連戦最大の収穫だったと個人的には感じている。

ただ、これらの収穫はすべて個々のものだった。なおかつ、アジア予選に出場したメンバーに比べて劣っていないことは証明されたものの、戦力の大幅な向上を予感させてくれるものではなかった。

予選で日本に完敗したオーストラリアがプレーオフでペルーとほぼ互角に渡り合ったこと(PK勝ち)からもわかるように、アジアのレベルは日本人が思いこんでいたほど低くない。とはいえ、ヨーロッパや南米の強豪を圧倒するには実力、経験値ともにまだまだ不足しているのも事実。本大会での組み合わせを考えれば、予選の戦力にさらなる上乗せを期待するのは当然だ。


そうした観点から6月4連戦を振り返ってみると──悪くはなかった、いや、日本サッカー全体としての底上げは体感できたものの、W杯へ向けてはだいぶ物足りなかったというのが、率直な感想である。

もちろん、サッカーの感じ方は千差万別であり、こんなサッカー、こんな結果や内容で大丈夫なのか、森保監督に任せておいていいのか、とお思いの方もいらっしゃるだろう。わたしは、不満はあるものの森保監督で大丈夫だと考える人間だが、彼ではダメだという意見も尊重する。

だが、攻撃が個人頼みであり、ゆえに森保監督を解任すべきだという意見には賛同しかねる。

まず大前提として、チームとして過ごす時間の長いクラブチームと、期間限定で結成される代表チームとでは、監督に求められる要素がまるで違う。日本では同じ「監督」という言葉で括られるが、スペインではクラブチームの監督が「エントレナドール(練習させる人)」、代表監督が「セレクシオナドール(選ぶ人)」と、名称からして違っている。日本代表の攻撃に緻密な連携を求める人は、そこを混同しているようにわたしには思える。


さらに、個人頼みの攻撃がけしからんというのであれば、ブラジルがネイマールに頼るのも、アルゼンチンがメッシに頼るのもけしからんということなのだろうか。「そうだ、けしからん」というのならまだわかるが、ネイマールはよくて伊東や三笘がダメだというのでは筋が通らない。

しかも、今回の日本代表では、突破力のある選手がサイドに張り出したことで生まれた中のスペースにサイドバックが飛び込む、という形が何回か見られた。個人頼み、ではなく、個人を生かした攻撃だったとわたしは感じた。不満があるとすれば、その頻度、精度ともに新たな武器と言えるレベルには達していなかった、ということだ。


ちなみに、現時点でのわたしが日本代表に対して感じている最大の不満、物足りなさは、南野、鎌田、久保の3人が、一度たりとも熟成した関係性を見せてくれていないこと。言い方を変えれば、日本でもトップクラスの才能を持つこの3人の間にマリアージュ、化学反応が起こらない限り、カタールでの日本代表は期待薄、だと思っている。

いずれにせよ、これでヨーロッパのクラブに所属する選手たちにとっては、短い休暇の時期に入る。選手によっては、この間に移籍話が進む者も出てくるだろう。環境が変わることによって、選手も劇的に変わることがある以上、日本代表の面々にはポジティブな移籍、変化を期待したいし、Jリーグでプレーする選手には、海外でプレーする選手以上に、目に見える形での結果が欲しい。

アタッカーたちには、特に。

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