中村憲剛独占インタビュー『日本サッカー発展のために今すべきこと。指導者として葛藤しながら、日々を歩んでいる』
川崎フロンターレや日本代表でも、中盤のゲームメイカーとして長年に渡りピッチ上で輝き続けた中村憲剛氏。引退後は、育成年代のサッカー指導やJリーグの普及活動などに関わり、日本サッカー界の未来を託されている一人だ。
そんな中村憲剛さんの足元を長きに渡りサポートしている、『ミズノ』主催イベントが Alpen TOKYOにて開催された。今回は、イベント前に行われた独占インタビューとイベントレポートに分けてお届けします。
■中村憲剛独占インタビュー
――引退されて丸2年が経過しましたが、現在の日々の生活スタイルはどんな感じですか?
選手の頃はチームスケジュールで動いていたので、管理されている状態でしたし、空いているところを家族の時間や自分の活動に充てていた感じです。今はスケジュールをある意味自分で決められる立場ではあるので、家族の行事や子どもの学校行事を可能な範囲で確保した上で、いただいたお仕事をスケジュールに照らし合わせて入れていく形になったので、毎日違うことをしている感覚です。お仕事に臨む心構えとしては、自分にとってもオファーをしてくださったみなさんにとっても、オファーを出して良かったと思ってもらえるような時間を過ごすことです。そういう意味では毎日充実していますし、選手の時の楽しさとはまた違う楽しさの日々ですね。
――日本サッカー協会のロールモデルコーチに就任し、U-17日本代表のコーチを担当して中高生世代を見られていますが、その世代に必要な意識をどう感じていますか?
こちらから言われたことに対して、しっかりとやろうとする子たちが多い印象です。サッカーが「習い事化」している世代でもありますし、情報が溢れている時代でもあるので、ある種言われることを待ってしまう、「教わり待ち」の受け身の姿勢が少し強いかなと感じています。比較するのも無意味だとは思うのですが、僕らの時代は情報が逆になかったので、教わるというよりも与えられたメニューの中で自分たちでどんどん面白いことを探しながらやっていた感覚です。 それによるメリット、デメリットはありますが、もっと自分の好きなようにやっていいし、こちらの顔を見ながらやっているところを少し感じます。
――確かにJリーグが誕生して30年になりますが、日本サッカー界の発展とは別軸で個性的な選手が少なくなっている印象はありますよね。
指導者をはじめた当初は、現役時代にやってきたことを育成年代にそのまま落とし込んでやった方が、もっと早くプロでプレーするためのベースが獲得できるのではと思っていました。ですが、それをやりすぎてしまうと10代である彼らの発想力がなくなり、自由度が狭まってしまうのではと考える時もあります。僕は、35年かけてサッカーをある種効率的にやる術を覚えたので、それを全てそのまま彼らに伝えてしまうと自分で考えなくなるというか。若い頃にある「(自分にとって)これやる意味あるの?」っていう時間が必要な時もあるじゃないですか。
僕は、学生時代に沢山の回り道を経験して、自分のスタイルが磨かれていきました。最初から効率的にサッカーを上手くやれるようにアドバイスをすることは、実は選手の為にならないのかもしれないと思い始めている自分もいます。
ただ、サッカーをやる上で大事なことはそこまで変わらないと思っています。ボールを足で扱うスポーツである以上、その正確性は絶対だと思いますし、前を向くことは昔も今もサッカーでは非常に大事なプレーです。そこは伝えた方がいいかなと。(いろいろと)指導者として、今は葛藤しています。
サッカー観自体は変わっていないんですが、子供たちにどう接し、どう成長してもらうかという課題に対しては、考え方があっち行ったりこっち行ったりする日々ですね。
――憲剛さんの時代と若い世代のスパイクなど、サッカー用品に対する価値観の変化を感じますか?
これもまた時代が進んで、スパイク、ウェア、サプリメントとたくさんある情報の中から選ぶので、ミズノさんはじめメーカーのみなさんも大変だと思います。僕らの時は情報が少ない分、自分に合ったものを履けばよかったけど、今はユーザーの情報量や知識が多くなって、求めるレベルがより高くなってきている印象です。メーカーさんの日々の努力は多岐に渡ると思います。選手も保護者の皆さんも意識が高いですよね。本当にいいものじゃないと、信頼されないし、なかなか続かなくなっている時代かもしれませんね。
――引退して、以前ほどボールを蹴らなくなったと思いますが、スパイクとの向き合い方や捉え方などは、変化などありましたか?
それは全くないですね。『モレリア』は引退して指導者として履きますけど、信頼は変わりません。むしろ 『モレリア』だからこそ、いつも通りやれる安心感が指導者としてもあるので 非常にありがたいです。指導している選手にも、スパイクの話になった時には、たまに薦めたりもしますよ。
――Alpen TOKYOの印象(お店の雰囲気やサッカーコーナーなど)をお聞かせください。
僕は、小学校の頃からスポーツショップに通うのが大好きな少年でした。 小金井市にあるスポーツ店が高校時代の帰り道で、ほぼ毎日寄っていましたね。スタッフとも仲良しで大好きでした。買わないんだけど、見て話すのが好きという。
「新しい商品が入っているかな?」とか、2足で4000円のスパイクとかを買ったりしていました。
Alpen TOKYOにも、当時の僕のようにスポーツショップが好きで来ている子が絶対いると思う。これだけお店が広かったら必ずニーズに合う商品が提供できると思うし、新宿にこれだけ広いお店があるのは本当に凄いことだなと思います。
―――サッカーコーナーだと、最初にどういったコーナーに立ち寄りますか?
僕は、スパイクのポップを結構見入ってしまうんですよね。○○選手が着用とか。本屋と一緒でポップに注目しちゃいますね。この商品、○○選手が愛用なのか、そうなんだみたいな感じで気になっちゃいます。
――例えば、憲剛さんがモレリアのポップ(中村憲剛着用)を書くとしたら、どんなメッセージ(オススメポイント)を書きますか?
“全プレイヤーに合う最高のスパイク”って書きます。1回でも履いたらもう戻れない、圧倒的な素足感覚と軽さ。誰もがあの履き心地に魅了されると思います。
――引退してからサッカーの奥深さや楽しさなどの変化を感じていますか?
プレイヤー目線と指導者目線で同じ現象を見ていても、見方が違うのでまず面白い。
育成年代の選手たちに関わることが多いんですけれど、一人ひとりの伸び率が大人とはまた全然違う。
身体能力や技術、戦術眼など見ていて少し厳しいかなと思っていた子が半年後にレギュラーになっていたり。育成年代の成長曲線に関しては、未だに見る目ないと自分で思っています(笑)。
――憲剛さんの中でこういう選手を育てたい、こんなチームを作っていきたいというイメージはあるのでしょうか?
チームに関して言えば、正直チームの枠組みはその時にいる選手たちの個性が決めるものと思っています。枠組みを先に作るとその枠組みの範囲内にしかチームの最大値が伸びない。
だけど、選手一人ひとりがどんどん伸びていけば、その合計がチームの最大値になる。その作りであれば天井はありません。一人ひとりがどんどん伸びてチームが大きくなる。そっちの方が面白いじゃないですか。選手で言えば、どんな状況にあっても常に自分で解決ができる選手が育ってほしい。自分たちで自由にどんどんチームを作り上げていくような。
ただ、自由にやるためのチームにおける基本的な考え方は当然伝えなければなりませんし、自分が培ってきた経験を彼らと共有しながらやっていきたい。チームの共通項や土台があった上で自分たちが納得して、前向きに成長しながら躍動してくれるのが理想です。 まだ1からチームを率いた経験がないので、トータルマネジメントは監督を経験しないと難しいと思いますね。
――W杯をご覧になって、日本サッカーが進むべきスタイルをどう感じていますか?
カタールW杯は、選手たちの対応力や森保さんの決断力が発揮されて、ベスト16まで行きました。ただ、そこからもう1個上に行くとまた違う世界だったと見ていて思いました。
日本代表は、ベスト16でしたけど、あそこから決勝まで行くのは別次元だなって。
だからこそ、“個”を育てないといけないし、“組織”をより強固なものにしなければなりません。例えば、エムバペやメッシみたいに1人でなんでも出来ちゃうような選手も必要だろうし、それを支える選手も必要。
チームとしても、攻撃や守備において幅を持った戦い方、相手を見ながらシステムを変えていける対応力を養っていくべきですし、その中で三笘薫のような個で打開できる選手が出てくることで、個も組織もレベルが上がっていくと思います。
あとは、今いる選手たちが、主体的に崩せるビッグクラブに移籍すること。例えば、マンチェスターシティーやレアル、バルサのようなチームで日常的にプレーしていれば、代表チームもそういう戦い方やマインドに行きつくと思います。今すぐではないかもしれませんが、可能性は間違いなく広がってきているかと。
――プレミアリーグで三笘選手の活躍が凄いですが、川崎時代の先輩としてどう見ていますか?
薫は才能がすごくある上に、誰よりも自分を知っていて努力ができるタイプ。努力を絶えず続けている男なので、自分の才能に溺れない。 才能があって誰よりも努力できる。今の彼を見ていて、ある意味驚きはありません。まだ底は見せていないと思います。
――最後にサッカーを頑張っている中高生に、憲剛さんからエールやアドバイスをいただければと思います。
大事な事は、やり続けることだと思います。かと言ってただやみくもにやるのではなくて、しっかりと自分のプレーと向き合って、いま何をすべきかを分析し明確に考えて進む。コーチや親に言われたことをただそのままやるのではなく、自分でそれが必要だと納得して前向きに取り組むものこそが、本当の意味で続くものだと思います。
だからこそ、やり続ける。自分で歩みを止めたら当たり前ですが、終わりですし、誰も助けられません。でも、愚直に頑張り続けていれば、誰かが手を差し伸べてくれる。この世界はやり続けた選手が勝つんです。みんなどこかで自分の可能性に限界を感じて、歩みを緩めたり、止まったりしてしまいます。なので、自分を信じて続けることが1番成長に繋がり、その延長線上に自分が望む自分になっているんじゃないかなと思いますね。
次の記事ではAlpen TOKYOで開催されたイベントでの中村憲剛さんのトークセッションの模様をお届けします。