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football2024.09.10

南野拓実、モナコでの輝きを日本代表へ繋げられるか—真価が問われる時

つくづく、印象というのはアテにならないものだなと思う。

南野拓実。セレッソが生んだ最高級の才能。ザルツブルクへのステップアップまでは順調だったものの、リバプールへの移籍で躓いた。ザルツブルクでチームメイトだったハーランドが、ドルトムントというワンクッションを挟んでからのプレミア移籍で大成功しただけに、あくまで結果論ではあるものの、チーム選びが裏目に出たのかなと思い込んでいた。ただ、その後移籍したモナコでは少しずつ本来のフォームを取り戻しつつあり、3シーズン目となる今季は開幕戦からマン・オブ・ザ・マッチとなるほどの活躍を見せた。これは、日本代表でもいよいよ復活が期待できるかも……というのが個人的な印象だった。

おそらく、南野本人にとっても、リバプール時代は臥薪嘗胆の時期というか、どちらかと言えば苦い部類の記憶になるのではないかとは思う。少なくとも、多くのコップ(リバプール・サポ)にとっての南野は、期待ほどには活躍してくれなかった選手の一人であることは間違いない。

ただ、彼の個人成績を見返してみてちょっと驚いた。眩いほどの輝きを放ち、ヨーロッパに羽ばたくのは当然のことと多くのファンから受け止められていたセレッソ時代、南野はリーグ戦62試合に出場して7得点をあげている。そして、「失敗」とみなされがちなプレミアでの彼は、40試合に出場して6得点だった。単純に得点率だけでいうならば、Jリーグよりもプレミアの方がいい数字になっているのである。

ちなみに、ザルツブルクでの成績は136試合42得点、モナコでは昨シーズンまでで48試合出場10得点となっている。こうやって数字を並べてみると、南野にとってはリバプール、あるいはプレミア時代が「失敗」だったというよりは、ザルツブルク時代が特別だったということはできないだろうか。

南野が所属していたころのセレッソは、失礼ながら優勝にはちょっと手が届きそうもないチーム状態だった。ザルツブルクは違った。13-14シーズンから22-23シーズンまで10連覇を達成することになる彼らは、オーストリア・ブンデスリーガの圧倒的な覇者だった。シーズン100得点をあげることもあったチームにあって、南野の136試合42得点は、必ずしも傑出した数字、というわけではなかったのだ。

だが、当時のわたしはそこまで考えが至らなかったし、おそらくはコップたちも似たりよったりだったのだろう。オーストリアのチャンピオン・チームでゴールを量産したアタッカーがやってくる。折しも、18年のロシアW杯で決勝トーナメント進出を果たし、ベルギーと死闘を演じたことで日本サッカー全般についての評価が急上昇しつつある時期でもあった。南野は、ザルツブルク並、もしくはそれに近い数字を期待されるアタッカーになってしまった。

だが、リバプールはチャンピオン・チームではなかった。伝統ある名門ではあるものの、ザルツブルクのようにすべての試合で相手を圧倒するようなチームではなかった。そして、南野拓実というアタッカーは、チャンスの数という“分母”が大きくなってこそ、数字をのこしていけるタイプの選手である。つまり、ボールに触る機会が減るのを嫌うタイプであり、スキラッチやインザーギ、佐藤寿人のように少ないチャンスにも虎視眈々、といったタイプではない。言ってみれば、“ポゼッション・アタッカー”なのである。

しかも、リバプールにはケニー・ダルグリッシュやイアン・ラッシュなど、いわゆる“瞬間芸”タイプとしてゴールを量産した伝説的ストライカーの系譜がある。見方によっては得点を数ある仕事のひとつとしてとらえているような、それでいて期待していたほどゴールを奪ってくれないストライカーには、どうしても見方が厳しくなっていってしまう側面はあっただろう。

ファン、メディアが味方でなくなってしまえば、監督がいち選手にこだわり続けるのは簡単なことではない。よほど傑出した選手ならばいざ知らず、起用自体に批判の声があがるような選手を使うことは、自らの立場を危うくすることにもつながりかねないからだ。

というわけで、「失敗」というほどひどい数字ではなかったにも関わらず、結果的にプレミアを離れることになった南野だが、残念なのは、日本代表でも輝きを失ってしまったように見えたことである。

ザルツブルク時代の南野は、いい意味で怖いもの知らずだった。自分がやろうと思えば、どんな相手にだって通用する。そんな自信が、日本代表でのプレーにも満ち満ちていた。それに比べると、近年の彼は、特に日本代表での南野は、言いかたは悪いが周囲の顔色を伺いながらプレーしているようにさえ見える。俺に合わせろ、ではなく、誰かに合わせようとして、でも合わずに焦燥を募らせている、というか──。

これ、わたしが思うに原因も解決策もはっきりしている。これまで代表59キャップで21得点をあげている南野だが、大事な試合での大事な得点、として人々の記憶に残り、本人の自信になるような得点がほとんどない。前回W杯の最終予選、ホームでのサウジアラビア戦であげた先制点は大きな意味を持っていたが、たとえば本田圭佑などに比べると、印象的な得点は明らかに少ない。

これは、南野の才能が本田より劣る、といったことではまったくない。そもそも、若いころの本田は、得点を期待されるような選手ではまるでなかった。彼が変わったのは、南アフリカW杯の際、当時の岡田監督が奇策というか、ほとんど苦し紛れのようですらあったストライカー抜擢から、だった。苦戦を予想された初戦のカメルーン戦で決勝ゴールをあげたことで、彼は変わった。

なので、モナコでの3シーズン目を素晴らしい形でスタートさせた南野には、まずアジア最終予選での活躍を期待したい。

対戦相手の側に立てば、まっさきに警戒しなければならないのはプレミア・リーグでプレーする三笘であり、久保であり、堂安といったところになるだろう。2次予選で成長の跡を見せた上田や、五輪で輝きを見せた細谷なども、要注意人物としてチェックが入るかもしれない。南野に対する警戒心は、間違いなく以前よりは希薄になる。

だが、南野の力が下降線に入ったのかといえば、それは明らかに違う。つまり、印象と現状のギャップが、南野にとっては好機となる可能性は大いにある。


ヨーロッパでプレーする日本人選手が少しも珍しくなくなってきた現在、南野拓実という名前が、日本サッカー界の中で以前ほどの輝きを放てなくなっているのは事実。だが、それは彼の才能や実力を的確に現したもの、とは言い難い面もある。これが株式市場であれば、南野銘柄はいまが底値、だとわたしは感じている。

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