ジャパンメーカーの「本気」が詰まったデサントのラボに潜入!【ゴルフ5ノンフィクション】Vol.6
日本が誇るスポーツ用品メーカー「デサント」。ゴルフにおいては『デサントゴルフ』や『ルコックスポルティフ(ゴルフ)』、『マンシングウェア』などのブランドを多角的に展開しており、『スリクソンbyデサント』は松山英樹プロも使用していることで知られている。
そんなデサントが2018年に大阪府茨木市にオープンした研究開発拠点がすごいと聞き、その実態を潜入取材してきた。
大阪北部、新興住宅地と大学などの学術施設、そして工業団地の融合したニュータウンの一角にあるモダンな建物が、デサントの誇る研究開発拠点「DISC」だ。「デサント・イノベーション・スタジオ・コンプレックス」の頭文字を取ったこの施設は、新商品の開発過程をほぼすべて集約して行えるハイブリッド施設。新製品を企画し、試作品を作成するところから、それをさまざまな実験施設でテスト・評価し、それを受けて改良するところまでのサイクルを一カ所で行えるため、非常に効率よく、高品質なものづくりが行える。
「デサント」はもともと野球のユニフォームやスキーウェアなどで有名になったブランドで、冬季オリンピックのスイス代表のウェアを長年にわたり提供し、とくにスキー・アウトドアなどの過酷な環境で高い機能を発揮するウェアを世に送り出し続けてきた。その背景には、特殊な環境下での性能実験に注力し、ほんとうに必要な機能を見極め、実現する努力を続けてきたことがある。
「DISC」には、まさにそのための施設が充実しており、デサントの「本気度」がうかがえた。
たとえば「スポーツサイエンスラボラトリー」という部屋には、気温-30~60℃、湿度10~95%までを自在に設定できる部屋があり、最先端のセンサーを使って過酷な環境下での保温力やクーリング性能などのテストが行える。
また、勾配をつけられるトレッドミルと連動し、運動環境下の選手の状態をチェックできる装置や、関節角度や筋力などを測定しウェアの着用によるパフォーマンスの変化をチェックできる「バイオデックス」という装置、水の抵抗を測れる小型回流水槽など、ハイテク機器が目白押し。
さらには選手の体を3Dで実測することで完璧にフィットする専用ウェアをつくるためのボディスキャナーもあり、トップアスリートが最高のパフォーマンスを発揮できるウェアを生み出すための最高の環境が整っている。
温度・湿度を自在に設定できるテストルーム「CLIMART」。気温-30~60℃に調節可能な部屋と0~40℃に調節できる部屋2部屋を備える
「バイオデックス」とトレッドミル。ウェア着用時の選手のパフォーマンス変化を測定できる
3Dのボディスキャナー(H30年度競輪事業補助物件)で選手の体を精密に測定し、3Dプリンターで出力もできる。
ラボと隣接している「プロダクションスタジオ」は、各種縫製ミシンや接着ミシン、レーザー裁断機、ロゴ転写装置など、サンプル品をその場で作れてしまうアトリエ。
試作品の製作はもちろん、テスト中の製品に改善点や修正点があれば、すぐにここに持ち込んで手直しをしたり、改良版を作ってまたテストに戻ることができるのだ。
プロダクションスタジオは「アトリエ」と呼ばれ、サンプルを製作できる
また「品質試験室」には、素材や製品の強度や耐久性をテストするさまざまな機器が並べられ、日々シビアな試験が繰り返されている。
素材面では、伸縮や折り曲げに対する耐久性、摩耗や色落ち、毛羽立ちや毛玉のチェック、破裂・引き裂き・引っかきの強度、紫外線や塩素への耐久性などありとあらゆるテストができ、縫い目の強さやプリントなどのはがれにくさ、洗濯時の耐久性、バッグの落下耐久性などがここでチェックできる。
これらはJIS規格に加えて「デサント法」という独自の基準に基づいても評価され、品質へのこだわりを支えている。
品質試験室ではありとあらゆるテストが行われ、日々素材を検証している
また、製品テストの極めつけとも言えるのが「アーティフィカル・レイン・チャンバー」という部屋。この部屋はなんと、80mm/hまでの豪雨を自在に降らせて、降雨条件下での機能評価ができるのだ。しかも天井が6mと高く作られているので、水滴の状態が自然な雨のようになり、実際にウェアを着た人が中に入って感じることもできるこだわりの施設だ。
本物の雨にこだわったレインチャンバー。最大80mm/hの豪雨まで降らせることができる
「DISC」がただの研究室にとどまらないもう1つの強みは、本格的なジムとトラックがあるところ。バレーボールのコートが張れる体育館に、1周250mのトラック、リオ五輪で使われたものと同じタータンが貼られた100mの直線レーンなどがあり、ゴルフ用の鳥カゴも設置できる。そしてこれらの床に加圧センサーを埋設し、マルチカメラでモーションセンサー撮影を行うなど、アスリートが実際に競技している状態でパフォーマンスをチェックできるのだ。
広い体育館とトラックを兼ね備えたジムはマルチカメラやフォースプレートが設置されている
実際にプレーする選手の動きを解析し、ウェアが選手に与える影響をチェック
このように、単なる開発施設でもオフィスでも工場でもなく、それらすべての機能を集約した研究開発拠点である「DISC」。こういった施設を持つことが、「デサント」のジャパンメーカーのクオリティを維持・進化させ、機能性に優れた商品を送り出し続けている原動力となっているのだ。