フリーワード検索

other2020.12.31

【2020年スポーツ界総括】コロナ後のスポーツ界、悲惨な状況になりかねないのは、ヨーロッパのサッカーだ。

いつのことになるのやら、20年年末の段階ではまだ想像もつかないが、いずれ、間違いなく、コロナ禍は終息の時を迎える。

そのとき、日本の、世界のスポーツはどうなっているだろう。

日本のプロ野球に関しては、基本的に大きな変化はないはず、と思っている。

無観客で開幕し、ついに満員のスタジアムでの試合はできなかったのだから、各チームが被った経済的な打撃は決して小さなものではなかったはず。

だが、秋から年末にかけて行なわれた各球団、各選手の契約更改のニュースを見ていると、いわゆる“厳冬更改”の気配はない。成績を残した選手は、いつもの年と比べても遜色のないレベルで年俸のアップを提示され、残せなかった選手たちのダウン幅がいつもよりも大きい、ということもなかった。

もちろん、球団としては選手のモチベーションのことも考え、ない袖を振った部分もあるのだろうが、一番大きかったのは、入場料収入の大幅ダウンという痛手を飲み込んでくれる親会社の存在ではなかったか。

そう考えると、ほとんどのチームが後ろ楯を持たないJリーグの場合はちょっと厳しい。すでにJ2、J3の地方のクラブからは、スポンサードをしてくれていた地場産業が経営難に陥るかもしれない、と懸念する声が上がっている。

わたしが以前関わっていたJ2のFC琉球は、観光業を最大の収入源とする沖縄県をホームタウンにしている。おそらく、いまごろはチームの営業担当が死に物狂いで県内、もしくは全国を飛び回っているはずだが、前年比アップの予算を組むのは相当に厳しいだろう。コロナ禍による最大最悪の直撃弾を受けたのは、観光業界だからだ。

ただ、いくつかのチームが苦境に立たされることはあるにせよ、Jリーグ全体が危機に陥ることはない、というのがわたしの見立てだ。

幸か不幸か、Jリーグの選手たちが受け取っているギャランティは世界的に見ても決して高くない。というか、先進国の中では最低レベルに近いと言っていい。先日、中国サッカー協会が発表した資料によると、Cリーグの選手の平均年俸はJリーグの5.8倍にあたるという。両リーグの歴史や近年の代表チームのレベル差を考えると、Jリーグの平均年俸がいかにチームにとってバーゲンか、選手にとってブラックかということがわかる。

もっとも、資金面での後ろ楯を持たないチームからすると、運営スタッフにほとんどボランティアに近い環境での労働を強いてまで、何とかひねり出したギリギリの額。そして、ほとんどのチームは、1社から大きな金額を受け取れないがゆえに、数十社、数百社から少しずつ出してもらうというやり方をとってきた。言ってみれば苦肉の策ではあったものの、それがこの状況でリスクの分散につながった。

悲惨な状況になりかねないのは、ヨーロッパのサッカーだ。

Jリーグが発足した93年当時、Jリーグとプレミア・リーグの市場規模がほぼ同じだったというのは、ご存じの方も多いだろう。それが、いまとなっては天文学的な差というか、比較するのが馬鹿らしいほどの格差がついた。J3で年収が500万円を超える選手はほとんどいないが、イングランドでは3部リーグでも億を超える額を受け取っている選手がいる。

さて、英国と日本、GDPが大きいのはどちらだろう。

やれ失われた20年だのなんだのと揶揄されるが、日本の経済規模は依然として世界3位のレベルにある。英国の一地方にすぎないイングランドや、イタリアやスペインに比べれば、圧倒的に健全で、かつ大きい。

にもかかわらず、イングランドのサッカーがギャランティで世界トップレベルに駆け上がったのは、Jがやらないことをやったから、だった。

外国資本の導入である。

まず最初はロシア・マネー。中東のオイル・マネーがそれに続き、最後は東南アジア、そしてチャイナ・マネーが加わった。プレミア・リーグ、もしくはチャンピオンズ・リーグのスポンサーを希望する企業と、視聴を希望するファンの数は右肩あがりを続けてきた。

かくして、ヨーロッパの多くのクラブが、来シーズンに入ってくる収入を、今シーズン入ってきた収入よりも多く見積もるようになった。増えるはずの収入をベースに、チーム戦略を立てるようになった。

だが、コロナ禍の影響は世界中の企業に及んだ。さらに、米中の経済摩擦が激化したことで、登り竜の勢いだった中国経済にはっきりと陰りが見えてきている。

おまけに、無観客での試合が続くヨーロッパのサッカーは、エンターテインメントとしての魅力を大きく損なっている。昨年までのように、アジアの視聴者が試合を見るためにお金を払い続けるかは、はっきり言って疑問である。

事実、日本ではDAZNが20-21シーズンのチャンピオンズ・リーグの全試合放映から手を引いた。暴騰する一方の放映権料が、収支のラインを大幅に超えてしまったことが原因だと見られている。

同じことがアジア各国で起きれば……待っているのはバブルの崩壊だ。

考えてみれば、バブル全盛期の日本人は、来年の給料があがるのは当然だと思っていた。それがどれほど根拠のない考えだったかを知ったわたしたちからすると、一人の選手が30億円、40億円を受け取っている現状が、あまりにも危うく、そして脆く感じられる。

リオネル・メッシの価値が、マラドーナの20倍?おかしいでしょ、それ。

BUY NOW

SEARCH フリーワード検索