びわ湖毎日マラソン大会快挙の裏にナイキの厚底が?!日本のマラソンも2時間4分台へ!シューズとアスリートのカンケイにも変化あり!
■フルマラソン日本最高記録もついに4分台に!
みなさん、こんにちは。藤原商会代表:シューズアドバイザー藤原です。
さて、ご覧になった方も多かったかもしれませんが、すごい記録が誕生しました。
先日の第76回のびわ湖毎日マラソンで富士通の鈴木健吾選手が、ナイキの大迫傑選手が持つフルマラソン日本最高記録を33秒破る、驚異的な日本最高記録を出しました。
来年から大阪マラソンに吸収され、最後になる今大会の花向けのように、鈴木選手の他にも歴代10傑に入る続々記録がでるなど、奇しくもというか、好記録が続出の大会となりました。
これは、コロナパンデミックの影響で、近い日程で開催されていた2021東京マラソンが開催されず、この大会に主な期待の選手が揃ったこと、その影響もあり、例年の開催日より1週間程度前倒しになり、気候・気温・風などの気象条件が揃ったことも大きかったです。
しかし、なんと言っても、それよりも、何よりも、記録更新をサポートするレーシングシューズの影響が大きかったことも付け加えるべきでしょう。それには、シューズの技術革新と、日本人アスリート自身のシューズに対する考え方や思いの変化が背景にありました。
鈴木選手は黄色い「EKIDEN PACK」の『ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%』を履いて快挙を成し遂げましたが、その他多くのランナーが履いたナイキのレーシングシューズは、『ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%』も含めて、シューズの技術革新の象徴、正月の箱根駅伝でも90%以上が着用するなどアスリートの考え方に変化の象徴、社会現象になっているものです。
かつて、ランナー自身、監督・コーチなども口では、シューズは大切なんだ、と言いつつも、心の中は、シューズなんて成績に関係なく、マラソンはトレーニングこそすべてなんだ、という考え方が大勢だったと思うんですよね。
でも、それが今では、この4分台の記録は決して、シューズを抜きに考えられない、と誰もが思いはじめているわけですよ。面白いもんです。
■ナイキと二人三脚で固定観念を崩したパイオニア、大迫傑
多くの日本人ランナーは、豊富なトレーニング量で鍛え抜かれた自分の力を発揮するためには、それを地面に伝えるのが主な機能である薄底レーシングをレースで履くシューズとして選択してきました。
接地感が高いそのシューズは、自分の力が伝わりやすい代わりに、疲労など自分が発揮する力が弱まったときには、理論的にはペースを維持できなくなるという機能性のロジックであったわけです。
しかし、シューズの進化と考え方は急速にスピードアップします。
ナイキはE・キプチョゲ選手という世界的偉大なランナーのためにタイムトライルレースとそのためのスペシャルシューズをプロデュースします。2017年のことです。
そして、いままで概念を覆すようなレーシングシューズ、『ヴェイパーフライ4%』をつくり出して、その後の成功へのストーリーの一歩を踏み出しました。
しかも、彼はその期待に応えて、その後2回目のチャレンジで2時間の壁を破るという人類未到の偉業を成し遂げるわけです。
もちろん彼自身のパフォーマンスが素晴らしいのですが、それを強力にアシストするシューズに注目が集まるのも必然、しかも、このシューズは、自分の力を温存し、スピードを長続きさせることで記録を達成させるという画期的なアイディアなものであったからです。
もはや、世界的に周回遅れになっていた日本人のランナーが長く持ち続けたシューズに対する信念は、日本マラソン界、低迷の一因であったことは事実です。
そんな世界のシューズの変化をいち早くアメリカで感じて固定観念なしに取り入れたのが、大迫傑選手です。
大迫選手は渡米して、ナイキのスポンサーシップを受け活動するわけですが、スポンサーとは言え、従来からあるシューズに関する固定観念を壊して、そして結果を出した、その流れが日本のマラソンランナーやシーンに大きな影響を与えたわけです。
前日本最高記録保持者の彼のパイオニア的な行動がなければ、今回の鈴木選手の快挙も、そして、こんなにも多くの日本人ランナーがこの速く走ることができるシューズを手にしていなかったかもしれないですね。
■スーパーシューズ・ヴェイパーフライとアルファフライ
では、このシューズはそんなに本当に凄いのか?
スーパーシューズには、2種類あって、まず、『ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%』、3万円超える価格にも関わらず、現在、日本をはじめ、世界中で多くのランナーに履かれているモデルです。
2017年5月の非公式タイムトライアルブレイキング2(フルマラソン2時間を切る)のために作られたE・キプチョゲ選手の本番用シューズ、『ヴェイパーフライ4%』からの流れを汲むものです。
反発弾性の高いズームXフォームというフワフワのクッションに、カーボンプレートという硬いロイター板がサンドイッチされた構造になっています。この2つがほぼ同時に作用して、ランナーが出せる以上のバウンドを作り出し、ベクトルを決定づけて、“パワーを温存し、力を使わないようにする“省エネ設計になっているのが特徴です。
これは、音楽で言えばビートルズみたいなもの。
他のメーカーにとっては、突如として現れたスタンダードは、どんなに斬新なモデルを作ろうとしても、イマジネーションに強い固定観念を残してしまう、そんなインパクトがあるモデルですよね。
もう1つは、今回、鈴木選手も着用した『ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%』、E・キプチョゲ選手が、2019年10月のエネオス159でブレイキング2に再挑戦したとき開発、使用したまさにこれは最終兵器です。
アルファフライは基本的にはヴェイパーフライが作り出す推進力をさらに強化して何がなんでもキプチョゲ選手にブレイキング2を達成させようというコンセプトでできたモデルですが、蹴り出し部に巨大なエアポッズが2つ剥き出しに搭載されるという驚愕のルックスです。
ヴェイパーフライだって初めて見たときには、そのルックスに驚いたのに、それをも凌駕した、レーシングシューズ、いや、ランニングシューズの概念を変えてしまったと言えるでしょう。
■ズームフライとテンポネクスト%も素晴らしい
実は箱根駅伝210名のうち201名がナイキ着用でしたが、その中でもヴェイパーフライ104足、アルファフライ97足とほぼ半々に分かれます。選手もどちらを履くか迷っているわけです。
特にアルファフライは難しいですね。スタックハイト(シューズミッドソールの厚み)が増えることは、クッションというメリットだけでなく、単純に不安定になるわけですから。
それよりもあのキプチョゲ選手のためのスペシャルシューズであって、言わばバスケで言えばジョーダンモデルな訳です。それがバスケで気軽に履けるモデルでないように、アルファフライもそういった側面はありますよね。
ということで誰でも履けるキプチョゲ体験として、真っ先にあげるべきモデルは、シリーズ3代目になる『 ナイキ ズーム フライ3 』です。
市民ランナーのブレイキング4(フルマラソン4時間を切る)定番レーシングになっていますが、カーボンプレート搭載していて、ミッドソールには、ナイキ独自のミッドソール素材リアクトを採用したモデルになっています。
価格も上位機種より1万円以上安いです。
ズームXではなくて、素材がリアクトなのがミソで、軽さは劣りますが、ところがどっこい、反発弾性のバウンドとどしっとした安定感のバランスのいい素材なんです。
より長い時間を走るレースであれば、フワフワなトランポリンのヴェイパーフライより、ズームフライ3のような安定感とバランス感はマストと言っていいでしょう。
そして、このモデルはリアクトの貢献もあり、カーボンプレートロイター板の大体どこを踏んでも推進力を作ってくれる感覚の操作がしやすいモデルになっていて、誰もが速くなれるシューズはこちらだと思います。
さて、もう1つ、アルファフライと同時に発表された『 ナイキ エア ズーム テンポ ネクスト% 』、こちらはアルファフライの練習用みたいな位置付けのシューズですが、これもすごくいいんです。
アルファフライは、ワールドアスレティックス(WA)の規定ギリギリのフワフワな分厚いフルズームXのミッドソールですが、テンポネクスト%は、ズームXとリアクトのコンビで構成されて、練習版というより、操作がしやすいアルファフライと言えるスーパーシューズです。
さらに、アルファフライ同様、エアポッズも着いていて、機能のお化け、ズームX、リアクト、エアポッズ、フライニットとナイキ機能がフル装備です。
その分、やはり重量はありますが、地面を蹴る感触は、すべてのレーシングを含めても独特、エアポッズがバネのように効いているのが分かるのは、アルファフライより断然こちらですね。
市民ランナーにとって使いやすいモデルはこの2モデルだと思います。
■厚底シューズの浸透で、定着した履き分けという考え
鈴木選手の快挙を後押ししたシューズはアルファフライだけでは実はないんです。ニュースに出ないニュースですね。
当然レースではアルファフライこそが彼の最高のパフォーマンスを作ってくれましたが、普段のトレーニングでは、おそらく『 ナイキ エア ズーム ペガサス37 』のようなデイリートレーナーモデルを使ってコンディションをあげているはずです。
今世紀最大のアスリートの一人、E・キプチョゲ選手も、大迫傑もそうです。テレビに映らないところでは、日本では初心者用のシューズと言われるそれらのタイプを履いてトレーニングしているわけです。
速く走るシューズは、コンディションを作る機能がありません。軽量ゆえに速く走る機能に絞った作りになっていて、このシューズでは体を休めること、回復させることができないと言ってもいいでしょう。
ペガサスのようなシューズは、ソールとアッパーに由来するガイドの強さゆえ、安心の初心者用シューズと形容されることもしばしば、でも、それは1つの側面だけを捉えた言葉です。アスリートも怪我をしないため、フォームのバランスを崩さないために、ガイドの強いシューズの上に乗っかって体を休めているわけです。
来たるパフォーマンスを発揮するワークアウトトレーニングやハレの日のためにです。
ですから、ヴェイパーフライのような厚底シューズを履く選手が増えたことで、かつての薄底こそすべてみたいなカルチャーがなくなっただけでなくて、大抵の選手はそうやって履き分けを行っているはずです、そういう習慣が定着したこともあげられるでしょうね。
地元のトラックに行くと、最近では、高校生でも履き分けをするランナーが増えたように感じます。そうすることでレースシューズを大切に履くようになるので、とてもいいカルチャーだと思います。
ということで、実は、鈴木選手がレースで履いたような厚底レーシングの広がりがもたらしたのは、実は、ペガサスのようなデイリートレーナーの人気なのかもしれません。
<著者プロフィール>
ランニングシューズフィッティングアドバイザー
藤原岳久(F・Shokai 【藤原商会】代表)
日本フットウエア技術協会理事
JAFTスポーツシューフィッターBasic/Master講座講師
足と靴の健康協議会シューフィッター保持
・ハーフ1時間9分52秒(1993)
・フルマラソン2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン)
・富士登山競走5合目の部 準優勝 (2005)
RECOMMENDED POSTS
この記事を見た方におすすめの記事