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baseball2021.03.12

オープン戦初登板で魅せた大谷翔平の凄み。メジャーリーグが戻ってきた。

3月5日、ロサンゼルス・エンゼルスに所属する大谷翔平“投手”はアリゾナ州で行われたオープン戦で初登板初先発を果たした。昨年8月2日のヒューストン・アストロズ戦以来215日ぶりの実戦登板の報は、現地アメリカでもすぐさま大きな注目を集めた。

今キャンプ中、米メディアが注目していたのは昨季途中に故障した右腕の回復具合と、どれほどまで調子を上げてきているかであった。昨季の大谷は成績が低迷し、現地メディアからも手厳しい評価を受けていた。怪我の多さも指摘されており、エンゼルスの地元紙『オレンジ・カウンティ・レジスター』のジェフ・フレッチャー記者からも、「二刀流に挑戦できるのは今季(2021年)が最後ではないか」と評されていた。

一方で、ファンの受け取り方は違った。オープン戦で大谷の姿が観られることに、まず大きな喜びの声が上がった。昨年は、コロナ禍によりアメリカのプロスポーツのそのほとんどが無観客で行われた。その結果、昨年はトミー・ジョン手術明けから2年ぶりとなった投手・大谷の姿を球場で観ることができたファンは一人もいなかった。

そのため、大谷がその投球を観客の前で披露するのは、メジャー1年目の2018年以来なんと1000日以上ぶりとなる。今年のメジャーリーグは有観客での試合開催を目指しているが、誰よりも早く大谷が投げる姿を直接目の当たりにしたいという熱心なファン達により、この試合のチケットは瞬く間に完売した。

もっとも、この晴れ舞台のために販売されたチケットはごくわずかであった。今年のオープン戦は感染予防対策のため、そもそも通常時の20%ほどしか販売されていない。大谷が登板したホホカム・スタジアムは1万2500人を収容することができるが、当日球場に入ることができた観客は公式発表によると1998人に過ぎなかった。チケットはまさにプラチナと化した。

試合当日、敵地ホホカム・スタジアムにはエンゼルスのユニフォームを身につけたファンの姿が多く観られた。アリゾナ州はエンゼルスの本拠地であるアナハイム市から車でも6時間ほどで行くことができ、また金曜日だったということもあり、約1年ぶりの旅行に出向いたであろう家族連れの姿も多く目にすることができた。さらにこの日は、エンゼルスの主砲マイク・トラウトのスタメン出場も発表されていたこともあり、レギュラーシーズンさながらのラインナップにファンは早くも心を躍らせていた。


今年のオープン戦は選手のみならず、観客にとってもレギュラーシーズンの予行練習には最適なものであった。アリゾナ州でキャンプを行う各球団は新たな観戦ルールを設けた。先述の観客数の制限だけではなく、フェイスマスクの常時着用や大声を出した応援の禁止に加え、球場各所では徹底したソーシャルディスタンスが求められ、さらにノーバックポリシーというカバンの持ち込み禁止ルールも新たに登場した。

また、チケットは全て電子化され、球場内の支払いもクレジットカードや電子決済のみになったというのも、今年から始まった新しいルールの一つだ。紙チケットの廃止は少々寂しい気持ちもあったが、これまでで一番スムーズに球場に入れたので、新たな観戦ルールも決して悪いことばかりだけではない。



コンコースを抜け、フィールドを目にした光景とその興奮は決して忘れられない。心の底から「メジャーリーグが戻ってきた」と思えた。観客席に目を向けると、緑のシールが貼られているのを見つけた。このシールが貼られている席のみが着席可能というわけだが、着席可能な席は1列に対して2席のみ。感染予防対策の一環ではあるのだが、逆に考えれば1列に2人のみとはなんと贅沢なことだろう。

試合開始5分前、国歌斉唱が始まる。選手、観客の全てが起立し一体となって国旗に敬意を示すこの瞬間もスポーツイベントの醍醐味の一つだと考えているが、2年ぶりと思うと全てが特別に感じられる。

この日の対戦相手は、エンゼルスと同じア・リーグ西地区に所属するオークランド・アスレチックス。アスレチックスは投手・大谷と縁が深いチームである。2018年、大谷のメジャー初登板の試合と本拠地での初登板の試合、そして、昨年の投手復帰登板の試合は全てアスレチックスを相手としている。昨年、3被安打、3与四球、4失点、一死も取れずに初回ノックアウトされたあの試合を覚えている人も多いのではないだろうか。

ちなみに、この日の相手スタメンのうち5人は昨年のその試合でスタメン出場している。まさにリベンジマッチに持ってこいの一戦でもあったといえる。



マウンドに立った大谷は、先頭のカンハを見逃し三振に仕留める上々の立ち上がりを見せる。2番アンドラスには二塁打を許したが、3番のマット・オルソンからは空振り三振を奪った。特に、オルソンに対して最後に投じた最速100マイル(約161km)のフォーシームは、地元紙『オレンジ・カウンティ・レジスター』のみならず、全米各紙が大きく取り上げるほど、大谷の投手復活を思わせる強烈な一球であった。

また、今年の大谷の印象を大きく変えたのは、むしろその直後の場面であろう。4番チャップマンを四球で歩かせ、1、2塁に走者を置いた場面。ふと、昨年の試合の様子が頭によぎったが、大谷は5番モアランドを三振に仕留め、無失点で無事にイニングを終えた。あの場面でも落ち着いた投球で、制球力も格段に戻ってきている。

続く2回にカンハに放ったスプリットのコントロールも抜群であり、真ん中から内角ギリギリに落ちる変化に、打者も思わずバットが出てしまっていた。大谷が得意とする変化球で、打者から三振を奪った姿はオープン戦といっても、いやがうえにも期待が高まってくるものであった。

唯一気になったところいえば、9番ガルシアに対し、2球連続で外角に大きくボールが外れたところだろう。この投球は、残念ながら昨年の試合を彷彿とさせてしまい、エンゼルスのジョー・マドン監督が課している「制球力」の課題を完全にクリアしたわけではないとも思えた。もちろん、まだキャンプも中盤で時間は十分にある。杞憂に終わるかもしれないが、留意はした方がいいだろう。



今回、大谷の投球を改めて観たが、やはり大谷が持つ凄みは他と一線を画している。実はこの試合の2日前、大谷は打者として140m越えの特大ホームランを放っている。そして、この試合で見せた100マイルの速球。これはまるでメジャー1年目の投打で活躍を果たした往年の姿と重なっている。やはり二刀流の姿は試合を見る全ての人に衝撃と興奮を与えるのだ。

そしてなにより、今回、最も印象的だったのは、常に大谷から笑みがこぼれていたことだった。状態がいいからか、はたまたチーム内の雰囲気がよかったからか理由はわからないが、野球を心から楽しむ少年のような大谷の姿がそこにはあった。

大谷は、有観客試合に対して、「お客さんが入った方が野球をやってるなっていう感じはする」とメディアに語っている。観客も同じく、世界最高峰の舞台を目の当たりにすることは何よりも楽しく感じる。そういった明るくポジティブな雰囲気が選手たちの調子を高めているのではないかと、今回の有観客試合で改めて感じられた。

エンゼルスの本拠地があるカリフォルニア州は4月の開幕から有観客試合を許可すると発表した。地元ファンは念願の大谷の姿を球場で観ることができそうだ。

オープン戦での活躍を見ていると、今季大谷が投打で大活躍する姿を思い描いてしまうが、決して大げさなことではなさそうだ。改めて、二刀流・大谷の凄さを感じるとともに、メジャーリーグが戻ってきたことに心から感謝したい。


※日付は全て現地時間

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