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baseball2019.05.14

熊本浩志(東京ヴェルディ・バンバータGM)│「ワクワクの積み重ね」で拓かれた“強くてかっこいい”野球【後編】

[ 前編はこちら ]

アマチュア野球クラブ「東京バンバータ(以降、バンバータ)」設立者で、現在はGMを務める熊本浩志さん。野球に対する真摯な姿勢を持ち続けながら、固定概念にとらわれず全く新しい楽しみ方を切り拓いてきた彼に、これまでの野球人生やバンバータの背景について話を聞いた本インタビュー。後編では、バンバータのブランディングの軸となっている考えや、総合型スポーツクラブの一員としてさらに活動の範囲を広げるチームの展望について話してもらった。


■「面白そう」な印象は、近しい感覚を持つ人に伝播する
 
──バンバータの魅力のひとつが、今までの野球のイメージを変えるような、ユニフォームやグッズなどのデザインのかっこよさだと思います。この視点は、バンバータを作る前から持っていたものなのでしょうか?
 
自分はデザインやクリエイティブ関連の仕事をすることが多いのもあって、「こんなユニフォームがあったらかっこいいのに」みたいなことは以前から考えていました。そういえば、小学生のころから全メーカーの野球カタログを読んだりもしていましたね。日本の野球のオーセンティックなところも好きで、昔から残っている本質的な部分にも目を向ける癖は自然とついていたと思います。特に僕はブランドの歴史を追求するのが好きで。一度そのブランドにハマったら、歴史背景をとことん研究するのが楽しかったです。皮の匂いだけでグローブのメーカーがわかるほどだったんですよ(笑)。モノの背景に興味を持つようになったのは、実家が電器屋だった影響もあると思います。
 
──バンバータで「強さとかっこよさ」を両立させるうえで、どんなことを意識されてきましたか?
 
「この人たち面白いことやっているな」という印象は、同じような周波数を持つ人に伝播していくと考えています。だからこそ、情報発信については常に意識してやってきました。たとえば、「バンバータ」という名前の由来は、「アフリカン・バンバータ」。ヒップホップが好きな人ならみんな知っている名前だから、「これってもしかしたらあのバンバータじゃない?」と、興味の対象が近い人が加わってくるんじゃないかとか、そんなことも考えていました。同じように「面白い」と思ってくれる人が集まって、雪だるまのように大きくなっていった感じですね。巻き込まれる人が増えれば、そのぶん「頑張らなければ」という気持ちもより大きくなって、優勝できるチームになっていったという相乗効果もありました。
 
──学生時代に「野球」と「音楽やファッション」を完全に分けて楽しまれていたのが、バンバータで融合したという感じですね。
 
そうですね。僕がずっとやってきたたくさんの活動が、初めてひとつになったというか。たぶんこれからの時代、一人の人間がひとつのキャリアで終わることって、なくなっていくと思うんですよね。副業だったり、パラレルキャリアだったり、もう少し具体的にいうと「アスリートが文化人の顔も持つ」ようなことが、ようやく推奨されるようになってきたじゃないですか。でも、僕は昔からそれを素でやってきた(笑)。だからバンバータでも「ちゃんと仕事してるやつじゃないと野球をする資格はない」と言っているんです。
 
──仕事をしながら野球も頑張ることには、どんなメリットがあると考えていますか?
 
野球をすることで仕事にハリが出たり、何かにぶち当たったときに乗り越えられる力がついたり……それから、単純にバンバータみたいなチームで野球をやっていると、みんなが注目してくれて、会社の人が応援してくれたりもします。あとは、選手もかならずチーム運営に関する役割を持っています。すると、社会人生活で担当している仕事のほかにも、分かることが増えてくる。たとえば、普段は営業の仕事をしている人がバンバータでイベント企画を担当していると、本職でもさらに広い視点を持って仕事をできるようになったりします。ビジネスにも活かされていくことがあるんですよね。


■やったことのないことをやる
 
──まったく新しい草野球チームを作るうえで、手探りだったこともたくさんあるかと思います。何か参考にされたことなどはあるのでしょうか?
 
ないですね。バンバータは「常にやったことのないことをやる」ということをルールに決めています。個性派集団で、それぞれが違った野球経験をしてきたからこそ、みんながやったことのない野球をすることでひとつのチームになっていこうと。今までやってきたことの“本質”は何か考えながら、それを組み合わせて、答えのないところに答えを作っていく。これを徹底すると、全員が頭を使って、同じ方向を向くようになるんですよね。
たとえば、打順の組み方。バンバータでは「エース」と「4番」という概念をなくしているんです。それと少し前までは、「トリプルスリー」という戦術をずっとやっていたんですよ。「9人で一巡」と捉えるのではなく、「1・2・3番の繰り返し」と考える。つまり、4番が1番なんです。こうすることで、打順の流れが途切れないんですよね。
 
──ユニフォームやグッズのデザインも、今までの野球に対するイメージを覆すような、新しいかっこよさを持っていますよね。
 
「デザイン」と「クリエイティブ」の定義はそれぞれ明確にあって、「クリエイティブ」は、事業全体において一石三鳥をつくることだと思っているんです。一石二鳥まではわりとイメージできることが多いのですが、三鳥となると、なかなか難しい。それを達成するために「デザイン」というひとつのピースがあります。今はツールがスマホになったこともあって、ビジュアルでのコミュニケーションが非常に重要になっています。だからこそ、デザインの役割もとても大切。いかに「バンバータだ」と認識されるものを作るか、というのを意識して、イメージを細かく検討してきました。ちなみに、バンバータのテーマカラーになっている「緑」は、野球のユニフォームで一番売れない色、というリサーチ結果のもと決めたんですよ。売れていないということは、それだけ世の中にまだないということ。結果的に、今では「緑の野球ユニフォームといえばバンバータ」と、だいぶ認識してもらえるようになったと感じています。草野球チームで、うちのユニフォームを真似て作ってくれるところも結構増えているんですよ。それから、純粋に「自分たちが着てみたい」と思えるかどうかという観点も、もちろん大切にしています。


■ワクワクし続けられるか、が大前提
 
──熊本さんご自身は、久しぶりに野球をプレーしてみていかがでしたか?
 
実はすぐにケガをしてしまったので、すぐに監督に専念するようになったんです。でも、監督としてはわからないことだらけで。それでもなんとか優勝したいから、とにかくずっと勉強でした。それでも、やっぱり野球が大好きなので大変だとは思いませんでしたね。
 
──2018年には、監督からGMへと肩書が変化しました。関わり方はどんなふうに変わったのでしょうか?
 
一番大きいのは、「監督をつくる」のが仕事になってきた、ということです。ジュニアチームができたり、東京ヴェルディとの提携が決まって「東京ヴェルディ・バンバータ」として総合型スポーツクラブの一員になったり。これから、監督が何人も必要になっていきます。これまで10年間、一緒にバンバータをつくってくれたメンバーたちが、今後は指導者になっていくというのが、今目の前にある大きなテーマです。でも、変わらず持ち続けているのは「ワクワク」できるか、という視点。僕がこれまでに野球もカルチャーも本気でやってこられたのは、何よりも「好き」「楽しい」という気持ちがあったから。今も「どうすればみんながワクワクし続けられるか」というのは、変わらず意識しています。
 
──直近で実現したい「ワクワク」のイメージはありますか?
 
やっぱり、ヴェルディとしての取り組みです。僕が子どものころは、「ひとつのことを極める」という考えが重視されていて、スポーツも一度始めたらずっと同じ種目を続けるというのが当たり前でした。「精神鍛錬としての体育」が前提とされていたんですよね。でも、スポーツって本来は“遊び”で、楽しいもののはず。もっといろいろなスポーツをやってみていいんです。だからこそ、これからスポーツそのものがもっと活性化していくには、クラブチームの運営方法も大きく変えていく必要があります。その中で、東京ヴェルディが目指す総合型スポーツクラブの形は、非常に理にかなっていると思います。
 
──近年では野球人口の減少が懸念されていますが、どうすれば野球を楽しむ人がもっと増えると思いますか?
 
野球だけで「競技人口減少を食い止めよう」と考えるよりも、スポーツ界全体を活性化させればいいと思うんです。たとえば、野球とサッカーをどちらも楽しむ子どもが増えれば、少子化で子どもの数が減っても競技人口は減りません。
それから、「みる」側のファンも融合していったら面白いのではと考えています。将来もしも僕たちが硬式のクラブチームをやることになって、都市対抗大会に出られたとき、サッカーのヴェルディのファンが東京ドームを埋め尽くしたら、画期的だと思いませんか? 垣根を越えてあらゆるスポーツを楽しめるようになれば、もっとスポーツが盛り上がっていくはずです。バンバータも総合型スポーツクラブの一員になったからこそ、これから従来の枠にとらわれずに広くスポーツを楽しむ形をつくっていけたら面白いな、と。そんなことを考えて、今からワクワクしています。



#プロフィール
熊本浩志
1975年宮崎県出身。クリエイティブ総合商社「amadana」グループの創業者でCEOを務める。2019年に「東京ヴェルディ」のリブランディングを実現させ、クリエイティブセンターのトップに就任。ベースボールチーム「東京ヴェルディ・バンバータ」のGMを兼任する。
 
東京バンバータ / 東京ヴェルディ・バンバータ
2008年設立のアマチュア野球クラブ。「3年で日本一を獲らなかったら解散!」と目標を掲げた草野球チームとして発足。公約通り、3年目で『高松宮賜杯第55回全日本軟式野球大会2部』で初優勝を飾った。現在は『社会人軟式野球チーム』と2017年より『学童軟式野球チーム』を立ち上げ、ジュニア育成も展開。2018年には東京ヴェルディと提携し、ベースボールチーム「東京ヴェルディ・バンバータ」を立ち上げ、総合型スポーツクラブの一員としてさらなる発展に向けた活動を広げている。
2019年も福島で野球・音楽・食が一度に楽しめる「バンバータチャレンジカップ」をクラウドファウンディングにより開催。
https://camp-fire.jp/profile/TOKYO-VERDY-BAMBAATAA/projects

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