野球肘とはどんな怪我? 発症の仕組みや予防法を解説
野球選手に起こる代表的な怪我のひとつに、「野球肘」が挙げられます。特に成長期の小中学生で、投手をやっている場合に多く見られる怪我ですが、具体的にどのような怪我で、どうすれば予防できるのでしょうか。
ここでは、野球肘とはどのような症状なのかをはじめ、発症する仕組みや予防法についてご紹介します。
【目次】
■野球肘とは
野球肘とは、具体的に特定の怪我を指す病名ではなく、野球の投球動作によって肘を傷めるスポーツ障害の総称です。具体的な病名としては、離断性骨軟骨炎や骨端軟骨損傷、靭帯損傷などが野球肘に当たります。
名前の通り野球選手によく見られる障害で、投球動作を繰り返す投手が野球肘になることが多いです。野球以外には、テニスや槍投げなど、頭上から腕を振り下ろす動作があるスポーツでも発症します。
野球肘は体ができあがっていない成長期の子どもほど発症しやすく、少年野球を行っている小学生では、20%ほどが発症しているとされています。これは、子どもの骨が傷つきやすく、大人には起こらない障害が起こるためです。
ただし、大人でも肘の靭帯損傷など、野球肘に分類される障害を発症する可能性はあります。
症状としては、投球時や投球後に肘に痛みを感じ、肘を伸ばしたり曲げたりできなくなるのが特徴です。肘が急に動かせなくなる「ロッキング症状」に陥る場合もあります。
野球肘の種類にもよりますが、軽度の場合はバッティング中に痛みを感じることは少なく、バッティング練習などは問題なく行えます。
重度になるとバッティング中も痛みを感じるようになるため、肘に違和感を覚えた際は、早めに病院を受診することが大切です。
■野球肘が起きる仕組み
野球肘の原因は、投球過多などによって肘に過剰に負担がかかるオーバーユース(使いすぎ)です。ただし、投球フォームが悪い選手も肘にかかる負担が増すため、野球肘を起こす可能性が高まります。
人間の肘には上腕骨・橈骨(とうこつ)・尺骨(しゃっこつ)の3つの骨があり、それを靭帯が内側と外側からつないでいます。また上腕骨側には、ボールを握ったり投球中のスナップを効かせたりするのに必要な筋肉がついています。
ボールを投げる際に、肘の内側で骨や靭帯を引っ張る力、外側に圧迫する力、後方では衝突や擦れといった力が働き、骨折や靭帯損傷、軟骨のけずれなどが起こるのが、野球肘が起きる仕組みです。
成長期には成熟した成人の骨よりも脆弱な成長軟骨があるため、ダメージを受けやすく野球肘を発症しやすいのです。
■野球肘の種類
野球肘は、投球動作によって肘に起こるスポーツ障害の総称ですが、肘のどこを傷めるかに応じて、大きく3つのタイプに分けることができます。野球肘の種類を知って、予防に役立てましょう。
・肘の内側が痛くなるもの
肘の内側に痛みを感じる場合は、肘の内側にある靭帯や腱、軟骨などの損傷が原因と考えられます。野球肘の中では最も発生頻度が高い症状です。
子どものうちは内側上顆骨端線離開(リトルリーグ肘)が多く、大人になると肘の内側にある内側側副靭帯を損傷することが多いとされています。
オーバーユースだけでなく、投球フォームの悪さや関節の硬さなども発症の要因になり得ます。
・外側が痛くなるもの
投球時に肘の外側にある骨同士がぶつかり、軟骨を痛めてしまうタイプの野球肘です。離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)とも呼ばれます。
治療しないと肘の変形や曲げ伸ばしの障害が進行しやすく、手術をしても完治しない場合があるため、早期の受診・治療が必要です。
また、骨と骨をつなぐ外側の靭帯を損傷していて、痛みを感じるケースも考えられます。
・後方が痛くなるもの
肘の後方が痛くなる理由として考えられるのは、大きく分けると上腕の筋に引っ張られて起こる場合と、肘が伸びる時に骨同士がぶつかって起こる場合の2パターンです。
【引っ張られて起こるケース】
引っ張られるケースでは、引っ張られた部分の腱に炎症が起きたり、肘の後ろの骨が引き離される疲労骨折が起こったりする場合があります。
【骨同士がぶつかって起こるケース】
骨同士が衝突するケースは、後方インピンジメントとも呼ばれます。骨のかけらができて痛みを覚えたり、骨がこぶのような状態になって肘を曲げ伸ばしできなくなったりすることもあります。
■野球肘予防のために日頃から行いたいこと
野球を行う以上、肘に負担を全くかけないでいるのは難しいです。そのため、野球肘の発症を絶対に防ぐことはできません。しかし、肘にかかるストレスの原因を改善するなど、日頃から予防に努めてリスクを減らすことはできます。
野球肘予防のために日頃から取り組みたいことをいくつかご紹介するので、参考にしてみてください。
・ストレッチ
野球肘に限らず、さまざまな怪我を予防するうえで、ストレッチを行うことは大切です。練習前後のウォーミングアップやクールダウンにストレッチを取り入れ、体の柔軟性を高めておきましょう。
野球の投球動作は、腕を振ったり足を踏み出したりと、下半身と上半身を連動させて行う全身運動です。肘関節や肩回りだけでなく、股関節や体幹などもストレッチやトレーニングを行う必要があります。
ストレッチだけでなく、投球後にアイシングを行うのも野球肘の予防として有効です。ただし、アイシングをしていれば野球肘にかからないというわけではないので注意しましょう。
・投球フォームの改善
投球時に肘が下がっている、上がりすぎているなど、投球フォームが崩れていると肘に余計な負担がかかってしまいます。投球数を制限していても、1球投げるごとの負担が増す分、肘を傷めるリスクは高まります。
体を上手に使えておらずフォームが悪い場合は、できるだけ肘にかかる負担が少ないフォームに改善することが重要です。特に、投球動作中の肘を一番後ろに引いた状態(コッキング期)に肘が下がっているフォームは良くないとされています。投球フォームの改善に取り組む時は、意識してみると良いでしょう。
・球数制限を設ける
野球肘の原因の多くはオーバーユースです。きれいな投球フォームでボールを投げられていて、体の柔軟性や筋肉量が十分だったとしても、投球数が多いことによる肘へのストレスは避けられません。
1日にボールを投げる投球数に制限を設けることも、野球肘を予防するうえでは重要です。
具体的な投球数としては、全力投球は小学生で1日50球、週200球以内。中学生は1日70球、週350球以内。高校生1日100球以内、週500球以内に抑えるのが望ましいとされています。
ただし、これは「この球数以下なら野球肘を発症しない」という明確な基準ではありません。上記の数字を参考に、チームなどで投球に関するルールを設けておきましょう。
■肘に痛みを覚えたらすぐに対処することが重要
野球肘は、初期の段階では自覚症状や患部を圧迫した際に感じる圧痛が少なく、なかなか気づきにくい怪我です。しかし、野球肘のまま投球を続けていると、次第に状態が悪化していきます。早期発見なら数週間の投球練習中止で回復することもありますが、重症になると手術が必要になることもあります。
少しでも肘に痛みや違和感を覚えたら、すぐに整形外科などを受診し、診察を受けることが大切です。
また、怪我を絶対に防ぐ手立てはないものの、日々のトレーニングの積み重ねでリスクは減らせます。ストレッチで柔軟性を高める、フォーム改善に取り組む、球数制限を設けるなどの方法は、今日からでも行えるはずです。
日頃から野球肘の予防に努めて、練習に取り組んで行きましょう。
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