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baseball2024.06.07

佐々木朗希、誰もが納得するパフォーマンスでメジャーリーグへ!

佐々木朗希はいずれメジャーに行く。このことについて、疑いを持つ人はほぼいないだろう。

本人に強い希望があり、ロッテはもちろんのこと、メジャーの球団もそれを知っている。なにしろ、いとも簡単に100マイル(約160キロ)を超える速球を駆使する完全試合の達成者にして、1試合における奪三振の世界記録保持者である。食指を動かさないスカウトがいたら、そちらの方がどうかしている。

なので、今後問題になるのは「行くか、行かないか」ではない。「いつ行くか」あるいは「どこに行くか」である。ひょっとすると今シーズンの終わり、行き先はドジャースだというのが、いまのところの予想の本命のようだが、こればかりはそのときにならないとわからない。野球に限らず、ほぼ決まったかと思われた契約が土壇場でひっくり返ったりするのが、スポーツ・マネージメントの世界だからである。

では、いつか、どこかに佐々木朗希が移籍したとして、彼は活躍できるのか。

これはもう、断言できる。活躍はできる。史上初となる日米両国での完全試合達成、なんてことだってないとはいえない。いずれにせよ、新たに日本からやってきた長身投手の豪腕ぶりに、多くのアメリカ人が度肝を抜かれることになるはずだ。

問題は、その先である。

素材という面からいえば、佐々木が10年に一度、あるいはそれ以上のスパンでしか登場しない、極めて傑出したピッチャーであることは間違いない。トレーニング方法の進化により、150キロの速球を投げる高校生は珍しくなくなったが、160キロは、依然として特別な才能を与えられた者のみが到達可能な領域である。日本で活躍の機会を失いつつあった藤浪晋太郎にメジャーの球団が飛びついたのも、ひとえに“オーバー100マイル”の魅力だったとわたしは思っている。

ただ、佐々木には1年を通してローテーションを守った経験がない。

大谷翔平と山本由伸の加入にドジャースのファンは大喜びをし、今永昇太はシカゴで大歓迎を受けた。素晴らしいピッチャー、チームを勝利に導いてくれそうなピッチャーは、世界中のどんなチームにとっても貴重な存在である。

そもそも、素晴らしいピッチャーとはどのような存在だろうか。あなたなら、贔屓のチームにどんなピッチャーが加わってくれることを望むだろうか。

わたしだったら、勝ち星を量産してくれるピッチャーがほしい。

完全試合、ノーヒットノーランも見てみたい。完全試合、ノーヒットノーランがやれるようなピッチャーがほしい。だから、阪神ファンとしては戸郷がほしい……という話は置いておいて、手がつけられないようなピッチングをする反面、1シーズンを通しての活躍が難しい投手よりは、きっちりとローテーションを守り、チームに2ケタの勝利をもたらしてくれるピッチャーがほしい。

これ、わたしだけだろうか。

高校時代、佐々木は奥川恭伸(星稜)、西純矢(創志学園)、及川雅貴(横浜)とともに『高校四天王』と呼ばれた。全国の頂点に立ったのは奥川だったが、能力では佐々木がずば抜けている、と見る識者は多かった。そして、プロ入りから5年目を迎えた段階で、4人の中でもっとも多くの勝利をあげているのは佐々木である。


だが、シーズンを通じての投球回数が100イニングを超えたのは、実は1度しかない

『高校四天王』とは呼ばれていなかったものの、佐々木と同じ年にオリックスからドラフト1位指名された宮城大弥は、入団2年目から3年連続で140イニング以上を投げ、2ケタ勝利も3年続けている。4年目が終了した時点での通算成績は、佐々木が19勝10敗なのに対し、宮城は35勝17敗と大きく上回っている。

さらに気になるのは、佐々木という選手が、よくも悪くも細心の注意とともに育てられてきた、という点である。

よく知られたエピソードだが、高校最後の地区予選決勝に、佐々木は登板しなかった。疲労を考慮しての登板回避だった。その是非についてとやかく言うつもりはない。いずれ訪れる大きな挑戦のために、彼は、チームは、目先の勝利に飛びつこうとはしなかった。

ドラフト1位で佐々木を獲得したロッテも、この大器を徹底して慎重に扱った。ヤクルトからドラ1で指名され、入団2年目に史上最年少でのクライマックス・シリーズMVPに選ばれた奥川が、その後故障との格闘を続けていることを思えば、ロッテのやり方は間違っていなかったのかもしれない。

ただ、恐ろしく丁寧な扱い方は、5年目に入ってもまだ続いている。

5月28日、「上半身の疲労回復に少し遅れが見られる」との理由で、ロッテは佐々木を1軍登録から抹消した。そこまで8試合に登板して4勝2敗、防御率2.18とまずまずのスタートを切っていただけに、いささか衝撃的ともいえる抹消だった。

もちろん、ケガの具合というのは当事者にしかわからないものであり、チームが必要だと判断したからこその抹消ではあったのだろう。とはいえ、高卒入団5年目といえば大卒ルーキーがプロの世界に入ってくる年でもあり、チームによっては即戦力として大車輪の活躍を見せている選手もいる。この時期に、この成績を残しておきながら、この理由で抹消されるということは、佐々木という選手が、ロッテにとっては未だ「育成中」ということなのか、とわたしは思った。

それがいい、悪い、という話ではない。ただ、彼が移籍を熱望しているとされるメジャーでは、まず受けられない待遇であることも間違いない。メジャーリーグは勝負の場であって、才能ある若手を育成する場ではない。そのための場所を、彼らは別のところにちゃんと用意している。

将来のために、との理由でメジャーの球団が物足りない現状に目をつぶることもない。どれほど大金を投じて獲得した選手であろうが、使えないとなればすぐに用済みのレッテルを貼られる。

アメリカのベースボールと比較した際、日本の野球におかしなところ、問題点が散在しているのは事実だろう。だが、野茂英雄や松坂大輔、ダルビッシュや山本由伸は、そんな中でも無双とも言うべきシーズンを経験してから太平洋を渡った。そこでつかんだ自信は、手応えは、ベースボールの世界に入っても必ずや支えになったはずだとわたしは思う。


いまの佐々木に、支えとなる実績はあるだろうか。中4日で1年間、ローテーションを回していくために必要な経験値が、体力が、彼の中に準備されているだろうか。

今年の2月佐々木は日本プロ野球選手会を脱退している。長く日本でプレーすることを考える選手がとる行動ではない。彼は、すぐにでもアメリカでプレーしたいのだろう。

若い、とびっきりの才能を持つ選手が、世界最高峰の舞台に憧れ、ひたすらにそこを目指す姿は美しい。今年メジャーに渡った山本由伸も、1年前には佐々木と同じ決断を下している。選手会がこれまでに果たしてきた役割を考えれば、いささか残念な気もするが、しかし、既存の互助会的な組織など自分には必要ないと言い切る威勢のよさは、若い才能の特権でもある。

だが、もしわたしが佐々木朗希の肉親であったとしたら、聞き入れられないのを承知のうえで、こう言うことにする。

日本で無双してから、行け。と。

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