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football2020.06.25

『三浦知良、日本社会を奮い立たせるカリスマが未知なるシーズンに挑む』

日本サッカー界のレジェンドが、実に13年ぶりとなるJ1リーグのピッチに立つ。横浜FCの“カズ”こと三浦知良だ。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、J1リーグはシーズン開幕直後の2月下旬に延期となった。各クラブの選手たちは目に見えない敵と戦いながら、静かに爪を研いでいった。

53歳の大ベテランにとっても、経験したことのない日々である。心がざわついた。

「いろいろなことが世の中で起こったなかで、僕自身もさまざまな葛藤がありました。サッカーができない状況が一番のストレスになるなかで、いつかはJリーグが再開される、そのときにはベストの状態で臨みたいと思いながらトレーニングすることで、自分自身を落ち着かせてきました」

眩しい輝きに満ちた35年のキャリアには、実は光と影がある。

1990年から2000年までプレーした日本代表では、歴代2位の55ゴールをマークした。しかし、W杯のピッチには立つことはできていない。

94年には当時世界最高峰と言われていたイタリア・セリエAのクラブに、アジア人初となる移籍を果たした。ところが、所属するジェノアは下位に低迷し、カズはリーグ戦でわずか1得点に終わってしまう。

Jリーグでゼロ円提示を受けたことがある。次シーズン以降の契約はしないという通達で、事実上の戦力外通告だ。

体力の限界も指摘されてきた。小さなケガでも「年齢による衰え」と解釈されるようになって久しい。シーズン中とシーズンオフの違いもないほど真摯にサッカーと向き合い、恐ろしいほどストイックな生活を送っていることが伝えられても、限界説は絶えず燻ってしまう。

自らに降りかかってくるネガティブな要素を、カズはすべて受け止め、そのうえでエネルギーに変えていった。言い訳をしない代わりにトレーニングに打ち込み、ピッチで価値を見せるためにさらに汗を流していった。

モチベーションはシンプルである。



「サッカーがうまくなりたいんです」

シンプルだからブレない。揺らぎがない。少年のようなひたむきさが、カズを衝き動かしている。

2月23日のシーズン開幕戦は、左臀部痛の影響でメンバー外となった。だが、期せずして訪れた4カ月あまりの空白期間によって、コンディションを整えることができた。

7月4日に再開されるJ1リーグは、例年よりも日程が過密になる。それに伴って、選手交代枠が3人から5人に増加された。ケガの予防と選手の疲労軽減を考慮して、監督たちは交代枠を有効活用するだろう。日本サッカー界の歴史に刻まれるゴールを決めてきた得点感覚に衰えはなく、前線からの守備にも労を惜しまない背番号11にも、チャンスへ巡ってくるはずだ。

カズ自身も一般的な考え方として、「短期間で連戦が続いていく日程も含めて、選手にとってはチャンスが膨らんでくるんじゃないかと考えています」と話している。中山雅史(現アスルクラロ沼津)の持つJ1リーグ最年長出場記録(45歳2ケ月1日)は、再開直後にも更新されるかもしれない。

カズにしか塗り替えることのできない記録は、最年長出場だけではない。J1リーグでの最年長得点の更新にも期待が集まる。

J1リーグで最後にゴールを決めたのは、07年9月1日のサンフレッチェ広島戦だ。40歳6ケ月6日でのゴールゲットは、ジーコの41歳3ケ月12日に次いで最年長得点で2位にランクされる。

公式戦での得点は、17年3月12日のJ2リーグ・ザスパクサツ群馬戦から遠ざかっている。3シーズンぶりにゴールネットを揺らし、J1最年長得点記録の大幅な更新が待たれるところだ。

J1で13年ぶりとなる得点を記録すれば、“カズ・ダンス”が見られるかもしれない。プロフェッショナルとしての原点でもあるブラジルへのオマージュとも言えるパフォーマンスは、彼だけに許された特別な時間だ。チームメイトとのソーシャル・ディスタンスを保っても、十分に成立する。

横浜FCがビハインドを背負っており、なおかつ残り時間がわずかなら、すぐにでも試合を再開しなければならない。ゲームの展開によってはパフォーマンスを省略しなければならないが、“カズ・ダンス”を見たいというサッカーファンの熱はすでに高まっている。

他でもないカズにも、ファン・サポーターの声は届いている。7月4日と7月8日の試合は『リモートマッチ』と呼ばれる無観客で行われるが、観客の声援がピッチに響かなくても華麗なステップを刻むつもりだ。

「たとえ無観客試合であっても、ゴールしたらカズ・ダンスをやりたい。チームメイトのみんなと喜び合うこともできないかもしれないけど、そのときは“ひとりカズ・ダンス”で盛り上げます」

20代の彼は、野心を実行へ移した。ディフェンダーを翻弄するドリブルのように、自由自在にキャリアをデザインしていった。

30代の彼は、選手としての原点に立ち返った。日本サッカーのけん引役としての責任を自覚しつつも、ひとりのサッカー選手として感じ得る楽しみや喜びを再確認していった。

40代の彼は、自然体の美しさを感じさせた。ピッチに登場する瞬間は、いつだって弾むような足取りなのだ。真っすぐなひたむきさが溢れ出て、それがまた観る者の心に深く響いていった。

50代の彼は、日本社会を明るく照らす穏やかなカリスマである。苦しみや不安、悲しみや絶望といったものを、暖色系のオーラで包み込んでいく。サッカー界はもちろん日本全体を、奮い立たせてくれる存在と言っていいだろう。

背負うものはなお多く、期待もまた大きい。それでも、カズは力みのない表情を浮かべる。サッカー選手としての変わらない欲求を胸で膨らませ、7月開幕という未知なるシーズンに挑んでいくのだ。

「チームのJ1定着という目標に向けて、日々努力を重ねるなかでも、サッカーを楽しむ気持ちと感謝の気持ちを忘れずに、チームの勝利に貢献できるよう頑張ります」

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