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products2022.04.22

TIGORA×アーティストコラボ・木下友梨香 ―花に囲まれて育ち、花を描くアーティスト―

TIGORAの2022年春夏コレクションでは、注目のアーティストとのコラボレーションが実現。オリジナルのグラフィックをプリントしたTシャツがラインナップされる。

今回はそのコラボレーションアーティストの1人、木下友梨香さんにインタビュー。花農家に生まれ育ち、幼い頃から身近にあった花をモチーフとした絵画を制作している木下さんに、今回のコラボレーションの経緯や、花を通して表現していることについて話を聞いた。


――絵を描くことには子供の頃から親しんでいたんでしょうか。

そうですね、小さい頃から絵を描くのは好きでした。

ただ、子供の頃はあんまり花を集中的に描いていたわけではないですね。ずっと風景画のスケッチをしてました。


――絵に限らず、人物をモチーフにした表現をするアーティストは今とても多いように思います。周りの絵を描くご友人の中でも、風景画ばかりというのは珍しい存在だったのではないでしょうか。

私も絵を仕事にし始めてからしばらくは人物を描いていました。大学を卒業してからの数年間ですね。花をメインにやっていこうと決めたのは6年ほど前からなんです。


――それはどのようなきっかけだったのでしょうか?

人物を描いていると、ダークなものとして受け取られることが多くて。

自分ではただかっこいいと思ってやっていたことがそういう反応を受けるということは、今やっていることは自分の本当に表現したいこととは違うのかな、という思いが次第に大きくなっていきました。

じゃあ何を描こう? となってからは悩んじゃって、何年かは何を描いたらいいかわからなかったんです。

そんな中ある人に相談したのがきっかけで、これまでやってきたことを1から見直して全部変えることにしました。相談したことで変える勇気を持てたし、意味を整理できたと思います。

そして本当に自分の描きたいものを模索する中で、自分にとって花というものが特別だと気づいた、というか、自分しか見てなかった花の姿というのがあるんじゃないかと思い至りました。


――何かを表現活動のテーマに選ぶことは、それが本人にとって並々ならない存在だという1つの証左かと思います。自分にとっての「花」というものが、他の人の言う「花」とはちょっと違うかもしれない、と感じたことはありますか?

そうですね、多くの人にとっての花っていうのは、花屋さんで買ってきて花瓶に入れて眺めるといった形で付き合うものなのかなと思うんですが、私にとってはちょっと違っていて。
自分にとっては視界いっぱいにばーっと膨大に存在するイメージです。というのも、実家には6m×70mのビニールハウスが50棟あって。

だから花を描き始めた頃の作品は画面全体に埋め尽くすようにたくさん描くようなものが多かったんです。

それに、多くの人が花に対して抱いているイメージは「綺麗なもの」といった感じだと思うんですが、私にとっては家族の一員というか、当たり前にそこにあるものなんです。そういう心身の距離の近さは他の人とは違うのかなと思います。


――モチーフに対して抱いているイメージだけでなく、タッチも非常に独特なものかと思います。

はい、手で描いています。手をペンキに突っ込んで直接キャンバスに。

いろいろと試してこのやり方に辿り着いた、というわけではなく、本当に自然とというか、昔からなんです。油絵をやっているときも途中から手で描き始めちゃってましたから。

自分にとっては筆だとなんだか遠くて。やっている内にどうせ手になっちゃうんです。


――選択の末にではなく「どうせ」というのが素敵です。もう少し伺いたいのですが、描いているのは実在する花なのか、実在しないものもあるのかでいうといかがでしょうか。

両方あります。ただ、結果的に実在するものとは少し違ったものになっているかもしれません。

実物を見ながらというわけではなくて、記憶の中にある「あそこにあれ咲いてたな」っていうのを呼び起こして描いているので、そのときの感覚や感情次第で見え方が違っているでしょうし、それも込みで表現しているので。

絵と対峙することは、その作品を通して自分と対峙することでもあると思っていて。自分の絵の前に立った人にもそういう時間が流れればいいなと願っています。


――今回のコラボ企画以前にもアパレル商品を手がけられたことはありますか?

自分の展示のグッズとして作ったことはありますが、お仕事としては初めてですね。

今回の絵は企画のために描き下ろしたものです。


――Tシャツを1つのメディアと捉えると、通常のキャンバスとはまただいぶ異なった制作が求められるのではないかと思います。

そうですね、グラフィックの大きさをどうするかというところから話し合いを始めて、総柄にしたらどうだろうって案も上がったりしたんです。最終的にはシンプルな今の形に落ち着きました。

白の余白が多かったので、Tシャツに馴染むようにというのは意識しました。


――普段作品の現物を展示されているかと思いますが、自分の作品が印刷されることについてはどのように感じられたでしょうか。1つ工程が加わり、複製され、風合いや意味合いが変容したりと、作品にとってさまざまなことが起こるかと思います。

そうですね、自分が大事にしてるのは、描いたときの感覚や印象の大きな部分というか。だから細かいタッチや微妙な色の違いよりも、全体の存在感が重要だと考えています。

なので、印刷によって逆に細かな部分に違いが出ても、それをおもしろいなって楽しむ方だと思います。今回に関しても、仕上がったものを見て「こうなったんだ!」と歓迎する気持ちです。


――今回の作品のコンセプトはどのようなものでしょうか。

TIGORAというブランドがスポーツや日常をテーマにしていると聞いていくつか提案させていただいたんですが、どの提案でも共通していたのは、日常の中で花を見るときの記憶に残っているものを表現したいということでした。例えば、ふとしたときに金木犀の匂いを感じてはっとするみたいな。

そういう花との関係性がTIGORAのイメージとマッチする部分があるのかなと思ったんです。



 


■今後のこと

――絵を描くうえで影響を受けたのはどのような作家でしょうか?

一番最初にアートに興味を持ったのは中学生の頃、シャガールの絵を見たのがきっかけでした。

中学時代、進路やその先のどういうふうに生きていくかということについてかなり悩んでいる中、たまたま図書館でシャガールの画集を開いたんです。

すごく衝撃を受けました。自分には知らない世界がそこにあって。

そのとき見た絵は自分の許容範囲じゃないんです。「えっ、こんなのありなんだ」って。

しかも、それが海外のどこかで受け入れられていて、歴史も場所も超えて日本のこんな田舎の中学校の私の元に届いているということの衝撃もものすごくて。


――作品が存在することだけではなく、それを受容する土壌があったことにも感動を覚えたんですね。

そうです。知らない世界が急に拓かれた気がして。ああ、こういう世界があるなら自分にもできることがきっとあるなって気づいたときにいろんなことが吹っ切れました。

それで、デザイン科の高校に進むことを決めました。


――価値観をひっくり返されることはストレスを伴ういっぽう、高揚感を覚えるものでもあるかと思います。大人になってからはそういった体験はあるでしょうか?

初めてKAWSの作品を生で観たときにも同じような衝撃を受けました。そのときは名前も知らなかったんですが。

あと、5年くらい前にパリで観たサイ・トゥオンブリーの個展も衝撃的でした。


――この3人の作家の並びはおもしろいですね。一見まったく共通点が見当たりませんが。

そうですね、どれも個人的に、自分の中にそのときなかったものだったというのはあるんですが、どれも発色がいいというのは共通すると思います。


――なるほど、やはり色に対する興味は一貫されているんですね。

そうですね、それはやっぱりずっと自分の中にあるものです。


――では、今後作家としてやってみたいことを教えてください。

具体的ではないんですけど、すっごく大きいのに挑戦してみたいです。

これまでも大型商業施設に掲出されるものを手掛けたことはあるんですが、あれよりもっともっと大きいものを。


――では最後にもう1つ。これまでに描いていない花って何かあるでしょうか。というのも、自分の中で大事すぎたり意味が強すぎるモチーフは、かえって作品にしづらいということが往々にしてあると思っていて。

ああ、まさにそうですね。私にもあります。実家でメインで栽培していたスイートピーがそうです。

絵にしようと挑戦したことはあるんですけど、やっぱり特別すぎて、なかなか自分の中の壁を超えられなくて。


――では、今後木下さんがスイートピーの作品を発表されたら、とうとうその壁を超えたということですね。

そうですね。いつか発表できたらいいなと思います。自分でも楽しみというか、1つの目標かもしれません。
 


木下 友梨香 | YURIKA KINOSHITA

佐賀県出身、東京を拠点に活動する。京都造形大学を経て武蔵野美術大学を卒業。花農家で育った生い立ちを元に、花や植物を抽象表現した作品を製作している。密集して存在する花や植物を描き、自然を目の前にした時のような瞑想を生活の中に提示する。 個展やグループ展、ファッションブランドとのコラボレーションなど、幅広い活動を行っている。


【展示概要】

展覧会:「SKETCH」

アーティスト :木下 友梨香  | YURIKA KINOSHITA

期間:2022年4月9日(土)- 4月28日(木)

営業時間:10:00-18:00 日祝休

会場 : MARGIN 東京都中央区日本橋横山町4-10

電話番号:070-4000-8007

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