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running2019.07.08

アディダス開発担当者が語る、100%リサイクル可能なランニングシューズ『フューチャークラフト.ループ』の可能性と“モノづくり”に対する想い

シューズの寿命は意外と短い。ランニングシューズで言うと、走る頻度・フォーム・着地のクセなど個人差はあるが、走行距離500~1000kmほどで寿命を迎えてしまう。そうなれば、買い替えるために処分してしまうのが一般的だろう。しかし、その常識が今、覆されようとしている。

2019年4月17日、これまで数々の名作を生み出してきたアディダスが、またさらに革新的なスポーツシューズを発表したのだ。それが、100%リサイクル可能なランニングシューズ『FUTURECRAFT.LOOP(フューチャークラフト.ループ)』。プロトタイプモデル として発表され、ベータ版プログラムの進行が発表された。

単一素材を用いて“接着剤なし”で生産することで、使われなくなれば裁断して溶かし、新しいシューズの原料にすることが可能。たとえ寿命を迎えたとしても、また新しいランニングシューズに生まれ変わるのだ。この発表は、アディダスのプラスチック廃棄物に対する取り組みのさらなる強化を示している。

今回は、フューチャークラフト.ループの開発チームで、マテリアル担当を務めたテクノロジー イノベーション マネージャーのターニャ・サハンガ氏に、同シューズに対するこだわりと“モノづくり”に対する想いを伺った。


アディダスのテクノロジー イノベーション マネージャーのターニャ・サハンガ氏

――フューチャークラフト.ループが完成するまでの経緯を教えてください。

ターニャ:まず、私が所属しているチームではシューズの研究・開発を行っています。その過程で、さまざまなテクノロジーを検証し、トライ&エラーを繰り返しながら、次々と新しい商品を生み出しているんですね。

ただその中で、寿命を迎え、使われなくなった商品をどう管理し、コントロールできるか、という課題がずっとあったんです。

そもそもシューズを作るためには、地球にあるいろいろな「資源」を使わなくてはいけません。これはシューズに限らず、どんな商品でもそうです。

そういった商品をゴミとして捨ててしまえば、埋め立て地や焼却炉へ辿り着き、最終的にはCO2として地球温暖化を進めるか、あるいはプラスチックのゴミとして海を汚染してしまいます。

私たちは、その現状を食い止めるべく、環境に与えるマイナス影響を軽減するための方法を考え続けました。

その施策のひとつが、海洋環境保護団体「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ」との協業によって、廃棄物の削減に向けてスタートさせた、海岸や海沿いの地域で海に流入する前に回収されたプラスチック廃棄物をアップサイクルしてつくられるシューズやアパレルのライン、Parley(パーレイ)です。2015年よりパートナーシップを組み、2016年より関連製品の販売をスタートしています。



――では、フューチャクラフト.ループの開発のためにどのようなことを始めたのでしょう?

ターニャ:“リサイクル可能なシューズ”の開発です。


熱可塑性ポリウレタン(TPU)

そして注目した素材が、“熱可塑性ポリウレタン”(TPU)です。

――素晴らしい取り組みですね!では、フューチャークラフト.ループの素材には、このTPUが使用されるわけですよね?

ターニャ:その通りです。私たちが掲げた次のステップが、TPUを使用した自社製品の開発でした。そのために私たちは、商品開発をする上で、この製造工程を“逆算して”考えてみることにしたんです。



リサイクルして再び商品化することが最終目標なわけですから、再利用できて、なおかつアディダスの商品としてスポーツのパフォーマンスを引き出すことができるシューズ。これを“最終目的地”として考え、実現可能な製造方法を模索していきました。

ただ、そういった商品を生み出すには、接着剤を使用せず、素材もTPU1つに限定しなければいけません。

というのも、従来のシューズは通常、材料の複雑な混合およびコンポーネントの接着剤による貼り付けを必要としていました。ですがその複雑な構造の結果、リサイクルが困難となってしまっているんです。

このプロジェクトにおいて、リサイクルできなければ意味がありません。

ですから単一素材の採用および接着剤を使用しない、“最初から再生できるシューズ”の設計に取り組みました。


『FUTURECRAFT.LOOP(フューチャークラフト.ループ)』

――TPU素材のみによるシューズ開発に踏み切ったわけですね。

ターニャ:はい。実際に開発に取りかかってみると、TPUはソール向けにフォーム成形することは難しくありませんでした。

アディダスがドイツに立ち上げた、シューズをロボットなど先端技術を駆使して製造する工場「スピードファクトリー」技術を用いて糸を紡ぎ、編み込み、成型。そして軽量な白いソール「BOOST(ブースト)」フォームへクリーンに貼り付けることができたんです。

ただ、TPUはアッパーの編み地のために糸状にすることは難しく、開発する上で大きな問題となってしまいました。

何故なら、アッパー素材にはこれまでポリエステルが使われており、シューズ全体を単一の素材から作ることは不可能だったからです。

なのでTPU仕様の特別なアッパーを開発させ、フューチャークラフト.ループを完成させるまでには6年もの歳月を要しました。

そして、初期段階では1回に1~2足しか作れませんでしたが、2017年の初めには1回で50足の生産に成功。徐々に商品を量産することが可能となっていったんです。


2017年に作られたフューチャークラフト.ループのサンプル

こちらが初めて作ったサンプルで、実際に使用されたシューズを回収したものです。

私たちで着用し、実際に走って感覚を確かめ、リサイクルして何度も改良を重ねました。

これがまさに「リサイクルされて新しい商品に生まれ変わる」ことを証明するものになるわけです。

――これを見ると、ターニャさんをはじめ、開発チームの商品に対するこだわりや想いが伝わってきますね。ちなみに、ターニャさんが“モノづくり”において大切にされていることって何なのでしょうか?

ターニャ:もちろんその時のトレンドだったり、自分のクリエイティビティも大切です。

ただその中で、私には製品開発を行う上で必要な“イノベーションの源”があります。

それは、自分の持っている疑問に対して何か答えを提供してもらえる、もしくは問題を解決してもらえる、そういった環境のもとで商品開発ができている、ということです。

独創的なイノベーションを創出するには、それを生み出す環境、チームが必要不可欠。

だからこそ、私たちは一緒にモノづくりをするアディダスのチームを大切にしているのです。



――新たな商品を開発する際に、互いにアイデアやヒントを与え合う、そういうクリエイティブな関係性をチームで作ることが重要なんですね。最後に、この仕事をしている中で1番喜びを感じる時を教えてください。

ターニャ:何かしらの問題・課題にぶつかった時に、その状況を打破できた時ですね。

今回で言えば、まさにこのフューチャークラフト.ループを開発できた瞬間でしょう。

この商品を生み出す過程には、「これ、どうやったらいいの?」「本当にうまくいくのかな…」という疑問や不安がたくさんありました。

それでもこうして、みなさんの前に完成品をお見せすることができた。

時間はかかりましたが、うまくいかない状況を打破し、新たな商品を生み出せた瞬間の喜びは何ものにも代えがたいもの。

だからこそ、このフューチャークラフト.ループをたくさんの人に履いてほしい。

これから2021年春夏の一般販売を目指していくので、その際はぜひ手に取っていただきたいですね。

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