座談会-ランニングシューズの機能とデザインのバランス
楽しくスポーツギアを選ぶために必要な知識を、アカデミー形式で学んでいく、「SPORTS GEAR ACADEMY」。本連載のランニング編では、これまで3回にわたって、ランニングシューズの選び方について紹介してきた。第4回目の今回は、それぞれ異なるバックグラウンドを持つランナーを招き、シューズ選びに関する座談会を実施。『ランナーズパルス』編集長で、これまで数え切れないほどのシューズを履き走ってきた南井正弘、高校時代は陸上部に所属し、フルマラソン自己ベストで2時間49分の記録を持つ『BEAMS』牧野英明、モデル・タレントで同世代の女性たちと日ごろからランニングを楽しむ三原勇希が、シューズ選びについて意見を交わした。
■それぞれにとってのランニング
――まずはそれぞれのバックグラウンドをお聞きしたいと思います。南井さんは、もう30年以上もランニングギアに関わるお仕事をされていますが、そこまでランニングシューズの魅力にとりつかれたのはなぜですか?
南井:ランニングシューズって、一足ずつ履き心地も走り心地も違うじゃないですか。「この靴は足に優しい」「この靴は自然と足を運んでくれる」「この靴は速く走れって命令してくる」みたいな。いろいろなタイプのシューズがあるので、履き替えたりするのが楽しいですよね。疲れているときは足に優しい靴を選ぶし、最近は朝晩ひんやりして走りやすくなったので、ちょっと速いペースで走りたくなるシューズを選んだり。僕は12年前くらいからほぼ毎日6km走っているんですが、やっぱり走りたくない日もあって。でも、新しいシューズが手に入ると、「これを履きたいから走ろう」っていう気持ちになりますね。シューズは、走るモチベーションを上げてくれるもののひとつなんです。だから、みなさんにもいろいろ履き比べたりして、自分にぴったりのシューズを選んでもらえれば、走ることをさらに楽しんでもらえるのではと思って、『ランナーズパルス』を始めました。
――牧野さんは、高校時代は陸上部だったんですよね。競技として走ることを経験してきたからこそ、ランニングギアのかっこよさについて何か感じることはありますか?
牧野:僕が陸上をやっていた20年前は、選択肢がほとんどありませんでしたね。Tシャツは白か蛍光色。ソックスも白以外に選べるものはなかったです。学生のころからファッションは好きだったんですけど、部活中はエッセンスを出す手法がなくて……というのもあって、競技は辞めてしまったんですけど。でも、大人になってから走るようになってギアを見渡してみたら、当時とは違っていろいろなものを選べる楽しさがありました。
三原:牧野さんは普段どんなふうに走ってるんですか?
牧野:最近は、代々木公園の織田フィールド(陸上競技場)に行くことが多くなってきました。ランニング仲間も増えて、一人で行っても誰かしら知り合いに会えるので、学校に行くような感じで時間があれば通っています。ストイックな人たちに囲まれて走ると、刺激になり自分自身の気分も上がるというか。頑張ろうという気になりますね。それ以外だと、月に1回ほどは「フイナム ランニング クラブ」(ウェブマガジン『フイナム』が主宰するランニングコミュニティ)に参加してグループランニングを楽しんでいます。織田フィールドのストイックな環境とは全く違い、両極端なランニングの幅が広がっています。三原さんは普段どんな感じで走られるのですが?
三原:今は週に2~3回くらい走っていて、大会前だと月100kmくらいは走るようにしています。一人のときは5~10kmくらい走るか、もっと長距離を走りたいときは友達を誘ったり、トラックを走りたいときはランニングクラブの練習に参加したり。
あとは2019年の5月から、「GO GIRL」という自分たちのランニングクラブを始めたんです。40人弱のメンバーがいて、ほとんどが20代の女の子。8割がランニングを初めたばかりなので、だいたい月に1度初心者向けの練習会をやっています。楽しむことを第一にしながらも、コーチを呼んで一緒に学んだり、あとは銭湯にいったり、この前はみんなで群馬の水上温泉に行って合宿をしたり。ランニングと相性の良いものを見つけながら、友達と遊ぶのと同じような感じで集まっています。
■研ぎ澄まされた機能美を求めて
――ここからは、それぞれにのランニングギアへのこだわりについても聞きたいと思います。牧野さんは、シューズやウェアについて何か意識されていることはありますか?
牧野:ちゃんと外を走ろうと思ったときは、そのときのペースとか気分とかで性能をなんとなく選ぶ感じです。普段、けっこうこの格好のままで走っちゃうんですよ。メッシュのTシャツにいわゆる機能的なシャカパンで。このあたりのシューズを履いてれば、いつでもどこでも走れちゃうので。最初はファッションの感じの大衆的なところから入っても、どんどん行くと最終的には研ぎ澄まされた機能美みたいなところに行き着いた感じです。
三原:私も、ランニングにハマっていくにつれて、やっぱりムダなものがない方がはしりやすいな、と思うようになりました。だから今は、タイツだけか、ショートパンツだけで走ることが多いですね。タイツとショートパンツを重ねたりせずに。あとは、カッティングやシルエットだったり、バランスがかわいいと思えるアイテムが好きです。
シューズは、その時々でハマっているシューズがあるんですけど。基本的に手に取るのは、「これでフルマラソンを走りたいな」と思うシューズです。あとはデザインも大事。カラフルな要素をどこかに取り入れることが多いですね。今は、NIKE BY YOUっていう自分でカスタムできるサービスで作った、「ズームフライ3」を履いています。
南井:厚底で、カーボンファイバープレートが搭載されたモデルですね。ナイキのカーボン入りの厚底シューズは、推進力が今までにない感じ。厚底ブームの火付け役にもなった2017年の「ヴェイパーフライ 4%」を初めて見たときは、こんなギャルが履くような厚底で大丈夫かな、と思ったくらい。でも、全然走れるし軽いですよね。特にテニスラケットで言うスイートスポットみたいな感じで、本当にうまく乗れたときは、これはすげぇなと思って。今までのランニングシューズの常識をブレイクスルーしたと思います。
牧野:「ズームフライ3」とかって、ファッション方面でも知っている人が結構多いんですよね。一方で、アシックスの「カヤノ」とか「ターサー」とかって基本的に存在すら知らないんですよ。ファッションの人たちって。僕はあえて普段から履いてます。それに至るまでの前に、ずっと革靴とかをずっと履いてた時期とか、それこそローテクのスニーカーばっかり履いていた時期があったんですけど、もうランニングができるシューズしか所有しないと決めちゃったんですよね。スタイルに関しても、正直全然自分の中ではあまり難しく考えていなくて。それこそ一番簡単なのは、モノトーンのセットアップにどれを履いてもOK、という感じです。
■こだわりある3人が選んだシューズたち
――ここからは、今回のラインナップの中からお三方それぞれのお気に入り、または気になっているシューズをセレクトしていただきました。
南井:先ずは「アディゼロ ボストン 8」。まだ履いて走ったことはないですが、アッパーのフィット感がすごくいいと知人からきいたので、それを体感してみたいなと。街履きでもガチ履きでも、どちらも履けるシューズですね。海外の人が普段履きしていたのがかっこよかったので、僕もデニムに合わせてみたいです。
続いて、「ズーム フライ 3」。1と2も履いていて、去年のゴールドコーストマラソンで1を履いたら7年半ぶりに自己記録を更新して。3も履いてみたら全然履き心地が違って、さらにクッションがいいんですよね。今では、グリーンと白と黒の3色を持っています。それくらい気に入ってます。
最後がこの「グライドライド」。前に出た「メタライド」の方も東京マラソンのときに履いて、ゴール後の打ち上げで、みんなに「本当にフルマラソン走ったんですか?」と聞かれるくらい元気で。それくらい、疲れを残さないという意味でいい靴だったので、それのニューバリエーションということで試してみたいなということで選びました。
(左)ズーム フライ 3(奥)グライドライド(右)アディゼロ ボストン 8
【
アディゼロ ボストン 8
】
・クッション/反発/安定/軽量/フィット感のバランスが良い
・レースでもトレーニングでも使える汎用性の高いシューズ
【
ズーム フライ 3
】
・話題の厚底シューズの普及版
・ヴェイパーと同じカーボンプレートによる推進力
・ミッドソールに軽くて耐久性のあるリアクト素材を採用
【
グライドライド
】
・3月に発売され話題になったMETARIDEと同じコンセプトのモデル
・多くのランナーが履けるように軽さやクッション性が重視された設計
・転がるような設計によって、足に負担がかからず長距離ランを楽しめる
牧野:僕の一つ目は「FRESH FOAM BEACON M」。ニューバランスの靴は、いわゆる900番台や1000番台とクラシックなスタイルしかずっと履いてきてなくて、ランニングシューズは履いたことがないんです。こういうパフォーマンスものは、あまりファッション業界の人が普段履かないものなので、あえてこれをランニング+普段履きにしたいですね。ふわふわした、すごく足にストレスがないような感じの機能性がありながら、ファッションにも合わせやすい感じかなと。
二つ目は「ズーム ペガサス ターボ 2」。これは実際に愛用しています。ズームXが入っている分、乗り出しがいい感じですね。ソールの耐久性もけっこういいので。ペース走くらいのときにちょうどいい感じです。デザインもよくて、幅広い人がオンオフどっちも使えると思うんですけど、逆に僕は走るときしか履かないです。おしゃれな感じなので、あえて普段は履かない。
そして三つ目が「TARTHEREDGE」。ザ・ストイックなシューズから、あえてのターサー。普段履きにもしたいですね。これだとモノトーンのセットアップスーツのノーソックスで履いたりすれば。タッセルローファーとかと同じ使い方ができるんですよ。使い方としては、もう革靴に近いですね。
(左)TARTHEREDGE (中央)ズーム ペガサス ターボ 2(右)FRESH FOAM BEACON M
【
FRESH FOAM BEACON M
】
・厚底だけどとにかく軽いクッション素材
・立体的なかかとやメッシュ素材など全体的にストレスのないソフトなフィット感
【
ズーム ペガサス ターボ 2
】
・ヴェイパーフライを練習用にアレンジしたスピードシューズ
・軽くて通気性の高いメッシュ素材、クッション性の高いミッドソールを採用
【
TARTHEREDGE
】
・1983年から続く、アシックスを代表する憧れの薄底シューズ
・高いグリップ性を発揮するテトラポッド型のソールを搭載
・クッション性と反発性を兼ね揃えた薄くて軽いミッドソールを使用
三原:わたしは「ズーム フライ 3」。大会で「ヴェイパーフライ4%」を履いているので、大会前に「ズームフライ3」でヴェイパーの履き心地を再現しながら走るために練習で使っています。ズームフライシリーズが出てきてから、厚底を初めて履いて。足の楽さ、ダメージの少なさと推進力に本当に衝撃を受けました。記録も伸びましたし。クッションもすごくいいですし、足のシルエット、筋肉がついちゃうのを気にする女性にもお勧めできます。ある程度練習を重ねてからこのシリーズを履いたので、乗れたときの感覚というのがすごく分かって、走っていて楽しいです。
もう一つが「エア ズーム ペガサス 36」。これは本当にバランスが良い。気楽に走りたいときはこっちを履いたりしています。初心者の方にもお勧めできるし、軽いけどちゃんとクッションがあって、しっかりサポートもしてくれます。
(上)ズーム フライ 3 (下)エア ズーム ペガサス 36
【
ズーム フライ 3
】
・話題の厚底シューズの普及版
・ヴェイパーと同じカーボンプレートによる推進力
・ミッドソールに軽くて耐久性のあるリアクト素材を採用
【
エア ズーム ペガサス 36
】
・ナイキの定番シリーズで歴史あるバランスの良いモデル
・初心者だけでなく中級・上級者まで幅広くお勧め
■ギア選びをもっと楽しむために
――最後に、ランニングギアをもっと楽しく、なおかつかっこよく選ぶためのコツがあれば教えてください。
南井:一番簡単なポイントは、変にブランドを混ぜないこと。いいブランドの混ぜ方とダメなブランドの混ぜ方があって、例えばチャンピオンやルルレモンなどの中立的なアパレルだったらいいんですけど、ナイキのウェアにアディダスを合わせるとか、プーマのウェアとナイキを混ぜるとかはちょっと違うんじゃないのみたいな。だったら全部揃えちゃうのがいいと思います。海外の人を見ていると、そこは意外と混ぜてないんですよね。
牧野:混ぜちゃダメなところと混ぜても大丈夫なところってやっぱりありますよね。ナイキのウェアで足元ホカオネオネとかも全然OKだったりします。
南井:たまにいるんですけど、色だとかデザインで選んで自分の足に合ってないのを選んじゃう人がいるんです。そうすると走ることが楽しくなくなってしまうんですよね。やっぱり、まずは自分の足、自分のランニングスタイルに合ったものを選んで、そこからデザインを選んでもらえたらいいんじゃないかなと。
三原:確かに、デザインもすごく大事なことだけれど、走りやすいシューズを選んだほうが絶対に楽しいし、続けられるんですよね。以前、雑誌の企画で10何足履き比べて実際に走ったことがあったのですが、そのときに初めてこんなにも違うのかってすごく驚いたことがあるんです。初心者の人は履き比べて走れないと思うので、そういうときはランステに行って試し履きをしてみたりするのもすごくいいと思います。
牧野:ランニングシューズは決して安価なものではないので、三原さんが言っていたように試し履きをうまく活用するのはおすすめです。たとえば、人によってはシューズの食わず嫌いというか、「俺は薄いのじゃないと」って厚底ブームを毛嫌いしている人もいると思うんです。でも、選択肢を広げてみるともっと自分に合った走り方に出会えることもあります。僕自身、もう1ステップ前に進むために、ナイキのズームフライシリーズを履くようになりました。それまでは自分の足の力で地面を蹴るような走り方をずっとしていたんですけど、シューズの推進力をうまく活用して、体重移動でそのまま流れるように進むという走り方を体得できたんです。だから、たまに自分の走りをシューズに合わせてみたりしながら自分に合うものを探すと、より一層フィットする力が増していくと思います。
[ ランニングシューズ講座
第一回講義
第二回講義
第三講義
第四回講義(座談会)はこちら ]
#プロフィール
(左)牧野英明、(中央)三原勇希、(右)南井正弘
牧野英明
セレクトショップの社員でありながら、ランニングアドバイザーの資格をもち、自身も ストイックに練習に励む。フル自己ベストは2時間49分01秒
三原勇希
三原勇希(タレント・モデル)1990年4月4日生まれ。大阪府出身。 ファッション誌「二コラ」のモデルとしてデビュー。 その後、音楽番組のMCを務めタレントとしても活動。アクティブな趣味や特技を活かして活動中。
南井正弘
スポーツシューズブランド勤務を経て「スニーカースタイル」をはじめとしたスニーカー専門書を著し、現在は「フイナム」「シューズマスター」「デジモノステーション」「モノマガジン」「価格.comマガジン」…と多くの雑誌やウェブ媒体で執筆するスニーカー界のご意見番。
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