ヴェイパーフライ規制論争(いわゆるナイキ厚底シューズ論争)について総括【前編】。World Athleticsのレギュレーション発表とヴェイパーフライ規制論争の根拠は?
ちょっと前まで、ナイキのズームXヴェイパーフライネクスト%というシューズの是非が、世間を巻き込んで論争の的になっていた。新聞・テレビでも取り上げることが増えて、ランナーはもちろんのこと、ランニングシューズに興味がない一般の方でも周知の話題となっていったのだ。
これには、正月の箱根駅伝出場選手の84.3%のシェアになるなど、駅伝では“大ブーム”となっていることもあり、ニュースでも取り上げられていたこともあったのだが、英国紙から、渦中の“ヴェイパーフライネクスト%が規制される”のでは、といったリーク情報が出たこともあって、このところ報道が、さらに加熱した感はあった。
この記事ではここまで熱狂的に報じられた、ヴェイパーフライ規制論争について総括したいと思う。
<World Athletics(ワールドアスレティックス)がついにレギュレーション発表>
そして、1月30日(金)になって、いよいよ、World Athleticsから新しいレギュレーションが発表された。結果的に、現行の“ヴェイパーフライネクスト%”は規制されない、というものになったのであるが、はっきり言って、このシューズが市販商品であることを考えると、訴訟の時間・費用を考えて現実的・妥当な決定であったと言えよう。
決定事項としては、
・プロトタイプのレースでの使用禁止
・カスタムも医療的な問題など理由がない場合プロトタイプと見なされる
・スタックハイト40mm以内、プレートは1枚のみOK
・店頭、通販で購入でき、発売から4ヶ月経ったもの
・シューズがすべての人に公開されていること
となった。
これは、市販品を選手が使用して、本来持つ実力を競い合うという公平な基準になった、という一方で、“ヴェイパーフライが規制されなかった”という以上に、このシューズスタイルが、“ロングディスタンスレースシューズのスタンダード”である、と宣言をされたようなもの。つまり、みんな“ヴェイパーフライ”で公平というようなニュアンスにもとれる。
今後、各メーカーは、このシューズのクオリティーに追いつく必要性と、選手に対しては義務が生じたと言える。それも4月30日までには答えを出す必要がある。
なぜならば4月30日以降はプロトタイプも公式レースでは使用できないので、それ以前に店頭、通販で販売されている市販品にできなければ、東京オリンピックでは使用できないことになるという期限付きのためだ。
各メーカーはとても厳しい制約を突きつけられた形になった。これは、「4.30問題」勃発だ。
特に、日本の場合、カスタムがグレーゾーンになったこと、また、プロアスリートが少数の日本では、これからこのシューズ“一色”の現象がさらに加速するであろう。
<ヴェイパーフライ規制論争の根拠は?>
ヴェイパーフライネクスト%はそんなにすごいのか?
2017~2019(東京まで)のワールドメジャース6大大会では、1〜3位78名中、47名、6割強がヴェイパーフライを着用し、それは、まさに独占状態だ。そして、2019年10月、シカゴマラソンで、ブリジット・コスゲイ選手が、16年間破れなかった不滅の女子マラソン世界最高記録を1分21秒も破る2時間14分4秒の記録を達成したことも象徴的な出来事であった。
とにかく世界中で結果が出ているシューズ、まさに通称“速く走れるシューズ”と評されるのもそれ所以だ。
そして、2019年10月12日にオーストリア・ウィーンで行われた「イネオス1:59 チャレンジ」で、エリウド・キプチョゲ選手が、人類未踏の2時間切りを達成したのだが、その時に着用したプロトタイプ「アルファフライ」と呼ばれるシューズが、物議を醸しだすことになる。
一部報道では、このシューズではカーボンプレートが3枚、ズームエアパッドが4個片足ずつに配置されるという驚きの仕様であったこともあり、この記録は、シューズで達成された記録なのか、それとも、選手が達成した記録のか、という、選手の実績賞賛とは違う方向の論争になっていってしまうわけである。
今回の新基準は、前述の一部報道にあった「アルファフライ」を実質的に規制した内容であったと言っていい。
そして、ブランド縛りがある海外のプロアスリートからは、水泳のレーザーレーサーの時の問題を引き合いに出して、ついに不公平論争に発展して、不満が爆発する。SNSを利用して自分の意見を発信するアスリートも目立っていく。
逆に、中にはスプレーでヴェイパーフライシューズを真っ黒に塗りつぶして、スウッシュを隠し、レースに出場する、World Athleticsの査定を待てない一部の他ブランドプロアスリートも散見することになるなど、本末転倒な結果も生みだしている。
日本はというと、箱根駅伝で210中、177名、84.3%が履いたことは大きなニュースになった。その他、他ブランドシューズの代名詞的実業団選手も次々に乗り換える現象が現在まで起きている。日本には海外のアスリートのようにメーカーと金銭契約をしてないため、厳密な使用規制がないことも拍車をかけている要因であろう。
とにかく、強い選手がそれを履いて結果を出せば、“履いてみたい”くらいの好奇心の芽は、結果のサンプル数がこれだけ圧倒的になると“履かないと勝てない”という心理に変化していく。まさにそういったある種の力学が働いていくほどのシューズなのだ。
以上、前編では、World Athleticsのレギュレーションについてと、ヴェイパーフライ規制論争の根拠について言及してきたが、
中編
ではそもそもヴェイパーフライネクスト%とは一体どんな仕組みのシューズなのか?速く走れるシューズなのか?などについて語ってみたい。
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