陸上競技短距離選手 飯塚翔太「本当におっきい目標を立てることで、どんなことがあっても努力することができた」
ロンドン、リオデジャネイロで二度の五輪出場経験を持ち、JOC強化指定選手である飯塚翔太選手。走ることが何よりも楽しいという飯塚選手の活躍を支えているのは、子供の頃から描いていた大きな夢と、スポーツを通して得た「2つの力」にあった。
■「オリンピック選手になりたい」大きな夢は、人に伝えることで実現していく
――いきなり核心ですが、小中高時代、どんな夢を持っていましたか?
小学校6年生の時、卒業文集に「オリンピック選手になりたい」、「オリンピック選手になって、指導者になりたい!」みたいなことを書いて、ずっと夢を持っていました。そして、いろんな人に言っていました(笑)
――当時としては大きな夢でしたか?
もうかなりおっきくて。自分がなれるとも思っていなかったのですが、なれるのだったらなりたいっていうくらい、ほんと、かなりおっきな夢でした。
――飯塚選手が実際オリンピック出場を果たすまで、具体的にどんな行動を重ねて、夢を叶えましたか?
まずは、自分の夢を立てる。僕の場合は小学校のときに「オリンピック選手になりたい」という夢を立て、それを伝えました。叶えられるかどうかわからないと思われるかもしれないけど、例えば周りの友達や本当に応援してくれる人の中に、自分が夢を話すことでいろんなアドバイスやきっかけを与えてくれる人がいたので、夢に近づいていきました。
――やっぱり自分で目標を立てたら日々の練習も変わってくるものですか?
そうですね。おっきな目標を立てても、自分の中だけで終わってしまうと、周りに見られないと頑張れないと思うので。言ったからには頑張らないと、という気持ちでやっていました。
――だんだん積み上がっていく実感はありましたか?
小学校のときはまったく。できるかどうか、近づいているかどうかもまったくわからず。ひとまず全力で頑張っているというのがずっと続いていました。現実的に「叶えられるかも」となったのは、大学入ってからです。それまではずっと叶えられるかもわからず、がむしゃらに頑張っていました。
――とはいえ、やっぱりうまくいかないとき、例えば今ならコロナ禍で外出できず、運動場が封鎖されるということもあると思います。小中高は特に多感な時期なので、そういう状況を含めて、夢に挫折したとき、諦めそうになったときに、どうやって回避や復活すればいいか具体的に教えてもらえますか?
最初は未来の自分を想像して、「今こういう選択肢を取ったらどうなるのか」とか「ここで諦めたら一年後の自分はどうなっているのか」とかを想像して、「じゃあ、こうしよう」と気持ちを切り替えることができると思います。
中高生は部活なので、チームメートも何人かいると思うので、一緒に努力して、巻き込んでやっていくのが大事です。強い選手、弱い選手たくさんいると思うので、人によってはチャンスがない子もたくさんいると思いますが、それでもチームがあるので一緒にがんばっていくところが一番大事です。
――チームや人の支えが大きいということですね。一方で、飯塚選手は過去に怪我をされたこともありますね。
結構、怪我はありましたね。
――周りはすごく練習しているのに、「自分だけ……」となる子も多いと思いますが、そういうとき、飯塚選手は実際どういうことをされていますか?
怪我したときは、しっかり胸を張ること。部活やっている子で、怪我をして試合出られなかったり、嫌なときは、元気が無く部活にきたりとか、部活行きたくないっていう気持ちになると思います。でも、みんなから沈んでいると思われないように、元気よくいることで、「自分は復帰できる」という気持ちに切り替えられます。試合で結果残したいのなら、そこで頑張っている人たちのところで、一緒に横でしゃべったりするなどでモチベーションは保つことができると思います。
――常に自分が成功している姿だとか、活躍している姿を描くことが大事なんですね。
そうですね。弱っているときは、強い人や頑張っている人の肩を借りるつもりで自分も頑張るっていう姿を想像するのが大事だと思います。
■失敗があっても諦めずにチャレンジを続けられるのは、スポーツで得た2つの力のおかげ
――ご自身がスポーツをやっていく中で宝物になったもの。人間関係や多くの人に出会えたなど、得たもので一番大きいものを教えてください。
もちろん人の出会いはたくさんあって、挙げだしたらキリがないくらい有難いご縁があるのですが、諦めない気持ちと、考える力、探究心。この2つがスポーツやっていて結果に問わず絶対得られるものだと思います。目標を立てて練習をがんばる中で、「こういう練習するのはどうなのかな」とか「こういうふうに腕振りすればどうなるのか」とか模索して考えますよね。「結果が出なかった、じゃあ次こうしよう」とか、失敗しても諦めずにやり続ける気持ちは、うまくいっている人もそうでない人、結果が出ない人でも得られるので、僕自身それが一番感じたことです。諦めない心と考える力、探究心。
――お話を聞いていると、常に階段を登って探求しようという思いが強いように感じるのですが、根本にあるものはなんですか?
なんでしょうね。僕の場合は走るのがすごく好きなので、それが自分の一番ベースになっていると思います。
――走っているときはどんな気分ですか?
楽しいですよ。走れるってほんと楽しいし、こういう状況だからこそ、練習で走れることの喜びを噛みしめるようになりました。なので、練習ができるのだったら全力でやりたいっていう気持ちになっています。
――子供たちにもそういうことを伝えていきたいですか?
そうですね。今でも練習できない子とか多いと思いますが、できることを見つける。「トラックで走れない」などできないことに目を向けるのでなく、「あ、ここでは走れる」とか、できることに目を向ければ前向きになれると思います。
――飯塚選手がコロナの時期に、夜、誰もいないところで階段のダッシュをしていたという記事を読んだのですが、近所で子供たちが周りの目を気にせず、できそうなおすすめのトレーニングはありますか?
まず、子供は体をしっかり動かすことが大事です。近所に公園がある子だったら、公園でいろいろ遊ぶ。いろんな遊具で遊ぶっていうのが大事です。走る練習であれば、片足で立つバランスの力が大事なので、片足で立ちながらテレビを見るとか、片足で跳んでみるとか、公園では片足で競争するとか、そういうバランスを取る練習っていうのは大事ですよ。
――いわゆる体幹ってやつですね。それはすぐできそうですね。
■最大のこだわりは感覚。自分の直感を信じて見つけた道具たちについて
――ご自身が競技で使用している道具を簡単に説明していただけますか?
僕らの道具は、まずはスパイクシューズやランニングシューズのシューズ類。あとは着るものですね。ユニホーム、ジャージ。この2つになります。
――では、一番大きな部分を占めるシューズで、こだわりポイントはありますか?例えば、新しいものを選ぶとき、など。
まずは履いた瞬間の感覚ですね。シューズに足を通して、ちょっと足踏みをします。最初の感覚が自分にとって良いのかどうかっていうのを大事にしています。僕らの場合はスピードを上げて走るので、ジョギングとか歩行だけだとわからない部分があります。なので、実際しっかり走って決めるっていうところにこだわりを持っています。
――感覚的なものだと思うのですが、どういう部分に差が出るんでしょうか?
足をついて、反発、地面からもらえる力がどれだけもらえるかというのと、足の裏と靴の密着度。シューズのアッパー部分との密着度。フィット感を走りながら動きの中で合っているのかどうか。あとは曲がり具合。どのぐらいで曲がるか。自分の曲がりたいところで一緒についてきてくれるとか、そういうところを見ます。
――スポーツをやっている方がシューズを選ぶときは、そういう点を注意して試してもらうといいんですね。
そうですね。でも、履いて「あ、なんとなくいいかも」と思うシューズも絶対ありますよ。それって結構正しいことが多いです。なので、最初は実際に動いてみて、「いいかも」という感覚はみんなも持っていると思うので、直感を一度信じてみてください。
――現在履かれているもので優れている点は何でしょうか。
僕は、MIZUNO WAVEシリーズはよく履きますが、一番はクッション性がしっかりあるということです。僕は体重があったり、ジャンプ動作をしたり、強い衝撃を足に加えるので、それでもしっかり反発して守ってくれるシューズ。地面が硬くてもトラックでもコンクリートでも芝生でも対応できるこのクッション性がすごくいいところです。それにより厚さがあるのですけど、履いてみるとそこまで重さも気にならず。軽さも感じるクッション性があり、しっかり軽さもあるのですごく走りやすいです。
また、走るトレーニングと、僕だとウエイトトレーニングとかしますが、そういう動作でも全然大丈夫です。横の動きに対してもしっかりホールドしてくれるので、しっかり動ける。いろんな練習に対して使える一足。学校で部活やっている子たちも、いろんなところでトレーニングや練習すると思うので、この一足あれば安心できます。
――着るものはどういう部分を気にしますか?
基本的には、ユニホームはしっかり腕を振れるもの、軽いものが一番いいですね。腕をしっかり振らないといけないので。
――軽いってやっぱり重要ですか?大きく差がでない気もしますが。
そうですね。ほんと少しの差ですが、自分が着ている方が軽いって思った方が気持ち的にいいです。また、肩が上がると走りによくないです。窮屈なものだと肩が前に出たり、力を使って腕を振っちゃったりします。なので、軽いものや肌触りがいいもので判断しています。
――道具にまつわるゲン担ぎはありますか。
特にはないです。これを履いてよかったというシューズを、毎回それに執着しないようしています。同じモデルのシューズでも、「こっちを履いた方がよかった」とあんまり作らないようにするこだわりはあります。
――自分の直感で選んだものを信じる?
そうですね。だからあえて変えて、自分の気持ちで「これじゃないと」というのを物によって作らないようにしています。だから同じモデルを持っておき、「勝ったら次はこっちで勝つ」というようにしています。
――では最後に、スポーツをしている子供たち、若い世代に応援メッセージをお願いします。
スポーツやっているみなさんには、いっしょに練習してくれる子がいると思います。お互い良い環境で練習することが一番大事なので、良いところを見つけて伝えて、良い雰囲気でやれることが一番大事です。そういう気持ちを持ってやるということ、どんなことがあっても諦めずに、やり続けることを頑張ってほしいと思います。そして、挑戦し続けること。そうすれば自分は結果問わず、考える力と探究心と前向きな気持ちが培われるので、楽しみながらやり続けてほしいと思います!
■SPECIAL MOVIE
飯塚翔太選手のインタビュー動画公開中(上の画像をタップするとYouTubeへ遷移します)
<プロフィール>
飯塚翔太(Shota Iizuka)
平成3年6月25日、静岡県生まれ。ミズノ所属。2010年世界ジュニア陸上競技選手権大会200mで優勝。男子日本選手による同大会での優勝は初めての快挙。平成22年度JOCスポーツ賞の新人賞を受賞。2012年ロンドンオリンピック 200m、4×100mR、2016年リオデジャネイロオリンピック200m、4×100mR日本代表。リオデジャネイロオリンピック男子4×100mリレーでは日本チーム第二走者を務め、アジア記録を更新する37秒60で2位となり、銀メダルを獲得した。
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