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other2021.03.19

「人生で起きる出来事はすべて受け入れられる」銀メダリスト・竹内智香がたどり着いた、後悔しないための生き方

人生は決断の連続です。特に結婚や出産といったライフイベントは、生きていく上で大きな影響をもたらします。2014年のソチ五輪で、スノーボード競技において日本人女性初となる銀メダルを獲得した竹内智香さん。竹内さんは2018年に開催された平昌五輪で5大会連続出場を果たした後、競技を続けるか、新しい道を歩むか、大きな人生の岐路に立たされます。悩んだ末に彼女が選んだ道、そしてたどり着いた、人生をより良く生きるための答えとは。



竹内智香(たけうち・ともか)のプロフィール

1998年の長野五輪に感動して、中学生の時にスノーボードを始める。

2002年、ソルトレークシティ五輪に初出場すると、14年のソチ五輪でスノーボード競技における日本人女性初となる銀メダルを獲得した。22年の北京五輪では、冬季で日本女子単独最多となる6大会連続出場を目指す。


女性アスリートにとってのライフイベント

日々、厳しいトレーニングを積み重ねているアスリートにとって、練習ができなくなることはキャリアに大きな影響を与えます。特に女性が妊娠、出産を経て再び競技の第一線に復帰することは簡単ではありません。竹内さんは競技を続行するか悩みぬいた末に、一つの決断をしました。


―アスリートに限らず、女性には“年齢の壁”があるとよく言われます。この問題について、どのように考えてきましたか?

人生において、30歳くらいを一つの区切りに考えている女性が多いのではと思っています。子どもを産むのがだいたい30歳前後だとすると、そのくらいの時期から結婚や出産について考え始めるからではないでしょうか。34歳で迎えた2018年の平昌オリンピックの時は、自分の中でもアスリートとしてというより、1人の女性として人生を考え、決断していました。


―2018年の平昌五輪が終わった後、競技を続けるか、出産に向けて準備するか悩んだとうかがっています。そして、最終的には「卵子凍結」という第3の選択をされました。この決断にいたるまでの経緯を教えてください。

もしも年齢のリミットがないのであれば、1年でも長く競技を続けていたいという思いがあります。一方で子どもを産み、育てたいという思いもある。男性は家族をもってプレーするトップ選手もたくさんいて、うらやましいなと思うこともありました。どうしたら両方を実現できるのだろうと考えた時、卵子凍結という方法を知りました。その選択をすることで両方手に入る可能性があると思い、100パーセントの保証はないけれどやると決めました。


―卵子凍結をされて、何か心境の変化はありましたか?

体調の変化などもあり、想像していたよりも実際は大変な作業でした。しかし、卵子を凍結するのは子どもをタイムカプセルに置いてくるような感覚で、人生の選択肢が広がるような、何とも言えない安心感がありました。時間に対するストレス、タイムリミットから解放されたことで、より競技に打ち込めるようになったと感じています。


女性が活躍できる社会をつくるには

男女格差を測る指標の一つとされる「ジェンダーキャップ指数」。2019年に発表されたデータで、日本は153か国中121位ととても低い結果が出ています。海外では男女の機会均等を定めたアメリカの「タイトルナイン」など、法律や社会システムでこれを解決する動きもあります。女性が輝くために、日本は変革を必要としている状況です。


―竹内さんも競技から離れていた時期があったわけですが、アスリートに限らず、女性が出産や育児を経て一線に復帰するのは大変なことだと思います。日本の現状をどう考えていますか?

男女平等を考えた時、海外にはスポーツや会社組織などにおいて、女性の参加率や構成比を法律で決めたりしているケースがあると思います。私の考えとしては、必ずしも女性の役員が増えていくことが大切なのではなく、ハンデがない対等な環境で仕事をして、最終的にフィフティフィフティになっていけばいいと思っています。職業によって男性が得意なものもあれば、女性が力を発揮しやすい役割もあると思うので。そして、アスリートにとって子どもを生むというのは、とても大きなライフイベントです。安心して出産や育児ができて、その後の競技復帰もできるよう、本人の努力はもちろん、周りのサポート体制が重要になってくると思います。


―男性と女性がフェアに評価されるために、どのような仕組みが有効でしょうか?

日本は、一人の人にかかる負担が大きいと思っています。プロジェクトなどでもリーダーに大きな負担がかかるので、ライフイベントに左右されやすい女性には任せられないとなってしまう。例えば、スウェーデンでは男性と女性が半年ずつ育休を取ったりするのですが、一人に頼りすぎない、サポートし合える仕組みをつくることができれば、自然と女性が生きやすくなると思います。また、フェアに考えられる経営者やそういった立場にいる人たちが増えていくこともポイントだと思います。


忘れかけていた大切な気持ち

これまでの競技人生で、大きな期待やプレッシャーを背負い、世界と戦い続けてきた竹内さん。第一線から退いて、子どもたちの育成などに携わっていた期間に、大切なことに気づいたと言います。ブレない心を持って、後悔せずに生きていくということは、アスリートに限らず誰もが求めるテーマです。


―競技の第一線を退いていた時、再び世界で戦おうと思ったきっかけはあったのですか?

子どものころからずっとメダルを目指してきて、気付いたら、スノーボードをすること自体の素晴らしさを忘れかけていました。平昌五輪が終わった後は苦しいことや辛いことの連続で、34歳という節目でもあり、そろそろ現役を退く時なのかなと考えていました。しかし、応援してくれる方たちが、まだまだ次を期待してくれているというのも感じました。一度、競技から離れてゆっくり自分と向き合う中で、雪山を楽しむ人たちと一緒にすべる機会がありました。子どもの頃のような気持ちでスノーボードを楽しんだ時に、雪山にいることがどれだけ素晴らしいことなのか、思い出すことができました。


―現役を続けるモチベーションはどこからくるのでしょう?

2018年の平昌オリンピックまでは、金メダルだけを目指してやっていました。2年半、競技の一線から離れて、パフォーマンスディレクターをやったり、子どもの育成にたずさわったりする中で、たくさんの世界を見ることができました。そこで感じたのが、人生は自分自身のものであって、誰かのためにあるのではないということです。もちろん、周囲に対していろいろな責任はあるけど、他人のためにがんばるのではない。第一に自分のために。そうすれば、周りの人たちにも自然に喜んでもらえると考えるようになりました。

自分の気持ちに素直になった今、昔のような緊張感やストレスはありません。雪上にいたい、スノーボードがしたい、という原点に戻れているからです。以前ならどん底に落ちて苦しんでいたような状況でも、いつか自分の時が来ると思えるようになりました。結果が出ない自分も受け入れられる余裕ができたので、失うものがない、怖いものがないという感覚です。体力や環境が許す限り、1年でも長くスノーボードを続けたいと思っています。


―竹内さんが一線への復帰を決断された時は、ワールドカップなどの大会が開催されるかどうかも分かりませんでした。試合がないかもしれないという状況で、どうしてそれを受け入れて復帰することができたのですか?

前提として、今の私はオリンピックやワールドカップがすべてとは思っていません。もちろん、すべてをかけてやっているので大会はあってほしい。しかし、変えられないこと、自分では決められないことについて、パワーは使いません。わずかでも変えることができる可能性があるのなら努力するけど、変えられないのなら受け入れる。今できることに集中して、その結果キャンセルになったとしても、やってきた過程を財産にすればいいのです。目指した先で夢が閉ざされたとしても、自分がやってきたことはなくなりません。朝起きてやりたいことをやっているか、居たい場所にいるか、会いたい人に会っているか、自分に問いかけてみるといいのではないでしょうか。そこに自信を持つことができれば、起きる出来事はすべて受け入れられると思います。


―アスリートとして女性として、この先どんな姿を目指していますか?

5年後、10年後のことは考えていません。試合でより良い結果を残して、仲間や応援してくれる人たちと喜びをわかちあいたい。そこにフォーカスしています。もう一つ、なぜ競技をやっているかというと、スノーボードの育成プロジェクトに携わっている中で、子どもたちに何かを伝える上で、自分が現役の選手として滑っているのは意味があると思っています。自分のパフォーマンスを通じて、しっかりと次の世代につなげていきたいのです。

日本ではまだまだサポートの力は弱いですが、いつか子どもたちに世界一のスノーボード環境を提供したいと思っています。よりよい環境を提供できるよう、もっとウィンタースポーツを楽しめるように活動していきたいです。


前へと進む、すべての女性たちへ

コロナ禍もあり、多くの人が不安や孤独を抱えながら生きています。日々起きる出来事を受け止めて、自分らしく生きていくためにはどうすればいいのか。最後に竹内さんからメッセージをもらいました。


―様々な責任やストレス、プレッシャーと闘っている人。女性として何かをあきらめないといけないのではないか、と感じている人。周りの目が気になって、自分らしく生きることができない人。そんな人たちが勇気をもって一歩を踏み出すためには、どうしたらいいでしょうか? 

コロナ禍というのもあって、みなさんそれぞれの状況が違う中で、自分の課題と向き合っていると思うので、安易にメッセージを残すことは難しいです。それでも私が言えるのは、苦しい時には苦しいという、喜怒哀楽の感情を出せる場所をつくっておくことが大切だということです。私の場合、競技のことで悩んだらこの人に電話するというように、一つひとつのテーマにおいて、助けを求める人たちが決まっています。また、真正面から問題に向き合うことも大切ですが、時には見て見ぬふりをしてもいいと思います。いろんな解決策を事前に考えておくと、楽に生きていけるのではないでしょうか。

「何かをあきらめないと…」と感じている人にアドバイスできるとしたら、生きていく中でほしいものが手に入ることの方が、少ないのかなということです。私の場合、どんなに努力しても金メダルは手に入らないかもしれないし、夢はかなわないかもしれません。しかし、簡単にあきらめることなくそれぞれの場面で最善だと思う選択をして、一歩ずつ進んでいくと、人生の中で後悔が少なくなると思いますし、私はそういう生き方をしたいです。

最後に、周りの目が気になってしまうという方へ。私は、世界中にはこれだけの人がいるのだから、無理に合わない人と一緒にいることはないと思っています。背伸びしたり、我慢したりして生きていく必要はないのです。一度しかない人生、もったいない。周りにどう思われるかではなく、生きたいように生きていくと、周りにも自分に合った人が増えていき、うまく生きていけると思います。周りの評価はあまり気にしないで、自分らしく生きていくことが大事ではないでしょうか。

 

ブランドムービー

「THE ONLY WAY IS THROUGH.  私たちらしく、前へ」

https://www.youtube.com/watch?v=RaNaEZh_sME


竹内智香 オフィシャルインスタグラム

https://www.instagram.com/tomoka_takeuchi/

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