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running2022.01.14

シューズ事情から見る箱根駅伝2022

■正月の風物詩 箱根駅伝は青山学院大学が圧勝で総合優勝!

新春の一大イベント、箱根駅伝は、下馬評通りの青山学院大学の圧勝、大会新記録、復路新記録と歴史的勝利を収めましたね。ブレーキ区間がなかったのも大きな勝因でしょう。

同じく下馬評が高かった駒澤大学は絶対的エース田澤廉選手を擁しながらも、なんとか辿り着くように襷を渡した鈴木芽吹選手も含めて故障者続出では3位がやっとなのも頷けます。

ちなみに、我が母校東海大学は、最終区の選手が低血糖になり区間19位。ブレーキで久々にシード権を失いました…。

そんな多くのドラマがあった今年の箱根駅伝、そんな熱戦を、別の角度で楽しむ「シューズ事情から見た箱根駅伝」、ご覧になった多くの方は、そんなところを見てはいなかったでしょうね。

でも、そこには、シューズに絡んだライバルとの関係とか、トレーニングの成果、メーカーとの関係とシューズといった多くのドラマがありましたのでご紹介していきましょう。


■脅威のナイキシェアは今年も健在も、他ブランドが健闘

足元に注目していなかった方でも、今回の箱根駅伝で多くのランナーが着用していたオレンジ色のナイキのシューズには目を奪われたのではないでしょうか?

ちなみにあのシューズは2種類あったのはご存知でしょうか?

いわゆる厚底レーシングシューズの代名詞「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」の2種類です。

同じカラーで選手の足元を埋め尽くす感じは見るものを圧倒させますよね。

昨年は210名の学生ランナーのうち、201名のランナー、95.7%がナイキを着用するという度肝を抜く使用率でしたが、今年は実は154名と少し減少しました。

しかし、実際、今年も73.3%のランナーが着用したわけですからね、まだまだ圧倒して画面を独占していたことは間違いありませんね。

なんでそうなったのか、よく聞かれるのですが、それには大きな理由があります。シューズの機能性とライバルの存在がポイントです。


■ 2017年にはじまったナイキ伝説、その機能性が圧倒 

E・キプチョゲ選手の公認世界最高記録も、未公認サブ2の記録のそれらのシューズで作られたわけです、まずは有無も言わせない結果に証明される、圧倒的な機能性にその理由があります。

つまり、結果が出る機能性があるシューズということです。

宇宙船のソファーの中綿にも使われている反発弾性の強い、超軽量な素材「ペバックス」で構成されたミッドソールと、カーボンファイバー製のプレートが作り出す構造的な強いガイドとそれらのバウンドで、ランナーの筋活動量を減らし、結果タイムアップさせる、まさに新しいスタイルのランナーへの助力感なんですよね。

まさに、多くのランナーが履いてみてタイムアップの効果が実際にあるから履いた、ということをまずあげるべきですね。

そして、昨年時点では、他のブランドがその機能性に追いついていなかったことも確かでした。


■ニュースタンダード化したヴェイパーフライ

また、ライバルとの関係性も、多くのランナーが昨年使用した理由の一つ。

ライバルがこのシューズで成績をあげれば当然ですが、自分も履いてみたい、という気持ちになるでしょう。でも、他のライバルも次々に好記録を出せば、それは偶然ではなくて、いよいよもって“履かなければならない“という強い気持ちになったことでしょう。

箱根駅伝は、トップの選手を210番目の選手が憧れるような籠鳥の世界です、いろんなパワーバランスが絶妙に働いたその結果とも言えるでしょうね。

しかし、ちゃんと指摘しておきたいのは、今回減ったナイキのシェアのうち、アルファフライが半減したのに対して、ヴェイパーフライの数はほぼ横ばいで、ほとんど変わっていないことです。

今大会の区間1~3位を獲得した選手のシューズも昨年と変わらず、ナイキが80%強を独占していることも含めて、ヴェイパーフライはハレの日のシューズのニュースタンダートとして定着したことは間違いなさそうです。


■アディダスとアシックスが伸長

結局、ナイキが減った分は、ほぼ昨年のアルファフライの分です。今回、その減った分は、丸々、アディダスとアシックスの2社の伸長に単純に寄与しました。

アディダスは4名のみ、アシックスに至っては着用者ゼロと、両ブランドは昨年、辛酸を舐めることになりました。それが、今大会では、それぞれ24名、11.4%、28名、13.3%と回復したわけですね。

それにも理由があります。

基本的には、トレーニングで使ってみて、その機能性に満足したランナーが少ならからずいたということだと思います。

同時に、ブランドの積極的なアプローチもあって、両ブランドはシェアを伸ばしたのだと思います。

例えば、アシックスはプロトタイプ(発売する前の商品)を配る作戦に出ました。

実はアシックスのあの赤いシューズ、それも目に止まった方もいらしたと思いますが、2種類ありました。「アシックス メタスピードスカイ」とプロトタイプです。実は24足中、12足がプロトタイプでした。


■日本人ランナーのアシックス回帰も

すでに福岡国際マラソン、元日のニューイヤーでも着用している多くの選手の活躍が目立っていたので箱根駅伝でもプロトタイプを履く選手がいるのではと予想していました。

実際に使ってみて良かったから使っているのでしょう。

あと、やはり、機能的に満足であれば、日本人はアシックスに回帰する、その流れは必然で安易に予想できます。慣れ親しんだジャパニーズブランドを履く、履きたいと思う選手がいたって不思議ではないですよね。

また、昨年、特に下位、復路のメンバーのヴェイパーフライ頼みの傾向が強かったことは特筆できます。去年結局、14校がオールナイキ着用だったのですが、今年は往路・復路を通じてオールナイキ着用の大学はいませんでした。

その中身をもっと見ると、往路より復路の選手の方がナイキの使用率が高かった。往路は3校、復路全区間ナイキのチームは5校に増えました。その傾向は実は昨年も同じです。

しかし、昨年オールナイキだった山梨学院大学や専修大学にアシックス着用者が増えました。日本体育大学ではアディダス着用者が半分になりました。

そこに今年の傾向が見てとれます。


■ライバルと差をつけるために選ぶ厚底レーシング

結局、ワールドアスレチックスのルールを変更させるぐらいの圧力を持ったナイキのヴェイパーフライ、日本でもライバルと同列線上に並ぶために、一斉に同じシューズになったわけですが、物事はまた多くなりすぎると必ずそのより戻しがあるものですよね。

結局、ライバルに勝つためにはトレーニングはもちろんですが、同じことをしていても難しいわけです。

ナイキ以外を選んだランナー、すべての選手がうまくいったわけではありません。しかし、アマチュアの大学生らしい純粋な好奇心は、少なくとも、他のランナーと違うことをするという大きな一歩を今回踏み出したわけですね。

プーマを履いた明治大学の加藤選手、ミズノとの関係で真っ白なプロトタイプを履いて走った帝京大の3区遠藤選手、創価大の4区の嶋津選手たちにはそんな気概も感じます。

シューズブランドも名門校のような“レッドオーシャン“の選手に着用してもらうことを考えるより、ライバルと差をつけたいという気概を持った下位チームや関係性の深い選手をサポートすることで、選手とブランドがウィンウィンになったと言えるでしょう。

華やかのライバル校の栄光の影にこんなドラマがあったんですね。


■次の展開を見据えた商品展開のアディダス

区間1~3位を独占したナイキシューズにあって、アディダス着用のランナーが今回4名入り、その牙城に食い込み、存在感をアピールしました。

そして、あの鮮やかのブルーカラーのアディダスも実はまたまた2種類あったのをご存知ですか?「アディゼロ アディオス プロ 2」と12月に発売されたばかりの「アディゼロ タクミ セン 8」です。

特にタクミセン8は、5Kや10Kなどのショートディスタンスで力を発揮しやすいように作られた、まさに厚底レーシングと薄底レーシングの中間、ネオレーシングフラット(新薄底)と言えるシューズで、5区の帝京大学の細谷選手の区間賞、9区の國學院大学の平林選手の区間2位をアシストしました。

このシューズは、9月に開催されたアディダスの自前公認レース『Adizero Road To Records』で女子の5Kロード世界最高記録を引っさげてのリリーズでしたが、これはもしかすると2022年のレースデイシューズの新スタンダードになる可能性があります。

箱根駅伝のディスタンスは20K強。かつては薄底レーシングの牙城でした。2022年中にはナイキも、ニューバランスも、このカテゴリーのレーシングを発売してくる予定なんですよね。

今後は、このネオレーシングフラット(新薄底)にも注目です。


■ワールドマラソンメジャーズでもすでに変化の兆しが

2021年のワールドマラソンメジャーズ6大大会、ボストン・シカゴ・ニューヨーク・ロンドン・ベルリン(東京は2021年開催されず)までのナイキの表彰台のシェアは、ピークの2018年には63.8%と6割強あったものが、46.6%。アディダスが40%とすでに肉薄しています。アシックスも10%いるような状況です。

ナイキ厚底フィーバーでも日本ではそのタイミングは遅れました。伝統的にシューズに自分だけのフィット感を望む選手が多く、レースデイシューズへの機能性へのこだわりは少し違いました。

そこに有無も言わせず使えば分かる、速く走れるロジックのあるシューズ、結果が出るシューズが現れたわけですから、選手のマインドもここ数年で変化しました。

既製品、海外ブランドのナイキが、こんなに独占するのも、商品力そのものだったと言っていいでしょう。


■これからもっと面白くなる箱根駅伝シューズ事情

それが、例えば、昨年末の高校駅伝、富士山駅伝を見ているとそこにも変化を感じます。

若い選手の感度の良さは確実に上がっていますね。発売が12月のシューズを12月の同月に履いている女子選手もいましたし、「アディゼロ アディオス プロ 2」や「アシックス メタスピードスカイ」を履く選手なんかは、世界的な傾向からすると当たり前な選択と言っていいわけですからね。

富士山駅伝の1区では、ナイキ、アディダス、アシックスの他に、ニューバランス、サッカニー、ブルックス、ホカオネオネといった箱根駅伝ではお目にかかれないブランドを目にできました。

そんな流れの一つが今回の箱根駅伝でのナイキシューズ着用シェア減少かなと感じていまして、それは、とても自然な揺り戻し現象だと思います。

高校駅伝で活躍した学生が関東の大学に入学してくる来年には、箱根駅伝でも更なるシューズ事情の変化があるのかなと個人的には思っていますよ。

しかし、箱根駅伝が終わった瞬間から箱根ロスになりますね、来年が待ち遠しい限りです。


※記事内の数値に関してはライター調べ。

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