シューフィッターによるNike ZoomX Invincible Run Flyknit 3(ナイキ ズームX インヴィンシブル ラン フライニット 3)着用レビュー
■2023年ナイキに新モデルに注目
2017年にNike ZoomXフォームを搭載したVaporflyシリーズがセンセーショナルにデビュー、その技術力なアドバンテージから、それから数年はシーンを圧倒し続けたのは記憶に新しいところ。
ワールドマラソンメジャーズで表彰台を独占するようなアスリートの圧倒的活躍、東京五輪や世界陸上では、一部の他ブランドのアスリートまでナイキ製スパイクシューズを履いて出場するなどニュースに事欠かきませんでしたよね。
そんな先見の明と圧倒的な技術革新でシーンをリードし続けたナイキでしたが、2021-2022のシーズンは、一服感あり、もちろん他社の頑張りもあり、やや静かな印象は否めなかったです。
でも、2023はナイキが元気です、今年はナイキの年になります。
定番エア ズーム ペガサス 39はついに40代目を迎えますし、厚底レーシングの代名詞、Vaporfly Next%は3代目になるなど、話題のアップデイトが控えていてワクワクする1年になりそうです。
そんな中、今回発売されたのが、“履けばわかる“キャッチフレーズで登場した、こちらも注目のモデル、Nike ZoomX Invincible Run Flyknit 3(ナイキ ズームX インヴィンシブル ラン フライニット 3)です。
■3代目、より確かなデイリートレーナーモデルに
1代目から、履けば分かる、ほんと分かりやすい機能性を搭載したモデルでした。ブランドのレビューなどでも、ヴァージョンワンを溺愛するランナーもいるようですね。
なんだかついつい履きたくなる中毒性がある感触のシューズ
スーパーシューズのクッション感を誰もが体験できるシューズ
まあ、このシューズは、そんなナイキ流の遊び心、ファン要素の強いシューズだとずっと思っていました。
でも今回アップデイトで、このインヴィンシブルの存在意義がはっきりした気がしています。これはナイキ流のマックスクッションスタイルへの解ですね。
ナイキがやろうとしているのは、ファン要素はもちろん、でもファン要素だけではない、まさに鉄板のマックスクッションモデルの構築だったと感じています。
ナイキと言えば、エアマックスのような、AIRというコア機能が入ったマックスクッションスタイルがあり、これは今でも親しまれるモデルですが、時代を経てクラシック化しています。
そこで、ちょっとパンチが効いたナイキの新マックスクッションスタイルの代表格として、白羽の矢立ったのがインヴィンシブル 3なんだって感じているんですよね。
*マックスクッションシューズ:デイリートレーナーカテゴリー内でのクッショニングに特徴あるシューズの総称
■新マックスクッションスタイル、インヴィンシブル 3
ナイキではエア ズーム ペガサスが39代 、エア ズーム ボメロは16代と定番化していますが、他ブランドにしても、昨今、誰でも履ける1足目のシューズ、デイリートレーナーモデルも細分化しています。
ジョグからテンポアップぐらいまで使えるDO IT ALLスタイルもあれば、トレンドのクッション性と安定感に特化したマックスクッションスタイルもあり、そんな潮流スタイルこそ、インヴィンシブル 3のポジショニングなわけですよね。
そんなマックスクッションスタイルは、圧倒的な機能性のシューズである必要があります。クッション性を考えてソールを厚く、安定感を考えて接地面積を広げて、耐久性を考えてラバーをたくさん配置するなど機能性を詰め込めば当然重くなります。
でも、単純に軽くてクッションがある素材Pebaxポリマーを使ったNike ZoomXフォームを使えば、機能性の引き算をする必要がないというわけです。
ここがナイキの新マックスクッションスタイルは確立のポイントですね。
■スーパーシューズと素材、Pebaxを使用
Vaporfly、Alphaflyといった同社“スーパーシューズ“と同じミッドソール素材、ZoomXは、史上最強の反発弾性素材Pebaxエラストマーで生成されたミッドソールです。
陸上スパイクのプレートなど、実は硬質のプラスティックとしては一般的な素材だったものを発泡させてフォーム状として使うという新しい使い方が、ナイキの先見の明だったわけですね。
ZoomXフォーム使っているからといって、当然“ヴェイパーフライのようで、ヴェイパーフライではない“です。
しかも、スーパーシューズのフォーム素材だから耐久性はないというのもそれら用に高発泡させたときの話です。Pebaxは分子レベルでは史上最強の素材なので生成の仕方でそれは変わるんですよね。
フワフワに極限まで軽量にしたものもあれば、もっと質感があるものにもできると言うわけです。
Vaporflyのように、あのポップなバウンド感、クッション性が良さは同じ感じでも、素材の配合・発泡などチューニングを変えて、安心して履けるオーソドックスなデイリートレーナー、マックスクッションモデルに仕上がっているのが、インヴィンシブル 3なんですね。
■素材の軽量感を背景に、機能性がプラスされた
とにかく、シューズのキモであるPebax製の素材によってより厚く、より軽くミッドソールを作り上げることができたわけです。
ですから、軽量化できた分、ソールユニット、シューズ幅面を単純に広げて、クッション性だけでなく、安定感を作り出しています。前回モデルよりも確実に立っているだけでも安定感が変わりました。
そして、前回同様にヒールクリップが下部をソールと連動して踵周りをフォローしているのも安定感に大きなインパクトを与えています。
このヒールリップは、今回アッパー下部に入り込んだデザインになり、見た目には目立たないのですが、クリップの長さは中足部に付近にまで伸びたこともあり、しっかり効く、そんな印象です。
また、アウトソールは、しっかりと全面ラバー仕様になっていて、耐久性は前回同様良さそうです。こういった耐久性の要でありながら、通常重いので引き算される対象のアウトソールも、ミッドソール素材が超軽量なので重点配置できますよね。
とは言え、ところどころはメッシュにして軽量化も計っていますが、ソールのトラクションスタイルも、ナイキ伝統のワッフルスタイル。ある程度路面環境を選ばず、グリップもいいシューズでもありますね。
■ナイキの定番フライニットアッパー
ZoomXフルレングスのソフトフィーリング、ワッフルソールのグリップに続いて、このフライニットアッパーも良いですね。フィット感の良さとそのデザイン性はニットならではでもあります。
ナイキがランニングシューズ業界で広めたこのニットアッパーは、今ではどのブランドも使う新技術。
シームレス化の象徴のようなアッパーのニットは、縫い目が少なくランナーが感じる足あたりとかフィット感のメリットがあり、またメーカー側としては縫わないことで人件費が抑えられて生産プロセスにおけるコストカットのメリットがあり、まさにウィンウィンの技術進化なんです。
また、ニットアッパーはメッシュなど今までの素材と比べて、糸を編み込んで作った表面になることもあり、同じカラーでもちょっと落ち着いたカラーリングで、デザイン的も可能性を感じます。
■ロングランに履きたい、そんなモデル。
クッション性と安定感もガイドもある40mmスタックハイトのマックススタックハイトのモデルです。9mmドロップのジオメトリーは、前回より前方方向へのガイドを感じて、素材のバウンドも相まって、エネルギッシュなライド感。前方方向に力伝わるような推進力をもっともっと感じるシューズになりました。
「このフォームによって、一歩一歩が喜びになると思うんです。 皆さんにランを気楽に楽しんでもらえるように、この柔らかいフォームをデザインし、調整しました」とナイキ シニアフットウェアデザイナーのチャールズ・ハンは次のように語るように、また履きたくなるクッション性とライド感です。
ですから、オールランナーウエルカムなデイリートレーナーモデルがこのインヴィンシブル 3といって良いでしょう。
ただ、ジョグやウォーミングアップならペガサス、ボメロ、LSDのようなロングランならインヴィンシブル 3かなという棲み分けはある程度ありますね。
片足、約282g (27cm)の重量は決して、超軽量ではありません。繰り返しになりますが、フォームを軽くて、機能性マックスにした分重量的には普通です。
¥22,000(税込)のプライスだって決してリーズナブルとは言えませんよね。
でもこのマックスの機能性が必要なランナーならどうですか?
フルマラソンを完走したい
耐久性があって、Vaporflyみたいなバウンドを楽しみたい
ロングランで安心して履けるシューズが欲しい
そんなランナーにとってはむしろ費用対効果を存分に活躍してくれる、そして楽しい、そんなシューズだと思いますよ。
<著者プロフィール>
ランニングシューズフィッティングアドバイザー
藤原岳久( FS☆RUNNING(旧 藤原商会)代表)
日本フットウエア技術協会理事
JAFTスポーツシューフィッターBasic/Advance/Master講座講師
足と靴の健康協議会シューフィッター保持
・ハーフ1時間9分52秒(1993)
・フルマラソン2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン)
・富士登山競走5合目の部 準優勝(2005)