涌井秀章(千葉ロッテマリーンズ)プロ野球人として想うこと「誰よりも練習をやることが大切」
プロ野球選手として最多勝利投手、ゴールデングラブ賞、沢村賞などを受賞し、オリンピックやWBCでも大活躍をしてきた涌井秀章選手(32歳)。横浜高校時代に松坂大輔の再来と呼ばれ、数々の偉業を成し遂げてきた涌井選手は、現在、自身の野球についてどのように考えているのだろうか?2018年シーズン終了後、単独インタビューに応じていただいた。
――野球を始めたきっかけを教えてもらえますか?
涌井:小学1年生の時からソフトボールを始めました。幼馴染の兄がソフトボールクラブに入っていて、2人で見に行った初日にユニフォームをもらいました。ソフトボールを楽しくて遊んでいる感覚でしたね。
2年生の終わり頃に、チームでレギュラーとなりました。6年生までソフトボールを続け、タイトルを沢山獲っていました。
――低学年で試合に出場していたとは、物凄いですね。中学生になってから野球を始めたのですか?
涌井:そうですね。中学では軟式野球をやろうとしていましたが、スカウトされたり親の意向もあり、硬式野球のシニアチームに入りました。1、2年生の時に練習を頑張ると色々なものが身につき、3年生になって活躍することができましたね。
――成長期ですし、食事をしっかり摂っていましたか?
涌井:小さい頃は、できるだけ食べないようにしていました。
――え?どういうことですか?
涌井:食べるのが苦痛だったんです(笑)。好きなものを食べるくらいで、摂るものは限られていました。
――そうだったのですね。好きな食べ物は何でしたか?
涌井:麺類と餅が好きでしたね。野菜はトマトとほうれん草を食べ、魚は鮭となります。
――今でも食べるのは苦手ですか?
涌井:今はきちんと食べていますよ(笑)。
――そうですよね(笑)。それから野球の名門高へ進学しましたね。野球部の練習は厳しかったですか?
涌井:色々な高校からオファーがある中で、横浜高校を選んで進学しました。練習は厳しかったですが、何よりも寮生活が大変でしたね。あまり食べることが好きではないのに練習を続けると、入学後の1ヶ月で体重が12kg程減ってしまいました。
――それは、かなり大変な思いをしたのですね。高校時代のいつ、プロ野球への道を考えましたか?
涌井:1、2年生の時にプロ野球選手になりたいと思っていましたが、現実味がなく遠い世界だと思っていました。3年生の時に良い成績を出すと、「プロ野球選手になれるかもしれない」と思うようになりましたね。野球部の監督に進路相談をすると、「お前はプロしかないだろ」と言われたので、プロ野球への気持ちがより強くなりましたね。
――西武ライオンズ(現 埼玉西武ライオンズ)への入団は、いつ決まりましたか?
涌井:実は西武から話がなかったので、他の球団に行くと思っていました。ですが、ドラフト前日夜に西武が自分を1位で獲得することが分かり、かなりビックリしましたね(笑)。
西武には高校の先輩である松坂大輔さんがいたので、心の支えとなってくれました。お陰様で、チームにすぐ馴染むことができたと思います。
――松坂大輔選手は、どのような存在となりますか?
涌井:横浜高校に入ってから松坂さんを知り、高校時代の映像を見た時に「凄いな!」と思いました。
松坂さんは雲の上のような存在で、西武に入ってから尚更それが強くなりましたね。松坂さんを目指す・・・というか、本当の憧れなので・・・、「松坂さんになりたい」と簡単には言うことができないですよね。
――グローブへのこだわりはありますか?
涌井:昔からグローブを小さめに作っていて、野手用に近いものとなっています。投げるだけでなく守備も重視しているので、小さくて素早く反応できるものが良いですね。
――スパイクについてはどうですか?
涌井:できるだけ軽くて足に負担がかからないものにしています。
スパイクは試合でのみ使用していて、1年に5足位履いていますね。
――これまで、かなり走りこんできましたか?
涌井:高校時代に1番走っていたと思います。気づいたら走っている感じでした。夏に、1周400mのグランドを50周走ったことがありました。距離にすると、20km位になりますね。他に、100mダッシュを100本以上はやっていました。プロではそこまで走らないので、練習でキツイとは思いません。
――フルマラソンを走れそうですね。
涌井:絶対にないですね(笑)。
――ハーフなら走れるんじゃないですか?
涌井:ハーフもないですね(笑)。
――かなり走れるのではないかと思います(笑)。走り込みは、野球においてどれだけ重要なものとなりますか?
涌井:野球の練習の基本だと思っています。走ることによって怪我を防いで体のバランスも整いますから。
友人のメジャーリーガーのダルビッシュは、「ランニングはそんなに必要ない」と言っていますけどね(笑)。
――涌井選手は怪我に強い印象があります。
涌井:痛くても野球をできますからね(笑)。休んでしまうと、メンバーから外されてしまいますから。我慢すればできると思います(笑)。
――体のケアを徹底していますか?
涌井:基本的に半身浴を毎日行っています。1日に3、4回は入り、入浴中に本などを読んでいますね。
ストレッチは動く前にやり、ピッチング後にはアイシングをしています。
――睡眠時間はどれくらいですか?
涌井:7時間くらいですね。8時間寝てしまうと、体が辛くなります。
――試合前、いつ頃から集中していますか?
涌井:試合開始30分前まで、普段通りチームの皆と話しています。それからユニフォームに着替えてブルペンに入ると、集中しています。長時間入れ込みすぎても、疲れてしまいますからね。
――ピッチャーとして大切にしていることはありますか?
涌井:表情を変えない。一喜一憂している姿を見せないことですね。
――対戦すると、燃えるバッターはいますか?
涌井:何人かいます。プロ2年目の開幕2戦目で清原和博さん(オリックス・バッファローズ)と対戦した時に、「真っ直ぐだけで抑えたい」と思いました。
今ですと、中村剛也さん(埼玉西武ライオンズ)、柳田悠岐選手(福岡フトバンクホークス)、中田翔選手(北海道日本ハムファイターズ)を真っ直ぐで抑えたくなり、自然とより集中しますね。
――忘れられない1球はありますか?
涌井:2011年のCS(クライマックスシリーズ)の最後に長谷川勇也さん(福岡ソフトバンクホークス)に打たれた球となりますね。その試合で負けてしまいましたからね。
――その1球が野球人生に影響を与えましたか?
涌井:別にそうでもないですね(笑)。印象には残っているということになります。
――ピッチングフォームは年々変化してきていますか?
涌井:若い時に比べると、変わってきていますね。肘の高さとボールを離す位置は変わりました。若い頃のフォームに近づきたいですが、今のベストの状態を考えながら投げています。
――涌井選手は大舞台に強い印象があります。試合でプレッシャーを感じますか?
涌井:どの試合でもプレッシャーを感じないと駄目なんですよね。オリンピックやWBCでも、マウンドに上がると緊張しています。なぜ強いかは分からないですね。
――野球を通じて世の中に伝えたいことはありますか?
涌井:野球をやってきて友達ができたことです。野球は遊びの延長で、仕事になったわけでもありますけど。友達作りの手段ですかね。
――プロ野球選手を目指す子供達へ、メッセージをお願いします。
涌井:小学生と中学生の時は、野球を楽しんでほしいですね。高校生になると自分の道が見えてくると思うので、そこに向かっていけば成長できると思います。練習はやらされるより、自分からやる方が身になります。とにかく、誰よりも練習をやることが大切だと思います。
――来シーズンへの意気込みをお願いします。
涌井:今年の前半は良かったんですが、個人としてもチームとしても昨年とあまり変わらない成績でしたね。
チーム力が上がっているので、来年は面白いことになりそうです。ピッチャー陣でチームを引っ張っていけたら良いと思います。
――今後の展望についてもお願いします。
前回のオリンピックに出場し、東京オリンピックにも出たいと思っています。まだまだできると思っているので、日本代表チームに選ばれるように結果を残していきたいですね。
――最後に涌井選手にとって、野球とは何になりますか?
涌井:野球とは(笑)・・・。人生ではないですね。何だろ?難しいところですね。
野球しかやってきてないので、まだ途中ですし分からないですね。
将来、監督や美容師をやってみたいとは思っています。
――自分の髪を切ってみたいのですか?
涌井:それは、ないですね(笑)。