大人の社会見学「スノーピーク」編 第2回「感動品質が生まれる背景(2)」
「Snow Peak(スノーピーク)」
一度でもキャンプを経験したことがある人なら、その名前を聞かないはずはないでしょう。
1958年、金属加工で世界的に名の知れた新潟県・燕三条で生まれた、日本を代表するアウトドアブランドです。
第1回の記事は
こちら
全4回でお送りするスノーピークのすべて。
第2回は引き続き、スノーピークを父である創業者から引き継ぎ、日本を代表するアウトドアブランドに築き上げた現代表取締役社長、山井太氏のご息女であり、Snow Peak Apparelの代表デザイナー兼2018年2月からは執行役員企画開発本部長(※)としてクリエイティブ部門を統括している、山井梨沙さんにお話を伺いました。
スノーピークにいちばん近いところでスノーピークを見て、感じてきた山井さんだからこそ知っているスノーピークの真髄を、東京の情報発信拠点であるSnow Peak Tokyo HQ3からお届けします。
(※)役職は取材時のもの。2019年1月1日より代表取締役副社長CDO
――ところでスノーピークの感動品質とは、ユーザーの期待以上の製品を作ることはもちろん、地元の生産技術を製品に落とし込み、地域経済の活性化にまでつなげている部分も含まれている気がします。
そうですね。本当に幸運なことに、地元の燕三条が金物加工業で世界でもトップクラスの生産ができる地域だということも大きかったと思います。先代が「金属加工ができるならその技術を使ってアウトドア用品を作りたい」と、スノーピークにしかない発想で生み出し、結果、世界トップクラスの品質のアウトドア用品が燕三条で生まれた。職人さんたちもそれまで自分たちの技術でアウトドア用品を作ったことなどなくて、いまだに「できる、できない」でうちの開発スタッフと喧嘩になっていたりするんですけれど(笑)。
それでも「しょうがねえや」の一言で、深いお付き合いをずっと続けてくださっているのがありがたいですね。
普通の企業だったらこの規模になってくると、実際の製造現場とは離れてしまうと思うのですが、こんな歴史がありますから、スノーピークの場合は今でも地元の職人さんにすべてダイレクトなんです。例えばグッドデザイン賞を受賞したら直接持って行って「おかげさまでグッドデザイン賞をいただきました!」とか、「こういうお客様が使っています」だとか、普段からコミュニケーションを密に取っているからすぐに伝えられる。
10月には、アパレルの素材を作っていただいている染めの工場さんと生地を織る機屋さんに、ユーザーさんをお連れして工場見学ツアーを行いました。それまでは職人さんたちも普段ブランドと関わることがまずなくて、ただでさえ私が工場に足を運んでやりとりするのも、すごくありがたいことだとおっしゃってくれていたんですが、「実際に着てくれているお客様と自分たちが、まさか話せる機会があるなんて思ってもみなかった」とすごく喜んでくださったんです。
お客様も、実際自分の着ている服がどういう人たちによってどんな工程を経て作られているのかを実際に見て体験したことで、よりスノーピークを好きになって笑顔で帰ってくださいました。自分の服に今まで以上に愛おしさが増したというか。
――それはSnow Peak Apparelの「LOCAL WEAR TOURISM」の活動ですね。
アパレル事業をスノーピークの一事業として捉えるのではなく、生産者・メーカー・ユーザーのみんなを見える化するといいますか、知ることができるこのプロジェクトは本当に素晴らしいと思います。
うちはかなり変わった企業だと思っていて(笑)。一般的なアウトドアマーケットから見たら、かなりマイノリティなんですよ。それでもやっぱり、我々も正しいと思ったことを正しいと思ってやっているので、マイノリティなりの伝え方をしないといけない。ただマーケティングを行っていても、知ってもらえない、深い部分がスノーピークの要素には多いので、我々の想いを知ってもらうためにお客様を現場までお連れして、直接伝えていこうという活動ですね。
――御社がものづくりにこだわって高品質な製品を作ることも、永久保証+感動保証で自分たちの生み出した製品に責任を持つことも、最終的にスノーピークを通してアウトドアをする人々の笑顔が見たいから、というのが見えてきます。
基本的にスタッフは、キャンプ・アウトドアが好きでないとスノーピークに入社できませんし、面接のときに「人が好きですか?」という質問もさせていただくんですね。
スノーピークの製品は決して安いモノではないですし、納得して使ってもらって、フィールドでキャンプというものを楽しんでいただかないとスノーピーク製品は伝わらない。
自然志向のライフスタイルを持つことによってお客様に幸せになっていただくことが、我々の使命だと思っています。
すごくベーシックなことなんですけれど、その対価が売り上げになるといいますか、存在理由なんですね。お客様に幸せになってもらって、スノーピークを好きになってもらわないと、我々も本気でプロダクトを作っている、サービスを提供している側としての存在意義がないので、どうせスノーピーク製品を使ってもらうんだったら、とことん幸せになってもらおう、と。
開発も製造も小売も全てのスタッフが同じ目線、同じ気持ちで仕事をしています。
――それが、スノーピークを愛するユーザーさんに伝わり、ここまで広がったと。
一流ブランドのプロダクトって目に見えて美しいですよね。スノーピークも同じで、妥協して買うキャンプ用品やアパレルではなく、洗練された、モノとして美しいカッコイイものを作りたいよね、というところから始まっていて。
それに共感してくださる方たちもやっぱり我々と同じ気持ちを持ってくださっていたんですよ。納得して、どうせならいい品質でカッコイイものを使いたいという。そういう人たちとのコミュニティによって、すごくあたたかい、人間味のあるブランドに成長していったんです。
会社の規模も大きくなり、アウトドアの裾野を広げていくためにも新しいお客様の開拓を、ということで低価格帯の新定番エントリーモデル「エントリーパックTT」を2018年春から販売し始めました。
テントとタープがセットで49,800円です。エントリーモデルではありますが、デザインにも素材にもすごくこだわっていますし、製造や流通の工夫をすることによって単価を落とすことも実現できたのは大きな成果だと思っています。
――2018年1月からは東京で新拠点であるSnow Peak Tokyo HQ3が稼働し、キャンプフィールドの中に建つ新潟のHeadquarters(HQ)、そして物流拠点でもあるOperation Core HQ2との連携で、スノーピークがさらに成長していく土台ができましたね。
企画開発、製造、小売、キャンプフィールド、アフターサービスと、製品・サービスのすべてを見ることができるHQを2011年に建設しました。そこで実際に「スノーピークってこういう企業なんだ」と、ものづくりをして、キャンプをして、直して、という一連の流れを知ってもらえるようになってから、よりスノーピークを好きになってくれる方、深く理解してくれる方が増えてきたんですね。
一貫した、見える化した施設ができてから会社の規模も大きくなったので、2017年にバックオフィスと製造とアフターサービスと物流センターが一緒になったオペレーションコア(Operation Core HQ2)が新設され、2018年、東京で営業と企画と新規事業を行うHQ3が稼働し始めました。アーバンアウトドア、地方創生、ビジネスソリューションズなどを含め、主に新規事業と企画の機能を果たしています。
なぜ東京にオフィスがあるのかというと、我々のお客様というのは圧倒的に都市生活でストレスを感じている方が多くいらっしゃって、実際にお客様がどういう生活をしているのかを知ることから始めていかないとという想いから、立ち上げに至りました。
都市で生活しながら週末はキャンプ・アウトドアを楽しむ人。彼らが平日、都市生活で感じていることを開発のスタッフにもシェアして、ユーザー目線の発想を持ち、こういう時にはこういう生活の中でこういうカテゴリのものが必要なんじゃないだろうかという視点で考える。そしてフィールドに特化したものづくりのもとで製品開発がされて、製造して、スムーズな形で出荷して、というすべてが3拠点のHQで賄えるようになった、というところですね。
なぜスノーピークが多くの人々の心を掴み、成長を続けているのか。山井さんの言葉のひとつひとつからその理由が伝わってくるのを感じることができました。
第3回は、新潟県にあるSnow Peak Headquartersに訪問し、感動品質を生み出す現場に潜入したいと思います!どうぞお楽しみに!
第3回「感動品質を生みだす景色」
につづく。
■プロフィール
株式会社スノーピーク
代表取締役副社長 CDO
山井 梨沙
新潟県出身。スノーピーク創業者の山井幸雄氏を祖父に、現代表取締役社長である山井太氏を父に持つ第三世代。生まれたときからスノーピークが身近にあり、職場が遊び場だった幼少時代の頃から「本当に正しいと思ったことを正しいかたちで実行する」という、スノーピークの本質を見て育つ。
2014年からSnow Peak Apparelを立ち上げ、「HOME⇄TENT」をコンセプトに日常とアウトドアとの境界線のない「生き方にいちばん似合う服」を発信し続けている。
また、2018年からは新たに「LOCAL WEAR」プロジェクトを立ち上げ、日本各地の魅力的な着る文化に光をあて、今を生きる人々につなぎ、着ることで、その土地の物語になる服づくりをスタート。地方で紡がれてきた伝統産業の後継者不足問題に意識を向け、Snow Peak Apparelで採用されている生地工場の見学や職業体験などをしながらその本質を伝えていく「LOCAL WEAR TOURISM」も開催した。
Snow Peak Apparel
https://snowpeak-apparel.com
LOCAL WEAR by Snow Peak
https://www.snowpeak.co.jp/sp/localwear/
■取材場所
Snow Peak Tokyo HQ3
https://www.snowpeak.co.jp/
2018年に創業60周年を迎えた、日本を代表するアウトドアメーカー。「自らもユーザーである」という、創業者山井幸雄氏のDNAを受け継ぎ、「人生に、野遊びを。」のコーポレートメッセージのもと、自然と共に生きることにより人間性を回復する、自然指向のライフスタイルの提案、実現を使命に成長し続けている。
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