『菊池雄星、大谷翔平、佐々木朗希、東北の投手にみる。なして才能が続くのか。』
関西人は逞しい。
といっても、これは一般論ではない。スポーツの世界の話である。
たとえばサッカー。本田圭佑がいて、香川真司がいる。いまはサッカー以外の話題で名前のあがっている乾貴士も、東京五輪での活躍が期待される堂安律も関西の出身だ。
野球にしてもしかり。ダルビッシュ有、田中将大、前田健太──いずれも関西の出身である。サッカーにしろ野球にしろ、海外で活躍する選手にはなぜか関西の出身者が多い。人口比でいったらダントツのナンバーワン・エリアになっていなければおかしい首都圏の出身者よりも、はるかに多いのである。
いったい、なぜ? 自分なりに導き出した結論は、関西人のコミニュケーション能力の高さである。サッカーであれば90分。野球であれば3時間前後。一方で1日は24時間、1440分もあるわけで、当然のことながら、プレーしていない時間の方が長いことになる。
言葉がわからないと、この時間が辛い。
わたし自身、30歳の時にスペインに留学した経験があるのだが、学校に行っている時とサッカーを観戦している時以外の時間の使い方に手こずった。日本であればテレビを見たり、読書をしたりということになるのだが、まだインターネットの普及していなかった時代は、何を言っているかわからないテレビを眺めるか、何を書いてあるかわからない新聞や雑誌とにらめっこをするしかなかった。
結果的に、日本から持ち込んだプレステでファイナルファンタジーとドラクエに没頭することで有り余る時間を消費したのだが、まあ不健康なこと極まりない生活だった。アスリートであれば、アウトだろう。
いまになって思うに、当時のわたしに欠けていたのは語学力ではなかった。いや、もちろん語学力も足りなかったのだが、それ以上に、異文化の中に飛び込んでいこう、他人と積極的に関わっていこうとするコミュニケーション能力が足りなかった。それゆえ、夢を持って乗り込んだはずのスペイン生活は、苦いこと、辛いことの方が多くなってしまった。
海外で活躍するアスリートに関西出身者が多いのは、この地域で育ったがゆえに磨かれたコミニュニケーション能力の高さが関係しているのではないか。だから、わたしはそう思っている。実際、専門誌の記者として全国各地の高校を取材した時も、聞かれたことを答えるだけの高校生が多数派の中、こちらの仕事内容に興味をもって話しかけてきたり、他校の情報を聞きたがったりするのは、ほとんどが関西の高校生たちだった。
なので、興味がある。
なぜ岩手は、こうもいいピッチャーを輩出できるのだろう。
図々しいぐらいにコミュニケーションをとってくる子供が多い関西と違い、東北圏では黙ってこちらの質問に耳を傾け、言葉を選びながら答える、というタイプの子が多かった印象がある。サッカーの小笠原満や柴崎岳が、その才能ほどには海外で輝けなかったのは、そうしたおとなしさも関係しているのではないか、とも思っている。サッカーにおいて、他者とのコミュニケーションはプレーヤーとしての生命線でもある。
ところが、メジャーリーグはおろか、日本のプロ野球にとっても決して“才能の泉”ではなかった岩手の野球界は、平成に入ると菊池雄星、大谷翔平という「10年に一度」クラスの逸材を相次いで輩出し、いままた佐々木朗希がそこに続こうとしている。
岩手出身の知人によれば、盛岡あたりの方言では「なぜ」のことを「なして」というのだという。
だとしたら、なして岩手、である。
なしてスポーツ不毛の地と見られることさえあった岩手から、次々と投手の才能が出現したのか。偶然か。必然か。必然だとするならば、その理由はどこにあるのか。
個人的には、菊池雄星の出現が大きかったのではないかという気がしている。彼が現れたことで、岩手の少年たちが一気に志を高くしたのではないか。そのことが、大谷翔平につながったのではないか──。
とはいえ、いまのところは単なる憶測にすぎないし、そもそも、菊池が出現した理由がわからない。オリンピック、パラリンピックが話題を総なめにするであろう今年のスポーツ界だけれど、機会があれば岩手の謎について、ぜひ取り組んでみたいと思っている
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