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baseball2020.08.03

プロ野球開幕にみる、守護神が“ゾーン”に突入する確率を著しく下げてしまった原因とは。

無観客で再開されたドイツのブンデスリーガでは、それまでの常識を根底からひっくり返すような事態が起きた。
ホーム・チームが勝てなくなったのである。

地元で戦う側が圧倒的に有利な立場にあることは、ドイツに限らず、世界のサッカーにおける1世紀以上にわかる常識だった。ぶっちぎりで最下位に沈むチームであっても、ホームでは五分か、それ以上の成績を残すことも珍しくない。少なくとも、アウェーの方がホームより成績がいい、などという事態はまず起こらなかった。

ところが、ガランとしたスタジアムで行なわれたブンデスリーガでは、ホーム・チームが勝てなくなった。どれほど勝てなくなったかというと、通常開催時はリーグ全体で5割以上の勝率だったのが、節によっては9試合のうちの1試合、1割少しにまで落ち込んだ。やや力の落ちるチームが大歓声をバックに奮闘し、優勝候補を相手に大金星をあげる……といったパターンが激減し、順位が上、あるいは状態のいいチームが順当に勝つ試合が激増した。

なぜホームは有利なのか。これまでは、移動の有無や馴染んだ芝生の感覚、敵対していた時代の記憶など、様々な原因が挙げられていたが、今回のコロナ禍ではっきりした。ホームが有利なのは、ただひとえに観客の声援があったから、だったのだ。

とはいえ、こうした事態はまっかくの予想外、というわけでもなかった。サッカーはベンチが好きなタイミングで試合を中断できるスポーツではないため、ひとたび大きなうねりが起きると、それを止めるのは容易なことではない。そして、試合中にうねりを産み出す大きな要因の一つが、場内の雰囲気を決定づける選手を後押しする観客の存在だからである。

ちなみに、遅れて無観客で再開したJリーグでは、ブンデスリーガほどのホーム・チームの失墜は見られなかった。まだ日本には物質的な圧力を感じさせるほどの熱量を放つスタジアムが少ないこと、ヨーロッパに比べるとホーム、アウェーに対するこだわりが強くない選手が多いことなどから、これもまた、ある程度は予想ができたことだった。

予想外だったのは、プロ野球である。

観客の大声援は、チャンスをより大きなチャンスに、ピンチをより深刻ピンチに感じさせる。サッカーにおいては、それが極めて大きな意味を持っており、それがホーム・チーム優位の理由となってきた。

だが、野球の場合、どれほどのピンチになろうが150キロの速球は150キロであり、3割バッターは3割バッターである。サッカーに比べれば、観客の存在が介入する度合いは小さく、ゆえに、無観客、あるいは5000人以下の観客になっても、サッカーほどには試合の傾向や展開に大きな変化は現れないのでは、と思っていた。

ところがどっこい。

バッターの成績はほぼいつも通りだった。先発ピッチャーもまたしかり。好調な選手がいて、不調な選手がいる。勝てるピッチャーがいて、打てるバッターがいる。それ自体は、いつものプロ野球と変わらなかった。

だが、守護神たち、特にセ・リーグの守護神たちは違った。

思うに、試合の最後を締めくくる立場の彼らは、それまで仲間たちがつむいできたリードを守りきるために投入される彼らは、ピッチャーとしてのメカニックな部分に加え、「絶対に抑える! 仲間やファンの期待に応える!」という強烈な使命感を持ってマウンドにあがっているはずである。ファンの声援や罵声をアドレナリンに変え、いわゆる“ゾーン”に突入して打者に立ち向かう。

ところが、ガランとしたスタンドは、彼らが“ゾーン”に突入する確率を著しく下げてしまった。メカニズムはいつも通りでも、内面の炎の熱量はいつもほどではないままマウンドにあがった彼らは、いつものようには試合を締めくくれなくなった。

去年までは“絶対的”と言われることさえあった守護神が、だからなのか、今年はずいぶんと打たれている。7月26日現在、セ・リーグのセーブポイントのトップはDeNAの山崎だが、防御率は優に8点台を超え、昨年は2つしかなかった黒星を、早くも3つつけられている。

そりゃ、ヤスアキ・ジャンプに送り出されるのとそうでないのとでは、気分のノリ方も違うだろうし。

実際、セットアッパーやクローザーを務める選手の中には、モチベーションのあげかたが難しい、とこぼす選手もいるようで、しばらくの間は、守護神たちの受難の時期は続きそうだ。

もっとも、観客がいようがいまいが、打たれたことによる悔しさは変わらないわけで、いま彼らがため込んでいる悔しさ、無念さはスタンドが埋まったときに一気に爆発しそうな予感もする。

ま、阪神ファンとしては、早く大声援をバックに唸りをあげる藤川球児の真っ直ぐがみたいわけで、たぶんに願望が混じった予感ではあのだけれど。

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