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baseball2020.11.10

今シーズンの阪神タイガースに、ほとんど感じられなかった気概とは。

大山が大砲として一皮向けつつある。小幡が大型遊撃手として頭角を現してきた。ファームではルーキーの井上が打点、本塁打の2部門で奮闘している。高校三羽ガラスとして名を馳せた西、及川も順調に階段を登っているらしい。

というわけで、見たいものだけを眺め、聞きたい情報だけに耳を傾けている分には、我らが阪神タイガースの未来はいたって明るい。この原稿を書いている10月下旬の段階ではちょっと中日に水を明けられているものの、まだまだ2位も十分手の届くところにある。

なので満足か?

冗談じゃない!

曲がりなりにも20世紀後半の大暗黒時代を経験しているわたしである。毎年開幕前は優勝を期待して、毎年早い段階でスッパリと諦めるのが人生のサイクルになってしまっている。巨人にこてんぱんにやられるのも……今年が初めてのことではない。

最近では金本監督の最終年が8勝1分け16敗と惨憺たる有り様だったし、借金があわや40に届きそうだった95年に至っては、6勝20敗という凄まじい負けっぷりだった。

ただ、そんな敗北にまみれたファン人生を送ってきた人間にとっても、今年の阪神は残念だった。というか、萎えた。

よく、阪神ファンは熱狂的だと言われる。バルサのファンや、リバプールのファンがそうであるように、目茶苦茶熱い存在だと見られている。

なのに、肝心のチームがちっとも熱くない。

野球の話をするのにサッカーをたとえるに使うのは上手くない、というのであれば、メジャーの例をとってみようか。

『くたばれヤンキース!』というミュージカルやハードロック・バンドまであることからも、かの国における巨人的存在がニューヨーク・ヤンキースであることに異論をはさまれる方はいないだろう。では、阪神的な存在はどこか。これは人によって意見のわかれるところだろうが、いわゆる“伝統の一戦”の相方として見られるのは、ボストン・レッドソックスになってくる。

21世紀に入ってからだいぶ巻き返してきたとはいえ、純粋に優勝回数だけを比較した場合、レッドソックスはヤンキースのそれにはとてもかなわない。ただ、世界中から選手が集まるようになり、かつてのようにニューヨークとボストンの郷土愛がぶつかりあう時代ではなくなってからも、ヤンキース戦に挑むレッドソックスの選手たちからは特別な気持ちのようなものが感じられる。

つまり、ファンも熱いが、選手も熱い。ヤンキースだけには負けられない、との気概がほとばしっている。

今年の阪神には、それがほとんど感じられなかった。

巨人に大きく負け越した18年の金本・阪神は、95年の中村・阪神は、巨人だけに負け越したわけではなかった。チームは最下位。要は、巨人相手だから勝てなかったのではなく、弱かったから勝てなかったのだ。

その点、今年の阪神は、巨人を除くすべてのチームと互角以上の戦いぶりを見せた。言い方を変えれば、巨人だけに極端に弱かった。たとえ優勝を逃すことがあっても、巨人を叩きさえすれば溜飲が下がる人間にとって、これは到底受け入れがたい。

でも、考えてみれば、それも仕方がないことなのかもしれない。

かつては江川がそうだった。長野もそうだったし、菅野もそうだった。巨人には、何年かに一度、巨人でなければプレーしたくないと我を貫き通す選手が入団してきた。巨人でプレーすることに、特別な意味を見出す選手たちが点在してきた。

いまの阪神に、そういう選手はいるだろうか。縦縞のユニフォームを着ることに特別な意味を見出し、巨人を倒すことに無上の喜びを感じる選手がどれだけいるだろうか。

それが、見えんのですわ。

もともと阪神ファンである必要はない。打倒巨人に燃えた星野仙一さんは元来は巨人ファンだったと聞くし、ミスタータイガースと呼ばれた掛布雅之さんにとっての憧れは、同郷のスーパースター長嶋茂雄さんだった。

ただ、縁あって阪神に入団したのであれば、ファンの宿願を現実のものにしようとする心意気は持ってほしい。そのすべてをかなえるのが難しいというのであれば、せめて巨人には一太刀浴びせんとした先達の気迫は見習ってほしい。

今年のように巨人戦でぼろ負けを喫しておきながら、他のチーム相手に星勘定だけはトントンに持っていく……なんてチームは、正直、応援する気が萎える。

今年一番ショックだったことは、藤川が今季限りでの引退を発表した際、そこで語られた巨人戦への熱い思いに、西が感銘を受けたと言っていたことだった。

え?それまで巨人戦について何も思ってなかったん?……というのは、まあ、仕方がない。問題なのは、巨人戦になると目の色を変えて、あ、やっぱり伝統の一戦って特別なんや、と西に感じさせる選手が誰もいなかったらしいってこと。

これは哀しい。

いくらファンが熱くなったって、肝心の戦う選手たちが何も感じていないのであれば、なんの意味もない──。

そんな途方もない徒労感を覚えつつ、でも来年は中日から大野が来てくれちゃったりするのかな、巨人戦相手に無双してくれちゃうのかな、と期待してしまう学習能力のないわたしである。

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