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baseball2021.03.01

阪神タイガースの今シーズン優勝に必要となる、“慈愛に満ちた阪神愛”とは。

今年の阪神、というかこれからの阪神、カギを握るのは「このわたし」かもしれない。去年の日本シリーズを見て以降、かなり本気でそう思うようになった。

このオフ、阪神フロントの活躍には目ざましいものがあった。FA宣言した大野雄大の獲得には失敗したものの、守護神スアレスとの再契約に成功し、韓国からはロハス、アルカンタラを連れてきた。ネットには「これで優勝できなかったら矢野監督以下、コーチ陣は全員クビ」との声もあるが、なるほど、そう言いたくなる気持ちもよくわかる。

しかも、フロントがテコ入れをはかったのは戦力面だけではなかった。なんとなんと、守備の名手として知られた元巨人・中日の川相昌弘氏を臨時コーチとして招聘するという、超掟破りの一手を打って課題だった守備力のアップに手をつけた。

正直、春のキャンプだけの臨時コーチにあまり大きな期待を寄せるのはいかがなものかと思う。ただ、阪神以上にミスが許されないチームで自分の役割をきっちりこなし続けた方と接するのは、間違いなく、若い選手たちにとって大きな財産となる。わたし自身、川相さんにはインタビューをさせてもらったことがあるが、すべての発想が「成功」という目的から逆算されているように感じられたのが新鮮だった。

それに、万が一川相さんの指導が阪神の選手たちにいかなる化学反応も呼び起こさなかったとしても、今年の阪神の守りについて、わたしはだいぶ楽観的である。

なぜ去年の阪神はエラーが多かったのか。選手は絶対に口にしないかったが、理由の一つに、阪神園芸が関係している、という見方がある。

阪神園芸と言えば、グラウンドを整備させたら日本一ともされる集団だが、昨年、彼らには普段と違ったリクエストが出されていたという。

とにかく、試合を中止させないでくれ──。

ご存じの通り、昨年のシーズン開幕はコロナ禍の影響もあって大きく遅れた。同じように開幕が遅れたメジャーリーグはたった半分以下にまで試合数を減らしたが、NPBは120試合の予定を組んだ。

日本シリーズというゴールが決まっている以上、各チームに求められたのは予定通りの試合消化だった。そこで極めつけの難題を突きつけられたのが阪神園芸だった、というわけである。

屋根に守られたドーム球場と違い、甲子園は雨の影響をダイレクトに受ける。だが、昨年に関しては、例年であれば中止になる状況であっても試合ができるグラウンド作りを彼らは求められた。例年を遥かに超える水はけの良さを求められた。

結果、甲子園の土の配合が変わった。いつもより少し、粗めになった。

阪神園芸に対して深い感謝と連帯意識を持つ選手たちは、そのことを口外しなかった。いつもとは微妙に違うグラウンドの状態がエラーに増加につながっていると言ってしまえば、責任を阪神園芸に押しつけているように受け取られる可能性があるからである。

だが、いまのところ予定通りに開幕されるらしい今年は、必要以上に水はけに重点を置いたグラウンド作りをしなくていい。阪神の選手たちは、いつもの甲子園でいつものように転がってくるゴロを処理できる。

普段、わたしが阪神について書くことは予想や予測というよりほぼ願望なのだが、今年、エラーの数が減るということはかなりの自信をもって言い切っておきたい。もしシーズンが終わった時になって阪神のエラーが減っていなかったら、読者の皆さん、思う存分わたしのことを罵っていただいて結構である。

ロハスは打つ(願望)。アルカンタラは勝つ(願望)。大山はホームラン王を獲得し(願望)、藤浪は完全復活を遂げる(願望)。中日は大野が残留し、メジャーに行くはずだった菅野はなぜか今年も巨人にいる。冷静に考えてみれば、すべての願望が現実になるか、いまは予想もしていない新戦力の活躍がなければ、阪神が優勝するのは簡単なことではない。

ただ、確実にチームを強くする、というか、勝たせる方法はあるのではないか。

以前、03年と05年の優勝を経験している阪神の選手と酒を飲んだ時、ため込んだ怒りが溢れ出る場面に遭遇したことがある。

「FA獲得したら、巨人に行ってやろうか。そう思ったこともあったんですよ」

彼の怒りが向けられていたのは、ファンに対してだった。言われて耳が痛かったが、確かに、熱狂的なことで知られる阪神ファンは、ひょっとしたら12球団一自球団の選手にも厳しい。成績の芳しくない選手の名前がコールされれば、あからさまな疑念の気配が甲子園を包み、結果を出せなかった選手には容赦のない罵声が降り注ぐ。

その選手は、そんな阪神ファンにうんざりしていた。いや、阪神ファンにうんざりしていたということは、「このわたし」に対してもうんざりしていた、ということになる。

だから、昨年の日本シリーズは衝撃だった。

終盤に出てきた投手が先頭打者にフォアボールを出す。甲子園であれば確実に不穏な空気が立ち込める状況で、福岡のファンは拍手を、声援を送っていた。ピンチを招いた選手を罵るのではなく、頑張れ、一緒に乗り切ろうと肩を押していた。

罵声と拍手、どちらが選手の力になるだろう。

だから決めた。阪神ファンという大きな括りではなく、とりあえず今年は、「このわたし」から始めることにする。ピンチになっても罵らない。調子の悪い選手が出てきても「まじかよ」とか嘆かない。

このわたし。無理やり英語にすればThe I。ジ・アイ。

慈愛に満ちた阪神ファンに、今年のわたしはきっとなる。

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